New York Times紙が購読者1,036万人

by Shogo

New York Times紙は、2023年末時点で、第 4 四半期に有料デジタル購読者が 30 万人増加し、購読者数は1,036万人になったと発表した。そのうち970万人がデジタル版のみだ。紙の新聞は66万部ということだ。さらに、2027 年末までに購読者を 1,500 万人にするという目標を掲げている。

そして、決算数字としてデジタル購読の年間収益が初めて 10 億米ドル を超えたと同社は発表しており、他の新聞社が部数を減らしたり、発行を停止している状況で、唯一の成功している新聞社だ。

日本新聞協会の発表によると、2022年の新聞発行部数は、全紙合わせて3084万部だった。これは、1997年の5376万部から、2300万部が減少したということになる。読売新聞は、発行部数1000万部を超えていたが、2020年には約704万2250部まで減少し、2023年9月の読朝刊発行部数は621万部となっている。三分の一の部数が減少した。

この25年ほどの新聞の発行部数の減少は、インターネットとスマホの普及と軌を一にしている。デジタル化で情報のアクセス手段が多様化し、オンラインニュースサイトやSNSなどが競合となった。このために紙媒体の需要が減少している。その理由は、新聞の購読者の高齢化と若年層の離れが進み、紙媒体の新聞の需要は大幅に減少したからだ。

このような環境下で、どうしてNYT紙だけが購読者を増やして成功しているのだろうか。ニューヨークに住んでいた30年前にはNYT紙の部数は100万部を少し超えるだけのニューヨークの地方紙だった。アメリカには、日本のような全国紙はなく、限られた読者を対象としたウォール・ストリートジャーナルやUSA Todayなどだけで、ほとんどの都市や街に地方紙があった。

NYT紙が、デジタル購読者を増やしたのは、新聞業界全体の苦境が背景にある。新聞がなくなった街や都市では、NYT紙をデジタル購読をするということになったと思われる。紙媒体という頸木から解き放たれたことで、NYT紙は全国紙となった。さらに、英語という言語のために、アメリカだけでなく、世界がマーケットとなったことが、デジタル購読者の増加の要因だろう。

これには、NYT紙のジャーナリズムの長い歴史があるからだ。ピューリッツァー賞132回受賞という圧倒的な実績もある。これが、強力なブランドとしての地位を確立し、信頼性と品質の象徴となり、アメリカ国内や海外からも新規読者の獲得に役立っている。

しかし、それではなく積極的なデジタル化戦略が奏功していることも大きな要因だ。NYT紙は、2011年に電子版の有料化に踏み切った。それまでの広告モデルを改めてサブスク・モデルを採用した。ここから、広告収入だけでなく、サブスク購読、イベント開催、寄付など、多角的な収益モデルを構築している。そして、スマホアプリの開発や音声ニュース配信など、様々なプラットフォームでコンテンツを提供することで、幅広い読者を獲得してきた。この辺りの取り組みが日本の新聞社に無い点だ。電子版が唯一、成功している日本経済新聞も、NYT紙のようなデジタル購読者を集めることはできていない。

NYT紙のデジタル戦略の要素は下記のように分析できる。

1. ペイウォール

NYT紙は、2011年に記事閲覧の有料化を導入し、デジタル収益の大幅な増加に成功した。当初は読者離れが懸念されたが、質の高いジャーナリズムへの需要と、メタード・ペイ・ウォールと呼ばれる無料記事の制限を設けることで、新規登録者を増やし、その無料会員を有料購読者数に変えていった。この際に、データ分析によるダイナミック・ペイウォールと呼ばれる、会員分析に基づいて最適な無料記事の制限を設けることで、読者の有料購読への誘導に成功している。

また、会員のニーズに合わせた複数の購読プランを提供することで、幅広い読者を獲得している。

2. 機械学習

機械学習も有用な要素だ。読者の興味関心に基づいて、最適な記事を配信することで、読者エンゲージメントを高めている。コンテンツの表示も読者の閲覧履歴に基づいてパーソナライズされた配置が行われるようだ。この技術は、広告配信では当たり前だが、メディア全体に適用することで読者の満足を高めることができる。

3. 積極的な新規顧客獲得

NYT紙は、様々な方法で新規顧客を獲得している。 Facebook、Instagram、Xなどのソーシャルメディアで積極的に情報を発信し、潜在顧客へのリーチを拡大している。さらに、その際に興味関心に合わせたニュースレター登録を呼びかけ、配信することで、読者との接点を増やし、購読への誘導に繋げている。

4. 音声コンテンツ

ニュース記事の読み上げや、オリジナルのポッドキャスト番組を配信することで、ながら聞き需要を取り込み、読者層の拡大を図っているそうだ。2020年には音声ニュースアプリ「The Daily」を立ち上げている。車社会のアメリカでは音声コンテンツは重要だ。

5. ビデオコンテンツ

ドキュメンタリーやインタビューなど、オリジナルのビデオコンテンツを制作・配信している。2020年には、ドキュメンタリー映画「Framing Britney Spears」が大きな話題になった。これは、日本でも同様だが、新聞社の電子版では映像も有用だ。だが、日本ではNYT紙ほど力を入れていない。

6. インタラクティブコンテンツ

読者が記事の内容を深く理解できるような、インタラクティブなコンテンツを制作している。これも、デジタルを活かしたコンテンツだ。例えば、2020年には、新型コロナウイルス感染症の拡大状況を可視化したインタラクティブマップを公開し、高い評価を得た。

7. コミュニティ

読者同士が交流できるオンラインコミュニティを運営することで、読者エンゲージメントを高めている。2020年には、ニュース記事に関する議論の場となる「The New York Times Opinion Forum」を立ち上げた。

8. 教育・イベント事業

オンライン講座やイベントを開催することで、新たな収益源を確保している。2020年には、オンライン教育プラットフォーム「NYT Learning Hub」を立ち上げた。

9. メタバースへの進出

2022年には、メタバースプラットフォーム「Decentraland」にバーチャルオフィスを開設した。今後、メタバース上でニュース記事の配信やイベント開催などを行う計画だそうだ。

これらの施策は、NYT紙がデジタル時代におけるメディアのあり方を模索し、新たなビジネスモデルを構築しようとしていることを示している。これが、新聞不況の時代に、ニュース機関として成功してる理由だ。

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