AI画像生成技術の普及

by Shogo

AIを活用した写真の加工・生成技術がスマホなどで使われるようになっている。今度はMicrosoftもPCに 「Generative Erase」機能(生成技術による消去)をWindows 11とWindows 10の写真アプリにも導入する。これで、多くのPCを使って、写真の中の不要なものを消すことを始めるだろう。

デジタル画像編集の始まりは古い。1980年代、最初のデジタル画像編集ソフトウェアとしてMacPaintが登場した。これは主にプロの写真家やデザイナー向けで、基本的な切り取り、編集、色調整などの機能が使えた。デジタルだから当然だが、当時のデジタル写真は原始的なもので、今から考えれば遊びのようなものだった。

そして、1990年に登場したAdobe Photoshopは、デジタル画像編集の世界に革命をもたらした。レイヤー、フィルター、効果など、高度な編集オプションが可能になり実用的なものだった。だが、まだデジタル写真そのものがフィルムより遥かに低い画質だったために実用化というレベルでは無かった。しかし、デジタルカメラの性能が上がることにより、2000年ころから実用のレベルに達したと思われる。この頃から徐々に写真がフィルムからデジタルに移行してゆく。

そして、2010年代に入ると、AI技術が画像編集ソフトウェアに組み込まれ始めた。これにより、画像の自動修正、コンテンツ認識塗りつぶし、顔認識などの機能が実現した。

そして、生成AIによる画像生成技術が現れる。AI技術の発展は目覚ましく、画像生成技術にも適用されている。これは、従来のPhotoshopなどの画像編集ソフトとは異なり、AIの力でゼロから画像を創造する。この技術は、写真編集、デザイン、エンターテイメントなど、様々な分野で大きな変革をもたらすだろう。

画像生成技術は、主に以下の2つの方法で画像を生成する。

まず深層学習がある。これは、AIに大量の画像データを学習させ、そのデータに基づいて新しい画像を生成する方法だ。もうひとつは、生成モデルで、AIがランダムなノイズから画像を生成し、その画像を評価しながら徐々に改良していく方法だ。これらの技術を用いて画像を生成・編集する。

画像生成技術を実際に適用するアプローチも大きく2種類に分けられる。一番目は、AIによる自動修正・補完の画像編集型だ。これは、既存の画像の一部をAIが自動的に修正・補完する。写真の不要な部分を消したり、背景を自然に変化させたり、人物の表情を調整したりすることができる。2番目は、ゼロからの生成型だ。テキストや簡単な絵から、AIが完全に新しい画像を創造する。風景、人物、物体など、様々なジャンルの画像を生成することができる。

AI画像生成技術を使った代表的なものとしてとして、OpenAIのDALLE-3やMidjourney、Satable Difusionがあり、この2年ほど盛んに使われ実用レベルに達している。

これらの、画像生成技術は、私たちの生活に密接に関わる様々な分野で活用されるようになるだろう。まず、写真編集だ。誰でもプロ並みの仕上がりにすることができる。写真の不要な部分を消したり、背景を自然に変化させたり、人物の表情を調整したりすることができ、これまでのようにPhotoshopを使った写真編集のスキルがなくても、簡単にプロ並みの画像を作ることができる。

また、デザイン:効率化と新たな表現の可能性がでてきた。ロゴ、イラスト、ポスターなどのデザインを、AIの力を借りて効率的に作成することができる。また、プロンプトを工夫することにより独創的なデザインを生み出すことも可能となっている。

さらに、エンターテイメントも変えてゆくだろう。ゲームやアニメーション、映画・テレビ、キャラクターなどを、AIによって自動的に生成することができる。これまで不可能だった表現が可能になり、エンターテイメントの世界を大きく広げる。

そして、今後は医療、建築、科学、教育など幅広い分野での活用が考えられる。

今回のMicrosoftの「Generative Erase」はWindowsのPhotosアプリに組み込まれた。AIを使って写真から不要な要素を削除することが可能だ。これで、AI画像生成技術を使える人が桁違いに増える。

同様のサービスは数多くある。Googleのスマホ・アプリのMagic Editorは、写真内の人物やオブジェクトを移動し、空の色を変えるなど、写真の内容を大きく変更できる。これにより、写真の意味自体を変えることが可能になっている。

プロも使うAdobeのPhotoshopでも、生成塗りつぶし機能が追加された。Adobeの画像生成AI 技術のFireflyをPhotoshopに組み込み、ユーザーは、テキスト入力によって画像を生成・編集することが可能だ。使ってみたが、これまでのように手作業でマウスなどを使って、少しづつ編集するのでなく、簡単に写真の編集が可能だ。これは画期的な体験だ。例えば、写真の背景が足りない場合、テキストの指示で背景を追加できる。これは、写真の構図を撮影時と違ったものにできるので、ありがたい機能だ。また、オブジェクトの追加も可能だ。「白い犬を追加」と入力すると、写真に自然な形で白い犬が現れる。まるで、魔法だ。

AI画像編集の高度化により、今後は多くのことが変わってゆく。

AI技術により、時間を要する編集作業が自動化され、編集プロセスが大幅に加速するだろう。また、 高度な編集技術がより多くの人々に利用可能になる。これまでのように、専門的な知識がなくてもプロレベルの編集が可能だ。Photshopのレイヤーやブラシの使い方を学んできたが、これからは、その学習は不要だ。

この結果、写真が大きく変わる。例えば、広告関連では商品の撮影で、背景を追加したり、色調を調整するなどの作業がAIによって簡単に行えるようになり、商品の魅力を高める写真を容易に制作できる。つまり、AI画像編集技術により、広告やマーケティング素材の制作プロセスが大幅に簡素化される。その結果、AIを使用して、顧客の好みや関心に合わせて画像をカスタマイズすることで、より個人的で魅力的な広告を作成できるだろう。広告のパーソナライズ化がさらに進む。

また、ポートレート写真において、背景の変更や被写体の位置調整などがAIの力で瞬時に行えるために、プロの写真家のニーズが低下するだろう。

ただし、良いことばかりでない。写真の真実性と倫理的な問題が課題としてあげられる。まず、写真から不要な要素を削除したり、背景を変更することで、写真が持つ「記録としての真実性」が損なわれる。そして、倫理的な問題だ。人物の外見や環境を改変することからは大きな影響がでるだろう。例えば、人物の容姿を無断で変更することは、その人の同意なしにイメージを操作することになり、フェイクニュースの素材となりえる。その意味で、ジャーナリズムにも大きな課題が生まれる。ニュース写真において、事実と異なる内容を提示してしまうリスクがある。例えば、デモの参加者数を増やしたり減らしたりすることで、事実を歪める可能性があるからだ。

先の広告分野での写真でも同様のことが考えられる。商品広告において、実際の商品と異なるイメージを提示することは、消費者を誤解させることにつながり、法的な問題を引き起こす可能性があるからだ。

このように、AIによる画像編集技術は大きな可能性を秘めているが、同時に写真の真実性の喪失や倫理的な問題、商業利用に関する制限、さらには著作権の問題といった課題も抱えている。

このようなことを考えると、写真の本質的価値がさらに変わってゆく。記録としての写真の意味は失われる。伝統的に、写真は特定の瞬間や現実を記録する手段として使われてきた。AIによる編集は、この「記録としての真実性」を揺るがせる。かつては、犯罪現場の写真はフィルムカメラで撮影しなければいけなかったそうだが、それは、その記録の不可変性をフィルムによる写真が持っていたからだ。

そして、芸術としての写真も変わる。AI編集技術は写真をより芸術的な形で表現する道を開く。これにより、写真は単なる記録から、創造的な表現の手段へと進化するからだ。絵画のように現実の被写体が不要で、絵筆を持つように自由に創造できるようになる。その結果、写真と絵画の区別はなくなってゆくのかもしれない。

AIの進化は、写真編集に新たな創造性と柔軟性をもたらし、これまでにない方法での表現が可能になると、いい面と悪い面がある。フェイクニュースのような悪用を考えると、生成AI技術が使われた画像には電子透かしのようなデータを埋め込むべきだろう。

AIによる画像編集技術が普及するにつれ、今後は私達も、 写真の真実性に対してより慎重にならなければならない。写真の「リアル」か「AI編集」かを見分ける能力が求められるのだろう。

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