Google検索の進化は、検索を大きく変えようとしている。その一つの例は、Googleの「AIモード」だ。従来の検索の関連情報のリンク表示とは異なり、AIモードはユーザーの複雑な問いに対してAIが直接的かつ統合的な回答を生成する新しい仕組みで、検索を再定義しつつある。
これまでAIモードは一部のユーザーに限定された待機リスト制で提供されてきたが、2025年5月、Googleは米国で18歳以上のSearch Labs参加者であれば誰でも利用できるように門戸を広げた。この動きは、Perplexity AIやOpenAIのChatGPT Searchなど、急激に進化するAI検索サービスへの対抗策としての側面も強く、GoogleがAI検索競争の主導権を確保しようとする明確な意思表示といえる。さらに、米国内の一部ユーザーには検索画面上部にAIモード専用タブが表示される限定テストも始まっており、将来的にはAIモードが通常の検索体験に統合されるのかもしれない。
AIモードの機能
AIモードの進化は単なる情報取得ツールにとどまらず、ユーザーの実際の行動を支援する方向へと進化している。特に注目すべきは、視覚的な「プレイスカード」と「プロダクトカード」の導入だ。従来のAIモードでも詳細な説明や比較情報を得ることはできたが、そこから次の行動、たとえば店舗への訪問や商品の購入などに移るには、再度別の検索やアクションが必要だった。しかし新機能の導入によって、アクションが一つ減る。
例えば、地元のレストランや店舗についてAIモードで検索すると、評価やレビュー、営業時間、混雑状況などがリアルタイムで反映された視覚的なカードが表示される。さらに、店舗への電話や道順の確認もワンクリックで可能だ。
商品検索の場合も、リアルタイムの価格や在庫状況、画像、配送詳細、近隣店舗の在庫情報などが含まれたプロダクトカードが表示され、直接販売サイトへのリンクも用意される。たとえば「5万円以下のAndroidタブレットでおすすめは?」という具体的な質問に対して、単なる推奨リストではなく、アクション可能なカードが提示される。これは、今までの、お勧めのタブレット発見、それから更に販売サイトを探すという手間が大幅に省ける。
こうした機能は、Googleが持つ膨大で最新のローカルビジネス情報や、全世界の店舗から450億件以上の商品リストを追跡し、毎時間20億件以上を更新する「Shopping Graph」という技術基盤によって支えられているそうだ。このデータベースがあるからこそ、AIモードはユーザーに信頼性の高い最新情報を提供できる。
また、デスクトップユーザー向けには「履歴パネル」機能も追加された。複雑な検索やプロジェクトが一度で完結しない場合でも、過去のAIモードでの検索履歴をサイドパネルに表示し、クリック一つで以前の情報を呼び出せるようになる。これにより、途中から質問を続けたり、タスクを再開したりすることが容易になり、検索の継続性が大幅に向上する。
AI OverviewsとAIモードの違い
AI Overviewsは、ユーザーが検索クエリを入力した際に、従来の検索結果の上部にAIが自動的に要約した情報を表示する機能だ。これは「AIによる概要」とも呼ばれ、検索結果の一部として、複数のウェブサイトから抽出・要約された要点を素早く提供する。ユーザーはリンクをクリックせずとも、主要な情報を短時間で把握できるのが特徴だ。AI Overviewsはあくまで「補足的な要約」であり、従来の検索結果リストや広告などと並んで表示される。
一方、AIモードは、Google検索画面の「すべて」「ニュース」「画像」などのタブと並ぶ新しい「AI Mode」タブとして表示される。このモードを選択すると、従来のリンク集形式の検索結果ではなく、AIが生成した会話型の回答ページが表示される。Gemini を活用し、複雑な質問や比較、推論が必要な問いにも多段階の思考を経て、より詳細かつ文脈に応じた回答を生成する。さらに、ユーザーは追加の質問(フォローアップ)を会話形式で重ねることができ、検索体験自体が対話的に行うことが可能だ。
つまり、AIモードはより広範なクエリに対応し、ユーザーが能動的にAIによる回答をオンデマンドで生成できるという点で、より積極的な情報検索のインターフェースといる。
オンライビジネスへの影響
AIモードの普及は、ユーザー、メディア、マーケターの三者にさまざまな影響を及ぼすだろう。ユーザーにとっては、特にショッピングや旅行計画、複雑なトピックの調査など、複数の情報を比較検討する際に、AIモードが統合された回答を提供することで、多くのウェブサイトを巡回する手間が省け、より迅速に必要な情報を得て次の行動に移ることが可能になる。
一方で、メディア・コンテンツ発信者にとっては、AIモードがユーザーの検索意図に沿った回答をAI自身が生成し、必要な情報を直接提供してしまうため、ユーザーが情報元のウェブサイトを訪問する機会が減少する懸念もある。ウェブサイトのトラフィック減少は広告収入やビジネスの生命線に直結するため、この変化は大きな課題となる。
しかし、すべてのメディア・コンテンツ発信者にとって逆風となるわけではない。特に、プレイスカードやプロダクトカード機能の強化は、ローカルビジネスやEコマース事業者にとって新たな機会となる。ローカルビジネスの可視性はGoogle Business Profilesの情報充実に左右され、正確で魅力的な情報を登録している店舗ほどユーザーの目に留まりやすくなる。Eコマース事業者はShopping Graphへの適切な商品データ提供や、価格・在庫情報のアップデート、魅力的な商品画像や説明が重要となる。
こうした変化はSEO戦略にも影響を与えます。従来のキーワード最適化に加え、会話型検索への対応や、複数の問いを重ねる会話の流れの中で自社情報や商品がAIモードで適切に評価されるかが重要になる。AI検索時代におけるSEO戦略の再構築が求められている。
AIモードの履歴パネル機能の導入は、ユーザーの検索行動が単発的ではなく、複数ステップや対話を含む「会話ベース」へ移行するということだ。マーケターは、個々のキーワードだけでなく、ユーザーがどのような文脈で一連の質問をするかを考慮したコンテンツ戦略やSEO戦略を練る必要がある。
GoogleのAI戦略
GoogleのAI戦略は、生成AIモデル「Gemini」と、情報探索に特化したAIモードを使い分けながら、全体でAI活用を進めている。AI Overviewsと同様の段階的なロールアウト戦略も、ユーザーの反応を見ながら慎重にAI機能をコアな検索に統合していくGoogleのアプローチを示している。検索という主要な事業価値を毀損しないことを優先して慎重なAI導入ということのようだ。
今回のAIモードの開放と機能強化は、今後SEOマーケティングに大きな変化をもたらすだろう。GoogleがAIモードをSearch Labs外で限定的にテストし始めたことは、実際のユーザー利用とフィードバックをもとに、将来的にAIモードをGoogle検索の標準機能として提供するかどうかの判断材料とする重要なステップと考えられる。検索連動型広告への影響も重要な指標なのだろう。
GoogleのAIモードは従来の検索体験を根本から変える可能性を持つ強力なツールだ。待機リスト撤廃と機能強化によって普及が加速し、ユーザーの情報収集スタイルやウェブサイトのトラフィック、オンラインビジネスの在り方に大きな影響を与えるだろう。メディア・コンテンツ発信者やマーケターは、Google Business Profilesの最適化やShopping Graphへのデータ提供、会話型検索を意識したコンテンツ戦略など、新たな検索環境に適応するための戦略がますます重要となる。