元TwitterのX社のCEOであるリンダ・ヤッカリーノが、パリで開催されたVivaTechカンファレンスにおいて、同社のクラウドソースによるファクトチェック機能であるCommunity Notesを新聞社やその他のプラットフォームと共有できる可能性があると述べたそうだ。
Community Notesは2021年にXで導入された機能で、ユーザーがお互いの投稿をファクトチェックできるようにするものだ。ボランティアが誤解を招く可能性のある投稿に注釈を付け、他のボランティアがその注釈に投票し、アルゴリズムがどの注釈を一般に公開するかを決定する。
ヤッカリーノは、このシステムは「偏見を排除する」ことができ、現在50万人以上のボランティアが貢献していると述べたと報道されている。確かにクラウドソースによるファクトチェック機能というのは良いアイディアと思われる。
一方で、イスラエルとハマスの戦争のような論争の的になるトピックでは、科学や医療情報のファクトチェックほど効果的ではないと考えられる。論争になるだけで、何も生み出さないと思われるからだ。X社のオーナーであるイーロン・マスク氏は2022年の買収以来、Community Notesをデマ対策のツールとして、時には主流メディアの代替手段になる可能性があるとして、熱心に推進してきた。
Community Notesは透明性を重視しており、全ての投稿は毎日公開され、ランク付けアルゴリズムは誰でも検証できるようになっている。多様な視点からの合意形成を重視し、多数決ではなく、過去に意見の相違があった投稿者同士の合意を必要とすることで、一方的な評価を防ごうとする狙いで運営されている。
Community Notesのようなクラウドソーシングは、不特定多数の人々に業務を委託し、その成果を活用する手法のことだ。インターネットの普及により、世界中の人々の知恵や時間を活用できるようになったことで注目を集めている。クラウドソーシングには以下のようなメリットがある。
- 多様な視点やアイデアを得られる 様々なバックグラウンドを持つ人々から新しい発想を得られる
- コストを抑えられる 社内で人材を雇用するよりも安価に業務を委託できる
- スピーディーに結果を得られる 短期間で多くの人々から成果を集められる
- 柔軟にリソースを活用できる。 必要な時に必要な分だけ労働力を確保できる
しかしながら、クラウドソーシングには課題もある。論争の的になるトピックでの効果には課題もあるのは確実だが、それ以外にも課題は多い。
- 品質管理が難しい 不特定多数の人々に業務を委託するため、成果の質にばらつきが出る可能性がある
- 機密情報の漏洩リスクがある 機密性の高い情報を扱う際には注意が必要
- コミュニケーションが難しい 言語や文化の違いからコミュニケーションに齟齬が生じる可能性がある
- 参加者の権利保護が難しい 公正な報酬の支払いや知的財産権の帰属などの課題がある
だが、インターネットが普及したことにより、クラウドソーシングの成功例もたくさんあり、実際に様々な分野で活用されている。
- Wikipediaの編集 世界中のボランティアが協力して百科事典を作成
- クラウドファンディング 個人や団体がインターネット上で資金を募る
- デザインコンテスト 企業がロゴなどのデザインを一般から公募する
課題もあるが、Wikipediaの編集やクラウドファンディングなど、様々な分野での活用事例が多く、その機能や実用性は証明されている。Community Notesのようなクラウドソーシングで、ユーザー主導のファクトチェックにより、誤解を招く情報に文脈を加えることを目指す機能は、これからの生成AIによる情報乱造時代に求められる機能だ。これが、機能するればデマや偽情報の流通といった、今後予想される問題に対処できるだろう。
X社のCommunity Notesが、他のクラウドソーシングと同じような成功事例になれるかどうかは、やはりユーザーの熱意とX社がユーザーのモチベーションを上げられるかにかかっているだろう。