TikTok禁止による広告費再配分

by Shogo

アメリカでのTikTok禁止が現実のものとなる可能性が高まってきた。この禁止措置は、TikTokの親会社である中国企業ByteDanceが米国内での事業を売却しない限り、アプリの使用を全面的に禁止するというものだ。この動きは、国家安全保障上の懸念から発生したものであり、アメリカ政府はTikTokが中国政府によるデータ収集や情報操作に利用される可能性を指摘している。しかし、この禁止措置は単なる政治的・安全保障上の問題にとどまらず、デジタル広告市場全体に大きな影響を及ぼすと予測されている。

eMarketerによる分析によれば、TikTokがアメリカで禁止された場合、その広告費は他のプラットフォームに再配分されることになる。特にMeta(InstagramやFacebook)やGoogle(YouTube)が大きな恩恵を受けると予測されている。2025年には、TikTokで使われていた広告費の50%以上がこれらのプラットフォームに流れる見込みだ。

具体的な再配分率は以下のとおり

  • Instagram: 22.4%
  • Facebook: 17.1%
  • YouTube: 10.7%
  • その他のソーシャルメディア(Snapchat, Pinterest, Redditなど): 18.3%
  • コネクテッドTV(CTV): 12.9%
  • その他のデジタル広告チャネル(検索広告、小売広告など): 18.6%

このような再配分は、MetaとGoogleが、これまでTikTok対策で、短尺動画コンテンツ(ReelsやYouTube Shorts)への投資を強化していることとも関連している。これらのプラットフォームは、TikTokユーザーや広告主を引きつけるための準備を進めているそうだ。

さらに、広告取引にも影響が出そうだ。TikTok禁止後、短尺動画フォーマットへの需要増加により、Instagram ReelsやYouTube Shortsなどでの広告単価(CPM)が上昇する可能性がある。特に大手広告主がこれらプラットフォームに広告費を集中することで、中小企業が広告の入札で競争力を失う可能性が高まる。

TikTokは多くの中小企業にとって重要なマーケティングチャネルだ。TikTokを通じて顧客基盤を拡大し、大きな収益を上げていた企業も少なくない。しかし、禁止措置によりこれら企業は新たなプラットフォームでゼロから戦略を構築する必要がある。

TikTok禁止は、多くのインフルエンサーやクリエイターにも深刻な影響を与えるとされている。これまでTikTokで収入を得ていたクリエイターたちは、新たな収益源を求めて他のプラットフォームへ移行する必要がある。しかし新しいプラットフォームでは、既存のフォロワー基盤の喪失やアルゴリズムによる紹介の機会が減少するため、多くの場合その移行は容易ではないと想像できる。

eMarketerは、MetaとGoogleは、TikTok禁止による最大の受益者となると指摘している。Meta のマーク・ザッカーバーグCEOによれば、Instagram Reelsはすでに同プラットフォーム上でユーザー時間の50%以上を占めており、このトレンドはさらに加速すると考えられる。また、GoogleもYouTube Shortsを強化しており、月間20億人以上のログインユーザーがこのフォーマットを利用している。

しかし、これはTikTokが禁止された場合のシナリオで、別のシナリオでは、中国政府がTikTokをイーロン・マスクへの売却を仲介するという噂まで出ている。この場合には、アメリカでTikTokが存続するので、eMarketerの計算は無意味になる。

TikTok禁止は単なる一つのアプリへの措置以上に広範な影響を持つ出来事になるだろう。特にデジタル広告市場では、禁止された場合には、広告費やクリエイター・エコノミーでは新たな勢力図が描かれることになる。政治が経済に大きな影響を与えるという事例の一つになりそうだ。

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