「X」(旧Twitter)が提供を予定している新しい決済サービス、X Moneyは、2025年に正式リリースされる予定だ。このサービスの最初のパートナーとして、Visaとの提携が発表された。この提携を通じて、ユーザーがデビットカードを利用して即座に資金をXウォレットに追加し、ピアツーピア(P2P)決済や銀行口座への即時送金を可能にする。また、X Moneyはクリエイターがプラットフォーム上で収益化した資金を直接管理できる仕組みも提供する予定だという。
イーロン・マスクは、このサービスを「スーパーアプリ」への第一歩と位置づけており、中国のWeChatのように、メッセージング、SNS、決済機能を統合した「すべてができるアプリ」を目指している。
金融機関とテクノロジー企業の連携が加速している。X MoneyとVisaの提携はその典型例である。AppleやGoogleも金融や決済に取り組んでいる。Appleはゴールドマン・サックスと提携し、Apple Cardを通じてキャッシュバックやデジタルウォレット統合を提供。また、Googleはシティバンクと協力し、Google Pay内で利用可能なPlexアカウントを展開している。これらの連携は、金融サービスの利便性向上やデータ活用による新たな価値創造を目指している。テクノロジー企業のエコシステムに金融・決済が中核になってきているイメージだ。
楽天が金融に中心に通信と物販の楽天経済圏を構築し、ドコモも銀行の買収により、同じような経済圏の確立を目指している。これらの動きはイーロン・マスクが推進するX Moneyのスーパーアプリ構想と多くの共通点を持っている。
楽天は、「楽天カード」、「楽天キャッシュ」を中心に、電子マネー、投資、電子商取引を統合したエコシステムを構築。楽天証券との連携により、キャッシュを使った投資信託積立が可能となり、日常支払いから資産運用まで一貫したサービスを提供している。また、「マネーブリッジ」による銀行口座と証券口座の連携で利便性を向上させている。
一方、ドコモは、「dスマートバンク」を開始。デジタル銀行口座サービスとして、スマホアプリでの口座管理や資産運用機能を提供し、またマネックス証券と業務提携をしている。ドコモも通信事業から金融事業への進出を加速させている。近日中に銀行を買収するとも言われている。
これらの取り組みは、X Moneyが目指す「決済から日常生活全般をカバーするスーパーアプリ」構想と共通する点が多い。特に、データ活用によるパーソナライズされたサービス提供やエコシステム内での経済循環の促進が類似している。ただし、楽天やドコモは国内市場特化型である一方、X Moneyはグローバル市場で競争する必要がある。
しかし、既存の決済サービスのVenmoやCash Appなどとの競争は、これから本格化し、必ずしもテクノロジー企業やSNSが勝ち残るとも言えない。セキュリティリスクや規制対応の課題も伴う。特に個人情報保護や詐欺防止策などについて慎重な対応が求められる。日本では規制が厳しく、VISAのようなパートナーの存在なくして、X Moneyは難しいだろう。
X Moneyのようなサービスは、ユーザーの日常生活における金融取引を簡素化することは間違いない。たとえば、友人間での送金やオンラインショッピングでの支払いがスムーズになるだけでなく、銀行口座を持たない人々にも金融サービスへのアクセスを提供する。
そして、クリエイターがプラットフォーム上で収益化した資金を直接管理できる仕組みは、新しい収益モデルを生み出し、小規模なクリエイターにも収入源を提供することができる。
X Moneyは、テクノロジー企業と金融機関の連携による新しい可能性を象徴する、また一つのプロジェクトだ。だが、競争が本格化するのはこれからだ。