イーロン・マスクのX（旧Twitter）が、AIチャットボット「Grok」に広告を挿入する計画を進めていると報じられた。
記事によれば、この背景には、コストがかかるAIのGPUの購入費用を賄うという狙いがあるそうだ。Xによれば、ユーザーがGrokに問題を尋ねた際、その特定の解決策を広告することは理想的だろうと考えており、文脈に合わせた広告の表示を目指しているらしい。これは、確かに理想的な広告となる。
Grokは、2023年11月に登場し、2024年3月にはxAIがXを買収している。これは、AI産業の株式評価高でX（旧Twitter）の評価減を救済したとも見られている。だが、この統合により、Xの広告技術とxAIのAI技術が結びつき、よりターゲットを絞った広告の自動化が実現される可能性が出てきた。
GrokのようなAIチャットボットに広告を組み込む動きは、Googleも同様にテストを開始している。Googleのこの動きは短期的な収益化のためではなく、検索における支配権を守るためだと分析されている。ユーザーが情報収集の場を検索エンジンからAIチャットボットに移すにつれて、Googleはこれまでビジネスモデルを支えてきた行動データや広告スペースのビジネスを失うリスクに直面している。
しかし、AIチャットボットへの広告挿入には課題も存在する。Perplexityは広告ビジネスを開始しているが、OpenAIは、ユーザーからの反発を懸念して広告導入を避けている。ユーザーは、偏りのない公正な情報提供をAIに期待しており、広告が混入することでその信頼性が損なわれることを危惧しているのだろう。
Grokへの広告挿入は、マーケティングに大きな変革をもたらす可能性がある。
コンテクストに即した「究極のネイティブ広告」
ユーザーが問題を解決しようとしている瞬間に、その解決策を広告する」というアプローチは、究極のネイティブ広告と言える。従来の検索連動型広告がキーワードに反応するのに対し、Grokの広告はユーザーの意図や文脈をより深く理解し、最適なタイミングで提案される。これにより、広告が「邪魔なもの」ではなく「役立つ情報」として認識される可能性が高まる。
パーソナライズの精度向上とデータ活用
xAIの技術がXの広告プラットフォームに組み込まれることで、ターゲティングの精度は飛躍的に向上するだろう。ユーザーの過去の投稿や行動履歴、そしてGrokへの質問内容といった多角的なデータをAIが解析することで、より個人に最適化された広告配信が可能になる。
ブランドの信頼性リスク
一方で、ブランドは広告がGrokの回答に不自然に組み込まれることで、その回答自体の信頼性が損なわれるリスクを考慮しなければならない。ユーザーからの「広告によって回答が偏っている」という批判は、ブランドイメージに悪影響を及ぼす可能性がある。このため、広告である旨を明確に示すなど、透明性を確保するための工夫が求められる。
Grokへの広告挿入は、AI時代の広告のあり方を考える機会だ。成功すれば、文脈に即した広告でユーザー体験を向上させつつ、莫大な収益を生み出す新たなビジネスモデルを確立する可能性がある。しかし、ユーザーの信頼をいかに維持するかが、この戦略の成否を分ける重要なポイントとなるだろう。
