アメリカのスポーツ放送権は、巨大IT企業の配信サービスが高値で買い漁っている。
スポーツ放送は、テレビ中継の黎明期から、無料の電波放送が中心であった。それがケーブル・チャネルの登場で、20年ほど前からESPN やTNT、TBSなどのスポーツ・ケーブル局が高値で放送権を買って、スポーツ中継を中心となった。そして、今起こっている事は、スポーツ中継がケーブルから配信サービスに移行しようとしていることだ。
アメリカのケーブルテレビは日本と違って、放送の中心であった。ケーブルテレビの普及率は一時は70%程度あった。これがケーブル・カッティングと言う言葉で表現されるように、家庭での配信サービスに置き換わっている。
NBAは2002年にそれまでの地上波のNBCから、試合中継をケーブルのESPN移行させた。このNBAのケーブル移行の動きが最初で、それから他のスポーツも続いた。アメリカの最大のスポーツコンテンツであるNFLは、その人気コンテンツであるMonday Night Footballを、地上波のABCからケーブルのESPNに移行させた。MLBも同様の動きを見せて、プレーオフの1回戦をケーブルテレビのTBSに独占させた。
これは、ケーブルテレビ局は、地上波では払えないような放送権料を支払ったからだ。広告ベースのビジネスモデルでは払えない金額を、ケーブルテレビ局の、視聴料と広告の組み合わせのビジネスモデルが可能にした。
だが、ケーブルテレビの時代は終わろうとしている。インターネットのブロードバンド化や最新の映像技術によって簡単に動画が家庭で見えるようになったからだ。その結果、20年前に起こった事が繰り返れている。ケーブルから、配信サービスに放送事業のプラットフォームが移行する。スポーツ中継だけではなく、Netflixに代表されるようにエンターテイメントでも配信サービスの普及が進んでいる。
この新たなプラットフォームの主導権を握るために、たくさんの企業が参入してきている。従来の放送事業者だけではなく、Amazon、Apple、Googleといったような巨大IT企業も含み、彼らは、巨額の先行投資ができるほどの財務力も備えている。そして、巨大IT企業はその配信サービスの契約者獲得の目玉としてスポーツコンテンツを買い漁り始めたのだった。
Amazonは年間10億ドル払って2033年までのThursday Night Footballの独占権を得て、今シーズンから配信を開始した。これはNFLが配信サービスに対して国内独占権独占放送権を与えた最初の例となった。
Appleも25億ドルでMLSの独占放送権を10年間手に入れている。さらにMLBとも契約をしFriday Night Baseballを年間8,500万ドルで獲得している。
このような動きは日本でも同様だ。DAZNがJリーグと独占放送契約を結んだのは2017年だ。当初の10年契約は延長になり2028年まで継続する。プロ野球では、テレビ放送と棲み分けを行っているが、今後巨大IT企業が参入して独占放送権を獲得することもないことではない。
NBAに話を戻すと、NBAの現行の契約はあと3シーズン残っている。DisneyのABC/ESPNとWarner Bro. DiscoveryのTNTだ。この両者の契約を合わせて年間26億ドルと言われている。近い将来にNBAは方針を決めなければならない。
ケーブルテレビの普及率が減少続けている状況が、決定のポイントだろう。ESPNも契約数が最大だった10年前から24%も減少した。現在Disneyは、ESPNで通常の試合を放送してNBAファイナル等はABCで放送している。ケーブルと地上波の組み合わせを行っているのだ。これは、決勝のような試合は地上波でも視聴率が取れるということと、スポーツ団体にとっては露出も必要だからだ。
このようなことを考えると、Disneyは、NBAを狙っているAmazon、Apple、Googleに対抗して、参加のABC/ESPNにDisney+を組み合わせて、地上波・ケーブル・配信サービスの組み合わせた放送パッケージで独占権の獲得を狙うかもしれない。
ただし、その際には一部を他者と分け合うにしても、現在のNBAの放送権料の年間26億ドルをはるかに超える金額が必要となることが予想される。
若くてメディアリテラシーの高い世代がターゲットのNBAを考えると、日本のJリーグのように完全に配信に移行すると言うことも考えられないわけではない。その場合に、今と同じように一部の試合を地上波やケーブルにサブライセンスすれば、NBAの求める露出も確保できる。さて、大金を積むのは、誰になるか。20年前のスポーツ中継の歴史を考えると、今回のNBAの決定は、今後のスポーツ中継の方向性に大きな影響力を与える可能性が高い。