ソーシャルメディアが10代の若者に与える影響について、様々な懸念が示されてきた。「ソーシャルメディア中毒」や「スマホ脳」といった言葉もあり、ソーシャルメディアが青少年の心の健康や成長にネガティブな影響を与えると信じられている。具体的には、長時間のソーシャルメディアの使用による注意散漫、情報の過剰摂取、短期的な刺激への依存などが問題視されている。
最近、アメリカの公衆衛生局長官が、ソーシャルメディアが青少年の心の健康にリスクもたらす可能性があるとして、ソーシャルメディアを使用について警告を公に発表している。
この公衆衛生局長官の発言について様々な意見があるようだ。多くのメディアでは、同調する記事が多い。しかしながら、同時に、ソーシャルメディアが青少年の心の健康に害をおろすと言う明確な証拠はないと言う学者のコメントも紹介している。
また、ソーシャルメディアとして一括りになっているが、そのソーシャルメディアは何を指すのか明確ではない。YouTubeなのか、 TikTokなのか、Instagramなのか、どのようなアプリやウェブサイトのどのようなコンテンツが影響があるか。発言は、その点について曖昧だ。しかし、実際にソーシャルメディアが心の健康に影響を与えるということを証明すると研究がないのが現実のようだ。
オランダの2つの大学が行った研究によると、1000人の10代の青少年について、ソーシャルメディアの影響を調べている。ソーシャルメディアの使用の影響が、個人によってどのように変わってくるのか、長期間の追跡調査を行った。その結果、ソーシャルメディアを使っている事と、心の健康にはあまり関係がないことを結論づけている。
ケンブリッジ大学が行った研究では、ソーシャルメディアの使用と心の健康の間にごくわずかな関係があることがわかったが、それがなぜ起こっているのか証明できないと言う。心に問題のある人が、ソーシャルメディアをより多く使うのか、ソーシャルメディアをより多く使ったことで、心に問題を起きるのか、何か他の要因があるのか明確な結論は出せないそうだ。
Common Senseと言う非営利団体が行った調査のレポートによれば、うつ病の症状を持つ10代の少女は、症状のない女の子に比べて、ソーシャルメディアが他の人の生活をよりよく見せていると答える一方、ソーシャルメディアが社会とのつながりを強化すると答える傾向があることを報告している。これも、ネガティブとポジティブな回答だが、そもそも、ソーシャルメディアが、うつ病の結果なのか原因なのかわからない。このレポートでも、全体としてはソーシャルメディアの効果は中立的であると答えている少女が多いそうだ。
つまり、公衆衛生局長官の発言については、一般的には同調する声もが多い中で、その根拠がないことを指摘する人も一部いると言うのが現状だ。このような場合、大抵は、直感が正しいことの方が多いものだ。古い本になるが、マルコム・グラッドウエルの「第1感 最初の2秒のなんとなくが正しい」には、そのようなケースがたくさん紹介されている。
どのような影響が脳や心の健康にあるにせよ、少なくともソーシャルメディアのアルゴリズムで、次から次へと興味のあるコンテンツをお勧めされると、少なくともそれで多くの時間が失われる。これは誰でも体験済みだ。しかも、そのほとんどは、何の意味のないものだ。
ソーシャルメディアによって、他の意見が耳に入らなくなってしまう「エコーチェンバー現象」や「フィルターバブル」といったような効果は、既に証拠の研究者によって指摘されている。青少年だけでなく、誰でも対立する意見や異なる意見を聞いて、自分で判断する能力を身に付けなければいけない。ソーシャルメディアのアルゴリズムが、それを阻害している可能性がある。
アルゴリズムのオススメではなく、自分で図書館の棚で、偶然全く興味のない分野の本と出会い、そこから自分の世界が広がると言うこともある。また、そのような偶然が、心の成長に必要なのではないか。
ソーシャルメディアが、なんとなく心の健康に悪そうだと言う直感を証明するための研究が、本格的に開始されるべきだと考える。
*エコーチェンバー現象
- SNSなどのインターネット上で、自分と似た意見や価値観を持つ人々とのみコミュニケーションを取ることで、自分の意見が増幅され、あたかもそれが一般的な正しい意見であるかのように錯覚してしまう現象
*フィルターバブル
- インターネット上で個人の興味や過去の検索履歴に基づいて情報がフィルタリングされ、同じような情報や意見ばかりが提供されることで、多様な視点に触れる機会が減少してしまう現象