CB Insightsが世界のユニコーン企業のリストを公開している。ユニコーン企業は評価額10億ドル以上の非上場企業で、2023年10月現在、世界に1200社あるそうだ。ユニコーン企業の定義は評価額10億ドル以上だが、このリストのトップのByteDanceは2,250億ドル、2位のSpaceXは1,500億ドルと、他のユニコーン企業と比べても桁違いだ。ベスト10まで見てみると、アメリカ企業が6社、中国企業が2社、イギリス企業が1社、オーストラリア企業が1社となっている。
順に見てみる。
1.ByteDance
北京に本社を置く中国のインターネット企業。2012年創業。モバイルインターネット市場に機会を見出し、プラットフォームを構築することを目指した。主要サービスは、2012年8月に立ち上げたToutiao、その後成功を収めてDouyin(TikTokの中国版)が続いた。そして、TikTokで世界進出をして成功をおさめた。ソーシャルネットワーキング用のモバイルアプリケーションを開発し、人工知能技術を使って、ユーザーの興味に基づいたコンテンツを提供することに優れている。
2. SpaceX
誰でも知っているイーロン・マスクのロケット開発、打ち上げサービスプロバイダー、防衛事業、そして衛星通信企業。2002年に創業され、宇宙輸送コストの削減と火星の植民地化を目指している。再利用可能なロケットの設計・製造を行い、各種の打ち上げサービスを提供している。特に、地球軌道からの宇宙船の打ち上げと回収に成功した最初の民間企業であり、国際宇宙ステーション(ISS)への有人宇宙船の打ち上げにも成功している。
3.SHEIN
シンガポールに本社を置くグローバルオンラインファッションおよびライフスタイル小売業者。2008年に中国南京でZZKKOとして創業し、2022年には世界最大のファッション小売業者に成長した。女性向けのファストファッショングッズを提供する。グローバルB2C eコマース・プラットフォームを開発し、女性、男性、子供向けのアパレル、靴、アクセサリー、ホーム&ビューティアイテムを自社ブランドSHEINでデザイン・製造・販売している。
4.Stripe
アイルランドとアメリカの多国籍金融サービスとSaaS企業で、カリフォルニア州サウスサンフランシスコとアイルランドのダブリンに本社を置く。オンライン決済処理ソフトウェアとeコマースウェブサイト及びモバイルアプリケーション用のアプリケーションプログラミングインターフェースを提供している。フィンテックに必要な各種のSaaS決済処理プラットフォームを開発。
5. Databricks
2013年にApache Sparkのクリエイターによって設立されたデータとAIの会社。Sparkを使用して作業するためのプラットフォームを開発し、自動化されたクラスター管理とIPythonのノートブックを提供。データ統合、統合ワークフロー、エンタープライズセキュリティ、生産アプリケーションのデプロイ、データエンジニアリング、ストリーミング、共有、マシンラーニングなどのソリューション事業を行っている。
6.Revolut
ロンドンに本社を置くグローバルなネットバンクおよび金融技術企業。2015年に設立。通貨交換、デビットカード、バーチャルカード、Apple Pay、利息がつく「vaults」、株式取引、暗号資産、商品などのサービスを行う。
7.Epic Games
1991年に設立されたビデオゲーム開発会社。主に様々なプラットフォームやデバイス向けのビデオゲームとソフトウェアを開発し、世界中の他の開発者やクリエイターにゲームエンジン技術とオンラインサービスを提供している。ノースカロライナ州に本社を構え、世界中に40以上のオフィスを持つ。また、350万人以上が参加する世界最大級のゲーム「Fortnite」で有名だ。
8.Fanatics, Inc.
MLB、MLS、NBA、NFL、NHL、NASCAR、Formula 1、NPBなどの公式スポーツウェアやコレクティブル、NFT、トレーディングカード、スポーツ関連商品の製造・オンライン販売を手掛ける。スポーツベッティングやiGamingも展開。1995年に設立され、ファングッズやジャージをデザイン・製造・流通している。モバイルファースト、オンデマンド文化を背景に成功した。
9.Canva
2013年に立ち上げられたオンラインデザインツールの会社。誰もが何でもデザインし、どこにでも出版できるようにすることが使命だそうだ。ドラッグ&ドロップのデザインツールと大規模な写真、イラスト、画像のストックライブラリを組み合わせており、ソーシャルメディアグラフィックやプレゼンテーションの作成に使用されている。最近はAIツールの充実に力をいれている。
10. OpenAI
昨年からのAIブームの立役者。人工一般知能(AGI)が人類全体の利益になるように、AIの研究と展開を行う企業。説明するまでもないが、ChatGPTで有名。
CB Insights の長大なリストを時間をかけて眺めたが、日本企業は見落としがなければSmartNews、SmartHR、Goの3社のみ。しかも、評価額10億ドルのギリギリの下位だ。なぜ、日本にはユニコーン企業が誕生しないのか。
世界では多くの国々でユニコーン企業が次々と誕生しているが、日本ではほとんど生まない。これには、日本の経済的、社会的、政治的な背景に大きく影響されていると思われる。
経済的要因
まず、リスクマネーの不足。日本におけるベンチャーキャピタルからの投資は、米国の同業者の1/80に過ぎない。ユニコーン企業を育成するための資金不足が理由の一つ。そして、「上場神話」の浸透がある。資金不足とも関係するが、IPOを目指すということで、多くのスタートアップが、資金調達のために数年以内に上場することを約束させられる。このため、短期的な利益に焦点を当て、リスクを取ることや大規模な投資を行うことが困難になっていることが、ユニコーン企業が生まれない理由だ。
社会的要因
そして、日本文化のスタートアップ文化との不一致も理由だ。日本の文化は、規律、プロセス志向、集団の協調、リスク回避など、スタートアップ文化とは対照的な側面を持っている。新しいコンセプトのビジネスを立ち上げるリスクを取ることは、日本人にとっては難しい。さらに、大企業志向もある。一般的に日本人は、大学卒業後は大企業に就職し、退職までその企業に留まることを望む。その結果、スタートアップに人材が集まらない。
政治的要因
日本政府は新しい企業の創出に向けた取り組みを多少は行っているが、中途半端。例えば、政府はJ-STARTUPプロジェクトを開始し、毎年約10,000社のベンチャー企業の中から100社の有望な企業を選定し、サポートしているが、メリハリもなく、十分な支援とは呼べない。もう少し戦略的な政府の経済的な支援が望まれる。
経済的、社会的、政治的な側面を総合的に見ると、日本でユニコーン企業が少ない理由は多岐にわたる。しかし、AIやクラウドコンピューティングなどの新技術の登場により、新しいビジネスを立ち上げるハードルは低下しており、チャンスは有るはずなので、多くのスタートアップが生まれることが望まれる。