デジタル決済のPayPalが、広告事業への参入を発表した。「PayPal Ads」と名付けられたこの新しい広告プラットフォームは、PayPalとVenmoの4億人以上のユーザーから得られる膨大な取引データを活用し、広告主にターゲットオーディエンスへのリーチを提供することを目指す。
PayPalはすでに、AIを活用した広告商品「Advanced Offers」を導入しており、加盟店がPayPalユーザーにパーソナライズされたプロモーションや割引を提供できるようにしているそうだ。
PayPalの担当者は、「商取引と広告は密接に関連しており、PayPalが構築する広告プラットフォームは、大小を問わず加盟店にとって必須のマーケティングチャネルになると確信しています」と述べたようだ。確かに広告は商取引と密接に結びついているが、その逆もまた真かは確かではないというのが私の意見だ。
PayPalの広告市場参入は、最近、ウェブサイトやバンキングアプリのユーザーを取引履歴に基づいてターゲティングすると発表したJPモルガン・チェースの動きに続くものだ。金融サービス企業がメディア市場に参入するにつれ、その企業が保有する詳細な消費者プロファイルを使って、高い広告料を要求できるようになるのは確かだ。しかし、その広告を金融サービスの顧客は歓迎するだろうか。
さらに、金融サービスは、Amazonのような小売に比べて事業の利益率が高いため、ボトムラインに大きな影響を与えるには、かなりの広告売上の伸びが必要になるかもしれない。広告を売るのは、今はシステム化しているが、それでも大手の広告主への営業活動も含む人的資源も必要だろう。はたして、採算が取れるのだろうか。
PayPalの最新の決算報告によると、第1四半期に4億人近くの顧客による65億件の決済を処理し、総決済額は前年同期比14%増の4,039億ドルに達している。この4億人と65億件の決済のユーザーデータをどのように活用するかだ。さらに、顧客に受け入れられるような広告フォーマットには工夫が必要だろう。本業のサービスに問題を起こすような邪魔な広告なら苦情もでるだろう。
PayPalやJPモルガン・チェースの広告事業参入を聞いて連想するのは、Amazonの広告事業だ。金融事業者とAmazonの広告事業には、いくつかの共通点がある。それは、どちらも膨大な顧客データを活用できることだ。PayPalもAmazonも、数億人規模の利用者から得られる購買履歴や行動データを広告事業の基盤とする。これにより、広告主に対してターゲティング精度の高い広告商品を提供できる。これは、広告事業においては、一般的な情報メディアに比べると大きなアドバンテージになる。
また、両社とも、膨大なトラフィックのある自社のeコマースプラットフォーム上での広告展開を強みとできる。PayPalはPayPalおよびVenmoアプリ内、Amazonは自社サイト内で、ユーザーの購買行動に即した広告を配信できる。黙っていても、トラフィックが途切れることがないから、広告露出のチャンスは大きいだろう。
違う点は、Amazonは、ユーザーが商品購入でサイトを訪問するので、探している商品に対応した検索連動型広告に最適なのに対して、PayPalでは、そのような行動の直接的な関連はない。だから、PayPalは、行動ターゲティング広告に注力するのだろう。過去の行動履歴に基づいて、広告を表示できる。これにメリットを感じる広告主をどれだけ集められるかが勝負だ。
類似点はあるが相違点もあるために、PayPalの広告事業が、Amazonのそれにように100億ドルの規模まで行くかどうかは不明だ。