駅や空港だけでなく、街なかでも多くの観光客を見かけるようになった。国土交通省が発表したデータによると、2023年の訪日外国人旅行消費額が5.3兆円と、コロナ禍前の2019年の4.8兆円を10.2%上回り、過去最高を記録したそうだ。コロナ禍による旅行需要の落ち込みから力強く回復した。円安も追い風になっているだろう。コロナ禍で苦しんだ旅行関連産業にとっては良いことだ。
ただし、そのデータによると訪日外国人1人当たりの消費額は21.3万円と、2022年の23.5万円から減少している。2019年と2023年の消費内訳を比較すると、宿泊費の割合が29.4%から34.6%に増加した一方、買物代の割合は34.7%から26.5%に減少しており、旅行者の優先事項に変化が見られる。モノからコトに関心が移ったのか、リピート客が多くて買い物はもうしないのかよく分からない。円安の今ならたくさん買ってもよさそうなものだが。
国・地域別の消費額では、台湾が14.8%でトップ、次いで中国(香港・マカオを除く)が14.3%、韓国が13.9%、米国が11.4%だった。2019年は中国が36.8%と突出して高く、台湾11.5%、韓国8.8%と続いていたが、コロナ禍以降、中国のアウトバウンド旅行需要がまだ完全には戻っていない状況が反映されている。
日本政府は2025年までに訪日外国人数を6000万人、消費額を15兆円とする目標を掲げている。 円安効果もあり、コロナ禍からのインバウンド消費の回復ペースは順調だが、一人当たり消費額の減少は課題だろう。
国・地域別訪日客数では、2023年は韓国が700万人でトップ、台湾420万人、中国240万人、香港210万人、米国200万人と続いている。 中国からの団体旅行解禁が8月だったこともあり、依然コロナ前の水準には届いていない。 一方で、韓国、米国、香港など8つの国・地域で過去最高を記録している。やはり、中国からのインバウンドの落ち込みは大きい。
政府目標の6000万人達成には、中国のアウトバウンド旅行の回復が鍵を握るが、日中関係の改善も重要な要素となるだろう。米中対立や台湾問題で日本への観光に影響もあるかもしれない。
しかし、国連世界観光機関(UNWTO)の最新データをみると、日中関係とは関係なく、中国のアウトバウンド旅行そのものが、まだ回復していないことが理由だろう。データが1年古いが、UNWTOの2022年の海外旅行支出額で、中国は2013年以来維持してきた世界一の座を米国に明け渡している。中国が、パンデミックの影響から完全に回復するのは2025年末になるとの予測もあるそうだ。
中国のアウトバウンド旅行支出額は2021年から2022年にかけて50億ドル増加したものの、同期間に750億ドルから1620億ドルへと倍増した米国の伸びには及ばなかった。米国ではコロナ規制緩和後、それまで行けなかった旅行に出かける「リベンジ・ツーリズム」が流行語になるほど旅行需要が急増した。だが、2022年の中国と米国の支出額は、ピーク時の2018年の2773億ドル、2019年の1848億ドルにはまだ届いていない。回復にはもう少し時間もかかるのかもしれないし、世界各国のインフレの問題も影響しているかもしれない。
日本の政府目標達成には中国の海外旅行の回復が鍵となるのだろう。その需要がなければ、今の3倍はありえない数字だ。反対に日本からのアウトバウンド旅行需要は、当面増えるようにな思えない。今の円安が続くようなら、とても海外旅行どころではなく、アウトバウンド旅行の回復はないのかもしれない。