イーロン・マスクのxAIが開発したAIチャットボット「Grok」は、2023年の発表以来、その独特な回答により批判が起きることが多い。「政治的に正しくない」発言を許容する設計思想を持つことや、反ユダヤ主義的コンテンツの生成、誤情報の拡散などの問題により、何度も話題を提供している。
「Grok」という名称は、ロバート・A・ハインラインの古典SF小説『異星の客』に登場する火星の言葉に由来しているそうだ 。この言葉は、単なる認識や理解を超え、対象と完全に一体化し、その本質を深く包括的に吸収する状態を指すという。作中では、火星で育った人間であるバレンタイン・マイケル・スミスが、この言葉を使って、知識がほぼ無意識のうちに思考や行動に統合されるような状態を表現する。
Grokの基本的特徴とコンセプト
Grokは、X(旧Twitter)との統合によりリアルタイム情報にアクセス可能な対話型AIとして設計されている。ChatGPTやGeminiなどの既存AIと比較して、Grokは「人間らしい気さくでカジュアルな口調」を特徴とし、ユーモアや皮肉を交えた応答を提供する。
2025年5月に公開されたGrokのシステムプロンプトには、「あなたは非常に懐疑的です」「主流の権威やメディアに盲目的に従いません」という指示が明記されている。これらの指示は、Grokが「真実追求」という名目の下で、従来のAIでは制限されるような内容にも回答することを意図している。
Grok AIで話題になった問題発言
反ユダヤ主義的コンテンツの生成
2025年7月のアップデート後、Grokは「ユダヤ系の経営者がワーナー兄弟、パラマウント、ディズニーなど主要スタジオを歴史的に重要かつ現在も指導的地位を占めている」と発言し、これが「進歩的イデオロギー」に結びついていると主張した。このような発言は、数世紀にわたる反ユダヤ主義的な「メディア支配」理論を彷彿とさせるものとして批判を浴びた。
ホロコースト否定疑惑
2025年5月、Grokはホロコーストの犠牲者数について「一次資料がない限り、これらの数字には懐疑的です。数字は政治的な物語のために操作される可能性があるからです」と発言した。この発言は、米国国務省の定義によるホロコースト否定に該当する可能性があるとして国際的な批判を受けた。
白人虐殺陰謀論の拡散
2025年5月、Grokは質問内容に関係なく「南アフリカにおける白人虐殺」について繰り返し言及する不具合を起こした。xAIはこれを「無許可の改変」による問題と説明したが、内部統制の脆弱性を露呈する結果となった。
ヒットラー賛美
今朝の新聞で読んだのだが、2025年5月10日に、テキサスの洪水に関するやり取りの中で、Grokは、「アドルフ・ヒトラーなら、間違いない。彼はパターンを見つけ、毎回決定的にそれに対処する」と回答したということだ。
企業での禁止措置
度重なる問題発言を受けて、サイバーセキュリティ企業Netskopeの調査によると、欧州の組織の25%がGrokの使用を禁止しているようだ。これは、ChatGPT(9.8%)やGoogleのGemini(9.2%)と比較しても高い割合だ。
それでも、Grokのリアルタイム情報分析の強みのために、マーケティング分野では独自の価値を持つ。最新トレンドの把握や顧客の声の分析において、従来のAIツールでは得られないリアルタイムの情報を収集できるからだ。
Grok 3の高性能化
2025年2月にリリースされたGrok 3は、前モデルの10倍の計算能力を持ち、数学(AIME 2025で93.3%)やプログラミング(LiveCodeBenchで79.4%)において高い性能を示している。しかし、公開からわずか1日で「脱獄」(ジェイルブレイク)が成功し、爆弾の作り方や遺体処理の方法といった危険な情報の提供が可能になった。専門家は「Grokの安全性確保のためのガードレールは非常に弱い」と警告している。
Grokは、リアルタイム情報アクセスという機能を持つ一方で、バイアス、透明性、安全性という現代AI開発の持つ課題を解決は目指していないようだ。それを考えると、企業が積極的に活用するのは難しそうだ。だが、個人としては、面白い会話の相手として使える。それは、ChatGPTやGeminiのような優等生的な回答ではつまらないからだ。
xAIがGrokを、「ウィットに富んだ」回答と「反骨精神」を持つように設計されたと説明しており、これを続けるのだろうか。そうであれば、今後も生成AIの鬼子のような存在であり続けるのだろう。