WBC放送権独占契約

by Shogo

スポーツとネット配信について、日本で大きな議論が巻き起こっている。きっかけは、NetflixによるWBCの放送権独占だ。来年のWBCが無料のテレビでは見られないかもしれないということで、スポーツ放映権の転機を改めて認識した。

アメリカでも、ESPNとFoxの新配信サービス開始により歴史的転換点を迎えている。両社は2024年8月21日に直接消費者向けサービス(DTC)を開始し、10月2日からは月額39.99ドルのバンドル提供を開始した。このサービスにより、従来のケーブル契約なしで年間約4万7,000本のライブスポーツを視聴可能となった。

日本の動画配信市場規模は、2024年の5,710億円(前年比106%)に到達した。特にスポーツ配信分野では、野村総合研究所の調査によると、2025年には863億円に達すると予測されている。この成長の背景には、5G通信技術の普及による高速・大容量・低遅延通信の実現がある。

スポーツ放映権料の高騰は、すでに数年以上続く世界的現象である。米国では、NBAの放映権料が2014年の240億ドル(9年間)から2024年の750億ドル(11年間)へと3倍以上に急騰した。イングランド・プレミアリーグでは、2025-29シーズンの国内放映権だけで4年間67億ポンド(約1兆2,730億円)という天文学的金額で契約が締結されている。

この高騰の要因は、スポーツコンテンツが持つ「ライブ性」「人気」「代替不可能性」という3つの価値にある。特にライブコンテンツは録画では価値が半減し、リアルタイム視聴での圧倒的な魅力を持つため、プラットフォーム間の獲得競争が激化している。

無料広告放送の短期的な広告収益では高額のスポーツ放映権料を回収できないが、配信サービスではLTV(顧客生涯価値)まで考えれば、経営的に見合うからだ。

日本でも同様の現象が起きており、Jリーグの放映権料は2017年にDAZNが10年間で約2,100億円で契約し、2023年の延長では総額約2,395億円に達した。一方、WBCの放映権料は前回大会の30億円から今回のNetflixの150億円規模へと5倍に急騰したとされている。

2023年のWBC決勝戦は早朝にも関わらず5,000万人が視聴し、日本戦7試合のうち6試合が3,000万人以上の視聴者を獲得した。MLB日本開幕戦の地上波視聴率31.2%(瞬間最高35.7%)が示すように、国民的イベントでは依然として地上波の影響力が絶大である。

それでも、地上波番組の広告収入では高額なスポーツ放映権料の回収は難しい。それは、すでに2022年のFIFAワールドカップでは、幾つかの地上波の局が放送権獲得を断念している。

それでは、来年のWBCはどうなるのだろうか。噂されているNetflixによるWBC独占配信は、従来の地上波視聴者、特に高齢層やライト層の一部をアクセス困難にする可能性が高い。視聴人口の縮小だけでなく、地上波局の報道露出減少により、国民的イベントとしての認知度や波及効果も減少するリスクがある。

これまでWBCは地上波を通じて「国民的イベント」として認知され、プロ野球全体の人気底上げに寄与してきた。2013年大会後にはNPBの観客動員が前年から増加に転じるなど、明確な「WBC効果」が確認されている。

日本政府は2012年時点で5.5兆円だったスポーツ産業の市場規模を2025年には15.2兆円に拡大する目標を掲げている。動画配信市場も2029年には6,780億円に達すると予測され、スポーツコンテンツが重要な成長ドライバーとなることが期待される。

WBCが配信独占になることが、現時点で、日本のスポーツ市場に影響はでないだろうが、人気コンテンツが無料の地上波から消えることで、長期的にはスポーツ市場に影響が出るだろう。

グローバル・プラットフォームのNetflixやDAZNとの独占契約は黒船来航のような外圧として、日本のスポーツ放送構造の進化を促す契機ともなり得る。従来の放送局も配信技術への投資を加速し、新たなハイブリッドモデルの構築が進むことが予想される。

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