VISAの頭痛

by Shogo

北京オリンピックでは様々な出来事が起こって話題になっている。その中でも、興味を引いたのは、会場での支払いに、VISAと現金以外に、デジタル人民元が加わったことだ。

VISAはTOPスポンサーと呼ばれる最上位のスポンサーで、オリンピック関連の独占的決済サービスの権利を保有している。TOPスポンサーのTOPとは、The Olympic Partner Programmeの略で、オリンピックのマークやスポンサーの称号を全世界で使える。また、オリンピック・パートナーと言う称号も使える。このスポンサーシップは、4年1サイクルで、夏季と冬季のオリンピックが含まれる。スポンサー料は、1,000億円に近いと言われている巨額なものだ。日本企業としては、今は、パナソニック、トヨタ自動車、ブリジストンの三社だ。

TOPスポンサーはオリンピック関連で様々なサービスの提供が独占的に許されている。VISAの場合には決済サービスだ。通常は、オリンピックの関連施設での買い物は、現金以外はVISAでしか決済ができない。

しかし、今回の北京オリンピックでは、販売店の支払い表示には、VISAのロゴと共に、デジタル人民元(e-CNY)のロゴが表示されているのだと言う。これは、今までの経験から言うと、明らかにVISAの権利を侵害しているように思える。ただし、デジタル人民元を現金の種類だと考えてれば権利に抵触しないのだろうか。通常であればスポンサーはそのようなことを許すはずがない。だが複雑なのは、このデジタル人民元の運用者は中国政府であり、VISAもそこについて揉め事を起こしたくないのかもしれない。

VISAは、1985年の今のオリンピックスポンサーの仕組みの誕生時からのTOPスポンサーだ。それまでオリンピックは、独占でないにせよアメリカン・エキスプレスがスポンサーを続けていた。しかし、IOCが新たな独占的なスポンサープログラムを導入した際に、アメリカン・エキスプレスは、そのスポンサーシップを拒絶したと言う。このためにIOCはVISAとの契約をした。アメリカン・エキスプレスは、このオリンピックでのスポンサーシップを逃したことを後悔したらしい。

そのアメリカンエクスプレスは、1992年のバルセロナオリンピックの際に、「あなたにはパスポートは必要だろうが、ビザは必要ない」と言う、スポンサーシップの歴史では有名なアンブッシュマーケティングを行った。アンブッシュマーケティングとは、直訳すると「待ち伏せマーケティング」だ。権利を購入せずに、スポンサーと誤認させるようは手法を指す言葉だ。

1985年にTOPスポンサーになったVISAは、その後も契約を更新し続け、2018年には最新の契約を行い2032年まで契約を延長している。

そして、今回の北京オリンピックだ。会場内の決済に、現金とVISA以外も使えるようになっている。朝日新聞に、記者がデジタル人民元を使ってオリンピック会場内で買い物する模様が紹介されていた。

デジタル人民元を使うには、指定口座を作り、その口座からアプリにチャージして、QRコードを使って使うようだ。だが、オリンピックに際しては、短期滞在の外国人が銀行口座を開いて使うのは難しいために会場内で非接触型のカードを作り、そのカードにチャージして使えるようになっていると言う。朝日の記者によれば、これは日本の交通系カードと同じような使い勝手だと言う。

デジタル人民元の実験は、2020年10月から始まり、使用できる場所は昨年末の時点で800万カ所になっている。デジタル人民元のアプリをダウンロードしたアカウントは3億弱で、取引金額は1兆6000億円に上るようだ。

このような決済サービスを、中国政府が行っているのは、中国で一般的に使われるAliPayやWechatPayつぶしとも言える。政府が、民業の決済サービスをと競合するサービスを始めたわけだ。このような状況を受けてAliPayは2021年から、WechatPayも2022年から、デジタル人民元に対応する事になったらしい。

だが、ほとんどの人がWechatPayかAliPayあるいは両方を使っている状況で、新たなアプリをダウンロードして使わせる事は難しいと考えられる。そのために中国政府はオリンピックを利用してデジタル人民元専用のアプリの普及を図っているとしか思えない。

VISAにとっては、WechatPayもAliPayも競合であり、その点ではまさにデジタル人民元アプリも競合だ。

オリンピックにおいては、相手が中国政府と言うことを考えて、VISAも文句を言えずにいるのかと思う。当然VISAはIOCには散々文句言っているのだろう。それを、相手が悪いから諦めろとIOCがなだめる構図か。

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