様々なメディア接触の調査結果を見ても、私達が1番接触しているメディアはソーシャルメディアである。そのソーシャルメディアは、私たちが何を見るかをアルゴリズムよって決めている。このアルゴリズムが、誤情報の拡散や政治的分裂の元凶だと非難する声が多い。
FacebookとInstagramを傘下に持つMetaは、このような社会的な問題を食い止めるために、そのアルゴリズムの批判されたり、廃止を求められてきた。もちろん、Metaには、そのような社会的問題を引き起こす意図は、まるでなく、単純に人々の関心を惹き多くのページを閲覧させることにより広告費を稼ぐことにある。
アメリカの研究者は、FacebookとInstagramの参加を得て、FacebookとInstagramのアルゴリズムに関する実験を行った。
この実験についての4つの論文を発表が発表されている。その中の1つは2020年の大統領選挙の際にFacebookを利用した27,000人のアメリカ人を対象とした調査が含まれている。この調査によれば、Facebookのアルゴリズムの機能を削除しても、政治的信条に何も影響を与えなかった。むしろ投稿をシェアする機能が削除されると、政治ニュースに関する知識は低下すると言う結果も出ている。
これは日本でもアメリカでも、メディア接触がソーシャルメディア中心になっている以上、その中の政治ニュースへの接触が減り、政治についての知識が低下するのは当然のことなのだろう。
また、別の調査では、InstagramとFacebookの政治ニュースの閲覧は、政治的傾向により極端に分断されていることもわかった。2020年の大統領選挙期間中、ファクトチェッカーによって虚偽と評価されたニュースへの接触は97%以上が、リベラルなユーザではなく、保守的なユーザによってなされていることもわかった。つまり、政治的な分断は、ソーシャルメディアのアルゴリズムによる結果ではない。これはどんなメディアであろうとも、人は見たいものしか見てみないと言う一般的な原則を裏付けるものである。
アルゴリズムは、人々の政治的態度にどのような影響与えるかと言う研究では13,000人以上のFacebookユーザと21,000人以上のInstagramユーザを対象として、人々の興味に合わせたお勧めの投稿を表示するのではなく、単純に時系列の投稿を表示した。対照群との比較で証明されたのは、時系列の投稿でもアルゴリズムによるおすすめの表示でも、ユーザの政治的態度・行動は変わらず、オンライン署名に参加したり、政治集会に参加したりといった行動の変化も見られなかった。アルゴリズムが政治を動かしているということは証明されなかった。
今回の調査にはMetaも参加しており、今までのソーシャルメディア研究が、公開された情報だけに基づいていたり、インターネットからダウンロードされた少数のユーザに基づいたデータ分析とは大きく違っている。Metaの協力により実際の大人数のユーザの行動が分析されており、より実態を反映するものとなっていることが大きな違いだ。このために信頼性は格段に高い。
今回、この研究だけで実態が完全に把握されているわけではないが、少なくとも誤情報の拡散や政治的分断の主要な原因が、ソーシャルメディアのアルゴリズムにあると言うことは、完全にでないにせよ、拡大解釈されていたということは明らかになったと言える。
この調査は、ソーシャルメディアの問題として指摘されている、エコーチェンバー現象が一般的に信じられているものよりも、はるかに弱いと言うことが明らかにした。ただし、今回の研究だけで、ソーシャルメディアのアルゴリズムが無罪放免されたと言うわけではなく、今後も引き続き同様の調査が行われるべきだろうと感じている。