当初は意図しなかった成功

by Shogo

エヌビディア(NVIDIA)の株価の急騰が大きな話題になっている。以前より、GPUで有名な優良企業だが、これほどの話題になるとは思っていなかった。

NVIDIAは、現時点で世界に9社のみの時価総額1兆ドル超企業となっている。すでに時価総額2.3兆ドルを突破している。株価の急騰要因は、AI(人工知能)開発向け半導体の急成長だ。ゲーム用の半導体を作る会社が、どうしてAIと関係するのか理解できなかった。その理由は、人工知能がディープラーニングで処理を行うことに関係するそうだ。

NVIDIAのGPUがAIの処理に適している理由は、その計算能力と並列処理の能力にあるという。AIモデル、特に深層学習(ディープラーニング)は、大量の行列演算を必要とする。GPUは数千の計算コアを備えており、これらのコアは並行して動作して大量の数学的計算を行うことができる。また、繰り返し計算や浮動小数点計算といった、ディープラーニングにおいて頻繁に行われる処理において、GPUは高い効率を発揮するようだ。

NVIDIAは、AIとディープラーニングに最適化されたソフトウェアのエコシステムを持っており、CUDAやcuDNN-Xのようなライブラリを通じて開発者がGPUの能力を容易に活用できるようにしている。これにより、AIの訓練と推論においてGPUはCPUよりもはるかに高速でコスト効率が良いとされているそうだ。

NVIDIA Blogによると、最近のNVIDIA GPUは、AIの推論において1000倍の性能向上を過去10年間で達成している。さらに、Tensor Coresを備えており、これらはニューラルネットワークで使用される行列数学を処理するために60倍以上のパワーを持っているそうだ。

此の結果、機械学習部門のGPU占有率が95%だ。NVIDIAのGPUは機械学習領域で支配的な存在であり、その性能の高さと効率性から多くの研究者やAI開発企業に選ばれているからだ。一度選ばれると、他社のGPUに変更すると、システムの書き換えが発生し、業界標準となっているソフトウエアのライブラリーも利用できないから、NVIDIAにロックインする形となり、変更が難しい。此の結果、NVIDIAの業績は安定している。

このNVIDIAの事例のように、ゲームのレンダリングのGPUがAIの処理に向いているということから、意図せず成功したビジネスは、意外にも多い。これは、NVIDIAがそうであったように、偶然の発見や失敗をチャンスと捉え、柔軟な発想で改良を加えることで、大きな成功を収めることができたからだ。

このような成功の事例には2種類ある。用途や対象を変えて成功した事例と、当初の意図とは違う事業に発展した事例だ。NVIDIAは、用途や対象を変えて成功した事例だろう。このカテゴリーには、幾つもの事例がある。

Amazon AWS

まず、違う用途・対象で大きな収益を上げているといえば、AWSだろう。Amazon Web Services(AWS)は、Amazonが提供するクラウドコンピューティングプラットフォームで、2006年にサービスを開始し、現在では世界最大のクラウドサービスプロバイダーとなっている。

AWSのサービス内容は、オンライン事業のすべての領域をカバーする。例えば、仮想サーバーなどのコンピューティング、ストレージ、仮想ネットワーク、データベース、データ分析、機械学習、人工知能、コスト管理、セキュリティ、コンプライアンスなどすべての領域に対応可能だ。

世界中にデータセンターを展開しており、どこからでも利用でき、Amazonのオンライン販売を支えるサービスを利用することができるから信頼性が高い。

これは、もともとAmazonが自社のオンラインビジネスに開発したシステム・サービスを外販したことから始まって、今ではAmazonの事業分野としては稼ぎ頭になっている。

スライム

同じ良いように対象が変わって成功した事業は、玩具のスライムだ。

1976年に発売されたスライムは、子供向けの玩具として開発された。しかし、その不思議な感触と自由な形遊びは、子供だけでなく大人も魅了し、いつしかストレス解消グッズとしても人気を集めるようになった。子供には、自由に形を変えられるため、創造性や発想力を刺激されるために、様々な遊び方が楽しめる。だが、大人に人気のある理由は、独特の感触は、ストレス解消に効果的だからだ。形を変えたり、色混ぜしたりする遊びは、集中力を高メルことにも役立つ。

このような用途を思いついて、子供だけでなく、スライムを大人もターゲット層にすることで、市場を拡大してきた。

Airbnb

Airbnbは、Airbnbは、2008年にサンフランシスコで開催されたデザイン会議期間中に宿泊施設が不足したことをきっかけに生まれた。二人の若者が自分たちのアパートのエアマットレスを貸し出す方法として設立された。しかし、このサービスは人気を博し、やがて彼らは家全体、アパート、さらには城にまでサービスを拡大した。

当初は小規模なサービスだったが、世界中に利用される宿泊予約サービスとなっている。Airbnbは世界220以上の国と地域で利用されており、400万軒以上の宿泊施設が掲載されている。

Airbnbも、偶然の始まりで当初の意図とは異なる形で成功を収めた例だ。世界中でインターネットの活用で、ホテルとは異なり、地元の暮らしを体験できる宿泊施設という新たな体験を提供するサービスとして成功している。

アメリカン・エキスプレス

もともとは1850年に郵便業として始まったアメリカン・エキスプレスは、その後、旅行者小切手やマネーオーダーを加え、消費者やビジネス向けのクレジットカードを提供することで、事業を一新した。

アメリカン・エキスプレスがエクスプレス郵便業からクレジットカード事業に転換したのは、顧客ベースの拡大とニーズの変化だ。時代とともに郵便市場の構造が変化し、それに伴って新しいビジネスチャンスを模索していた時に、消費者金融市場の拡大は、新たな収益源として魅力的だったためにクレジットカード事業に進出した。これには、郵便業として成功を収めたために、広範な顧客基盤と信頼を築いたからだ。この基盤を活用して、新たな金融商品やサービスを提供することで、顧客のニーズに応えることが可能になった。

郵便市場から学んだ経験や事業基盤を活かして、新たな市場で強固なブランドポジションを築き、郵便事業から金融サービス業へと事業を拡大することができた。このような事業転換は、市場のニーズに応え、事業内容を変えた好例と言えるだろう。

多分、他にも事例はあるのだろうが、当初の意図とは違う事業に発展した事例を考えてみる。

3MのPost-it

1968年、3M社の研究員であるスペンサー・シルバーは、強力な接着剤を開発しようとしていた。しかし、開発した接着剤は、物にくっつきやすく剥がしやすいという不思議な性質を持っていた。

当初は、Post-itは上司や同僚から接着力が弱いので「使い道がない」と評価され、商品化は断念された。しかし、シルバーは諦めずに様々な人にPost-itを使ってもらい、意見を収集したそうだ。シルバーは研究を続け、メモ帳などに貼り付けて簡単に剥がせる付箋のアイデアを思いついた。これが、Post-itの誕生だ。

1980年にPost-itが発売されると、その便利さから瞬く間に爆発的なヒットとなりました。発売から40年以上経った今でも、Post-itは世界中で愛用されている。Post-itは、偶然から生まれた製品を、アイデアと柔軟な発想によって、世界的なヒット商品とした事例だ。

Viagra(バイアグラ)

バイアグラは、は、当初は狭心症の治療薬として開発された。しかし、臨床試験中に、男性の勃起機能障害に効果があることが偶然に発見され、世界中で最も有名な勃起機能障害治療薬として知られている。

バイアグラは、1990年代初頭にファイザーの研究チームによって、狭心症の治療薬として開発されていた。しかしこの薬は狭心症に対しては効果が見られなかったものの、男性に意図しない副作用をもたした。それが勃起を促す効果だった。この意外な副作用に気づいたファイザーは、研究の方向を転換して勃起不全の治療に注力し始めた。当時、勃起不全の治療法は非現実的で非効率的なものが主でしたが、バイアグラはこの問題を改善することができた。

1998年にアメリカ食品医薬品局(FDA)は、この新しい治療法を承認し、アメリカでバイアグラが販売された。発売と同時に、バイアグラは即座に大ヒットし、最初の2週間で15万件の処方箋が書かれたそうだ。

このように、当初の目的から離れて様々な形で使用されるようになったバイアグラは、大ヒット商品になり、医薬品の世界においてその名を不動のものしている

テフロン

テフロンは、元々は冷媒ガスとして開発された化学物質だ。しかし、その開発過程で偶然、非常に滑りやすく、摩擦係数が低いことが発見された。この特性は、当初の用途とは全く異なる分野で大きな成功を収めることになった。

テフロンの意図しない用途の成功例としては、フライパンがある。テフロンの滑りやすさを利用して、焦げ付きにくいフライパンが開発された。これは、料理の手間を大幅に軽減し、世界中の家庭で広く使われるようになっている。

また、テフロンは、電気絶縁性にも優れているため、電線の被覆材として使用されている。これにより、電線の耐熱性と耐久性が向上している。医療機器としても使われている。生体適合性にも優れているため、人工血管や人工関節などの医療機器に使用されているそうだ。

知らなかったが、テフロンを繊維に加工することで、防水性や撥水性を持たせることができるようだ。これは、レインコートやアウトドアウェアなどの衣類に広く使われている。テフロンも意図しない発見が重要な役割を果たすことを示している。

ペニシリン

古い例だが、ペニシリンも意図しない結果で成功した事例だ。アレキサンダー・フレミングは1928年にペニシリンを発見したが、これは純粋な偶然の産物だった。フレミングはインフルエンザの研究をしていた際に、偶然、自分の実験皿にカビが生えているのを見つけ、そのカビが細菌の成長を抑えていることに気づいた。当初、フレミングはこのカビの臨床的な応用可能性に気づいておらず、彼の発見はある程度注目されたものの、当初は抗生物質としての開発にはつながらなかった。だが、後になって、他の科学者たちがフレミングの研究を基にペニシリンを抗生物質として開発し、これが医療の歴史を大きく変えることとなった。この偶然の発見が、感染症の治療方法を革新し、多くの命を救う結果をもたらした。

ポテトチップス

ポテトチップスは、1853年にアメリカのサラトガ・スプリングスにあるレストランで偶然誕生したという説がある。当時、レストランのシェフだったジョージ・クラムは、ある客からのクレームに頭を悩ませていた。

その客は、注文したフライドポテトが厚切りでないと文句を言った。クラムは、客の要求に応えるために、フォークで刺せないほど、わざと薄切りにして塩を大量にかけたフライドポテトを提供した。ところが、客はこのポテトチップスを大変気に入り、これがポテトチップスの原型となったという。

しかし、この説はWikipediaによれば伝説と考えられているようだ。

スラック(Slack)

スラックはもともと「Tiny Speck」というゲーム開発会社が作成したコンピュータゲーム「Glitch」の一部だった。だが、ゲーム自体は失敗に終わった。しかし、そのゲーム内で使用されていたチャット機能が高く評価され、独立したアプリケーションとしてリリースされることになった。

Slackは、チャット、音声通話、ビデオ通話など、リアルタイムでコミュニケーションを取ることができる。また、チャンネル機能に優れており、プロジェクトやテーマごとにチャンネルを作成することで、情報を整理することができるために、ビジネスでの用途として優れている。様々なビジネスアプリと連携することで、効率的なワークフローを実現することがでることも人気の理由だ。

スラックに人気が出た理由は、ビジネスでは、メールや電話に代わる新しく簡単なコミュニケーションツールが求められていたからだ。Slackは、リアルタイムコミュニケーション、チャンネル機能、連携アプリなど、ビジネスに必要な機能が揃っている。失敗したゲーム用のチャットツールをビジネス目的に転用するというアイディアが、大成功の要因だ。

Flickr

Flickrは、元々オンラインゲーム「The Game Neverending」の機能の一つとして開発された。しかし、ゲームよりも写真共有機能の方が人気を集め、2004年に独立したサービスとして誕生した。当時は、PCの時代で、PC向けサービスとしてスタート、高画質写真に特化して成功した。

当時は、手軽に写真を共有できるサービスが求められていたために、独立したサービスとして公開したことが成功の理由だ。さらに、ユーザーにとって使いやすいインターフェースやユーザー同士の交流を促進したことも大きい。

インスタグラム(Instagram)

Instagramは、当初「Burbn」というチェックイン機能を中心としたアプリとして開発された。しかし、写真共有機能の人気に着目し、2010年に写真特化型アプリとして生まれ変わり、大成功を収めた。この時代には、スマホの時代になっており、スマホ向けアプリとしてスタートしたことと、フィルター機能で個性的な写真表現が可能だったことが成功の要因だった。

本来の目的ではない、写真共有機能が人気を集め、独立したサービスとして成功したのはFlickrと同じだ。その後、著名人やインフルエンサーの活用した積極的なマーケティングを行なったことも人気が出て理由だ。

フリトレーのチートス (Cheetos):

チートスも偶然の産物だった。1930年代にウィスコンシン州ベロイトにあるFlakall Corporationという会社で、家畜用のコーンベースの飼料を生産していた際に、偶然生まれた。機械が、粒をより小さく食べやすいサイズに粉砕するプロセスの中で、高温に触れた結果としてポップコーンのような膨らんだリボン形のコーンパフが出てきた。このコーンパフを見たエドワード・ウィルソンというFlakallの従業員が、家に持ち帰ってチェダーチーズと塩で味付けし、Korn Kurlsと名付けた。これがチートスが後に市場に登場するきっかけとなったそうだ。

プレイ・ドー(Play-do) 小麦粘土

プレイ・ドーは小麦、水、塩が主成分の安全な粘土だ。元々、1930年代に壁紙から石炭の汚れを取り除くクリーナーとして販売されていた。しかし、1950年代になるとオイル・ガス暖房の普及により需要が減少し多々めに用途を変えて、子供用の玩具へと転換したことにより、玩具として成功した。すでに、60年以上、世界中の子どもに愛されている。本来の用途を変えて成功した事例だ。

YouTube

YouTubeは当初は動画共有サイトではなく、オンラインデートサービスとして開発された。しかし、動画共有機能の方が人気を集め、現在のYouTubeへと進化した。

出会いサイトとして、ユーザーが、自分が求める相手の性別や年齢を選択することができるように設計され、その際に自分のプロフィール動画をアップすることが多いだろうと動画投稿が機能として備わっていた。

しかし、このアプローチは成功せず、ユーザーはデート関係のビデオではなく、自分たちがアップロードしたいと思う様々な内容のビデオを投稿し始めた。創業者たちはこの機会を捉え、ウェブサイトを再構築して、人々が何でもアップロードできるプラットフォームに変更した。

この変更が功を奏し、YouTubeは迅速に人気を集め、短期間で大規模な視聴者基盤を構築した。そして、2006年11月には、Googleに約16億ドルの株式で買収された。それ以来、YouTubeはオンラインビデオ共有とストリーミングの世界的リーダーとなり、毎日何百万もの動画がアップロードされている。

YouTubeのこのような意図しない方向への転換は、創業者たちが柔軟に対応し、新しいユーザーのニーズや振る舞いを把握し、それに応じてビジネスモデルを調整した結果だ。

これらは、意図しない結果の、成功したビジネスの一例に過ぎない。多くの場合、これらの企業は、市場の状況や顧客ニーズの変化に対応しながら、そのビジネスは時間をかけて進化させていった。

意図せず成功したビジネスに共通する4つの要素がある。

1. 偶然の発見や失敗をチャンスと捉える

意図せず成功したビジネスの多くは、偶然の発見や失敗から生まれたという共通点がある。しかし、重要なのは偶然の出来事を単なる失敗として終わらせずに、ビジネスチャンスとして捉えることだ。

2. 潜在的なニーズに合致している

意図せず成功したビジネスは、必ずしも当初の目的通りに利用されているわけではない。しかし、いずれも潜在的なニーズに合致しているという共通点がある。

3. 柔軟な発想で改良を重ねる

偶然の発見や潜在的なニーズに合致しても、必ずしもすぐに成功するわけではない。多くの場合、試行錯誤を重ねて改良を加えることで、成功へつながっている。

4. 熱意を持って取り組む

意図せず成功したビジネスには、熱意を持って取り組んだという共通点がある。偶然の発見や失敗から生まれたアイデアであっても、熱意を持って取り組むことで、成功へと導いたといえる。

意図せず成功したビジネスは、偶然の発見や失敗から生まれたものが多く、当初は成功を期待されていなかったケースも少なくない。しかし、これらのビジネスには、偶然の出来事をチャンスと捉える柔軟な発想、潜在的なニーズへの対応、熱意を持って取り組むといった共通点があるようだ。

NVIDIAも、ゲームレンダリング用のGPUがディープラーニングに適しているということがわかった後で、大きくAI用の半導体に舵を切ったことで大きな成功に繋げた。さらに、GPUを組み込んだ、AI用のCPUの開発も行っている。多くのAIソフトウエアがNVIDIAの半導体をベースにして最適化されている以上、今後もNVIDIAの快進撃が続くのだろう。ただ、素人としては株価が続くかどうかわからない。

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