中国のLenovo(聯想集団)が、FIFA(国際サッカー連盟)との間で、「公式FIFAテクノロジーパートナー」として複数年にわたる契約を締結したことを発表した。この契約には、カナダ、メキシコ、アメリカの3カ国共催となるFIFAワールドカップ2026と、ブラジルで開催されるFIFA女子ワールドカップ2027が含まれる。
具体的には、Lenovoの製品、サービス、ソリューションが2026年と2027年のトーナメントでスポンサーとして使用される。ThinkPadラップトップ、タブレット、Motorolaモバイルフォン、サーバーに加えて、AIを活用した最新のイノベーションも含まれるという。
この記事を読んで、時代の変化を感じる。FIFAのスポンサーの日本企業は、2014年にソニーが撤退した後は一社もない。中国企業としては、ワンダグループが2016年から2024年までFIFAパートナー契約をしていた。
FIFAとの契約だけでなく、日本企業の大型スポーツイベントに対するスポンサーシップ戦略に変化が見られる。トヨタ、ブリジストンやパナソニックが、オリンピックのスポンサーから撤退する一方で、中国のレノボがFIFAワールドカップの最上位スポンサーになるなど、対照的な動きとなった。
日本企業がスポーツスポンサーシップから撤退する背景には、いくつかの要因が考えられる。
マーケティング目標の変化
トヨタやパナソニックといった日本企業は、すでに高い認知度を持つために、グローバルイベントを通じたブランド露出に依存する必要が薄れている。このため、大規模なスポーツイベントよりも、自社の経営戦略により密接に関連する分野や新たな広告手法に焦点を当てる動きと思われる。
有名な話では、パナソニックのオリンピックスポンサーシップは、放送機材市場への参入も目的の一つだったと言われている。オリンピックパトナーになることで、世界の放送局に機材の売り込みを図ったが、37年間のスポンサーシップで、その目的は達成できてしまったようだ。
スポーツイベントのマーケティング価値の低下
オリンピックなどの大型スポーツイベントのマーケティング価値が低下しているとの認識が広がっている。特に東京オリンピックにおける不祥事やFIFAの中東オイルマネーへの傾斜など、イベントのイメージの低下がある。
また、テレビ視聴率の低下や、インターネット広告の台頭により、従来型のマスメディアを通じた広告効果が減少している。さらに以前より、スポンサーシップによるブランドイメージ向上や販売促進効果を正確に測定することが難しく、投資に見合う効果が得られているのか疑問視する声もあった。インターネット広告のような明確な効果が測定できる手法が普及したことで、この対比が明確になったのだ。このような背景に加えて、テレビ中継が中心のスポーツイベントは、若者のテレビ離れが明らかになりつつあるなかで、企業にとって魅力が薄れつつある。
企業戦略の変化
ESG(環境・社会・ガバナンス)やSDGsへの注目が高まる中、従来型のスポンサーシップよりも、これらの要素に合致した活動への投資が優先されるようになってきた。また、経営環境や事業の変化に応じて、スポンサーシップの在り方を見直す企業も増えている。スポーツではない、自社の事業分野に近い別の分野でのスポンサーシップが増えるかもしれない。
高額化するスポンサー料
大型スポーツイベントのスポンサー料は高額化する一方で、得られる効果との費用対効果が見合わなくなっているという判断が、撤退の決断につながっている。トヨタは10年間で1300億円の資金と商品を提供したと報じられている。これが、効果に見合うかどうかの判断がされたということだろう。
Lenovoの戦略との対比
一方で、Lenovoが、FIFAの最上位スポンサーになった背景には、グローバルブランドの構築や技術力のアピールといった戦略的な狙いがあるという。Lenovoにとって、FIFAワールドカップはグローバルな知名度をさらに高める絶好の機会となる。Lenovoは、IBMのパソコン事業を買収しているが、ブランドとしては、まだ世界的に広く認知されているわけではなく、このような大型イベントを通じてブランド認知を強化することができる。だから、大型スポーツイベントのスポンサーシップは、まだ魅力的な投資先となっているのかもしれない。
日本企業の撤退は、大型スポーツイベントのスポンサーシップの在り方が変化していることを示唆している。マクドナルドも、1976年からIOCのスポンサーだったが、リオ五輪を最後に撤退した。協賛金負担やテレビ視聴率の低下などが理由だった。日本企業も今後は、持続可能性や社会的価値を重視したスポンサーシップモデルへの移行が予想される。
また、五輪スポンサーの撤退は、他のスポーツイベントにも影響を与える可能性がある。スポンサー料の見直しやイベントの運営方法の変化、さらにはスポーツ界全体の資金調達にも影響が及ぶかもしれない。
スポーツスポンサーシップは、投資金額さえリーズナブルであれば、露出や販売促進を始めとして、機材の採用など多くの効用があるのは確実だ。だから、スポーツのスポンサーシップが、廃れるということはない。採用する企業がなくなることはなく、有効なマーケティング手法として今後も利用されるだろう。問題は、オリンピックやFIFAワールドカップのスポンサー料が高くなりすぎたということなのかもしれない。
日本企業のスポーツスポンサーシップ戦略の変化は、商業化が進むスポーツイベントの在り方を問い直すきっかけになるかもしれない。あるいは、常にLenovoのような企業が登場するので変化しないかもしれない。確実なのは、日本企業にとっての、新たなスポンサーシップのモデルを模索していく必要性が高まっていきたということだ。