当然のことながら今ある法制度や様々な習慣は、今急速に進歩している能力の高いAIが存在しないことを前提に作られている。だが、AI技術の急速な進化が、これまでの前提や常識_破壊しつつある。具体的な例は、まず著作権だ。創作物とは人間が作ることを前提とした法制度となっている。また、ものづくりの責任を問う法律が、AI時代に適応できるかも問われることになるだろう。
AIが作ったものに著作権はあるか
現在の著作権法は「人間による創作物」だけを保護対象としている。文化庁のガイドラインによると、AIが自動生成した作品には原則著作権が認められない。ただし、人間がプロンプトで詳細な創作指示をし、生成過程で修正を加えた場合は「人間の関与」とみなされ、著作権が発生する可能性があるということになっている。
ケーススタディ
- 単純な指示「犬の絵を描いて」→ 著作権なし
- 詳細な指示「江戸時代の浮世絵風に、赤い首輪をした柴犬が富士山を見上げる構図で描いて」→ 著作権の可能性あり
類似作品問題の新たな課題
AIが過去の作品を学習して作ったものが、既存の著作物と似ている場合の判断が難しくなっている。従来の「依拠性」(意図的な模倣)の証明が困難なため、文化庁は「類似性が高ければ依拠を推定」する新たな考え方を提案している。つまり、AIが生成した画像が、たまたまピカチューに似ていれば、依存を推定して著作権が認められないということになる。
ではAIが生んだ発明の特許権はどうだろうか
2025年1月に出た知財高裁判決では、AI単独の「発明」に特許権を与えないと判断された。現行法では発明者は自然人(人間)に限られるためだ。しかし政府は、AI開発者を共同発明者とする制度改正を検討中だそうだ。
ケーススタディ
- 人間がAIをツールとして使った発明 → 従来通り人間が発明者
- AIが自律的に生み出した発明 → 現在は特許不可(法改正の対象か)
デザイン保護にも新たな課題が生まれる
今後は、AI予測デザインの影響が出てくる。例えば、自動車メーカーが新型車を開発中に、AIが生成した未来のデザインがネットに流出する事例が増加しているために、特許庁は2026年を目処にAI生成デザインが流布しても意匠権の新規性を損なわないよう法改正を進めているそうだ。
仮想空間の権利保護
メタバース空間で有名ブランドのデジタル化されたコピー商品が横行する問題に対し、現行法は実物のデザイン保護しか規定していない。2024年の調査では、仮想空間の模倣品取引が前年比300%増というデータもあり、早急な対策が求められている。今後、AIデザインのデジタル化デザインの保護も検討することになるだろう。
自律型AIコントロール器機だがの製造者責任
だが、これらの著作権や特許権保護の問題以上に大きな課題は、製造者責任だ。例えば、自動運転車の事故責任はどうなるのだろうか。2018年の政府ガイドラインでは、自動運転中の事故も従来通り車の所有者が責任を負う方針で、日本では今のところ、これは変更の議論もない。それは、完全自動運転が日本では当面は認められないからかもしれない。。ただしハッキング被害など「予見不可能な要因」の場合、国が補償する新制度が検討されているようだ。
だが、海外では完全自動運転の実用化で、AIの責任の議論が進んでいる。アメリカの2023年のテスラ車事故裁判では、運転手の過失とシステム不具合の双方が指摘され責任を問われている。また、2024年の配送ロボット衝突事故では、初めてメーカー責任が認定された。こののふきゅゆがの普及が進むにつれて、AI責任をあるいはAI製造者責任を、どこまで問うのかを決めなければいけない段階に入りつつある。
AIのエージェント化が進み、自律型AIコントロール器機の行動に対して、現在4つの責任案が議論されているという。
- 1. AI自体に責任(法的人格を与える)
- 2. メーカー責任(製品欠陥とみなす)
- 3. 使用者責任(管理不備を問う)
- 4. 国家補償(保険制度を創設)
アメリカの現行法では2と3の組み合わせが主流のようだが、AIの高度化に伴い1と4の導入検討が活発化しているという。これも、日本では自動車などの自律型AIコントロール器機の認可はまだまだ認められないから、この議論も先になるのだろう。
AI技術は、この2年ほどで急送に進んでおり、いまや言語や画像生成のネットの中の閉じ込められた話でなくなりつつある今、AIが現実世界で使われることを前提とした議論の時期になっている。日本のメディアでは、まったく、そのようなことは報じられないが、手遅れにならないか心配になる。