OpenAIは、ChatGPTのチャットボットから、事業の柱を「AIスーパーアシスタント」への戦略転換を推進しているそうだ。OpenAIが公開した内部戦略文書「ChatGPT: H1 2025 Strategy」によると、2025年前半にChatGPTを「あなたを深く理解し、インターネットへのインターフェースとなるAIスーパーアシスタント」へと進化させると明記されている。この戦略は、従来のテキストベースのチャットボットを超えて、ユーザーの日常生活のあらゆる側面にAIを統合することを目指しているということのようだ。
文書によると、この戦略は、ビジネスモデルの多角化、インフラ戦略、グローバルパートナーシップの三位一体で構成される。
OpenAIの戦略は「機能進化」「収益多様化」「生態系構築」の三次元で展開される。内部文書が示す「T字型スキル」コンセプトは、日常タスク(水平軸)と専門業務(垂直軸)を統合するハイブリッド機能を中核に据える。GPT-4oシリーズの推論速度向上(従来比300%)、o3-miniのエネルギー効率改善(45%削減)といった技術革新がこれを支えるという。学生にはT字型スキルを目指せといつも言っているが、AIの能力も同じ方向を目指していることが面白い。AIを以てしても全方向型は難しいということか。
それから、マルチモーダル統合技術の進展は決定的な差別化要因だそうだ。2025年Q2実装予定の「ジェネレーティブUI」は、テキスト入力から動画編集までをシームレスに処理する能力を具現化する。これにより、不動産探しにおけるVR物件閲覧と契約書作成を単一インターフェースで完結させるといった利用が可能となるらしい。
収益構造のシフト
OpenAIの収益戦略は「三段階の多角化」で構築されている。第一段階のChatGPT関連収益(2029年予想500億ドル)に加え、第二段階としてAPI接続料(同220億ドル)とエージェント事業(同290億ドル)を位置付ける。特に注目すべきは価格帯別のエージェント戦略で、月額2,000ドルの知識労働者向けから2万ドルの博士研究支援まで、階層化したサービス体系を構築する。最高額は、年間使用料が24万ドルだ。今のレートで4000万円近い。これが、本当に市場性があるのか注目だ。4000万円あれば、相当有能な人材を雇用できる。違いは、AIなら24時間・週7日間働けるというメリットはあるが。
第三の成長エンジンとなる新事業では、ジョニー・アイブとの音声AIデバイス開発と「Yeet」コードネームのSNSプラットフォームが進行中だ。前者は2026年発売予定で、常時接続型ウェアラブル端末によるコンテキスト認識精度を90%まで高めることを目標とするそうだ。これは、全く新しい領域で、それぞれに強力なライバルがいるから、簡単にはいかないだろう。
成長戦略で注目すべきことは、グローバルパートナーシップでは、日本市場においてNTTデータグループと1000億円規模の共同プロジェクトを展開することだ。また、三菱UFJ銀行向け与信管理AIでは、融資判断精度を従来比25%向上させる実績を挙げている。さらに」「Stargate」プロジェクトでは、ソフトバンクやOracleと連携し、77兆円規模のAIデータセンター網を構築中だ。このように日本市場もかなり意識している。
OpenAIが直面するチャレンジは、AGI開発に必要な投資規模と収益化スケジュールの乖離にあるそうだ。2029年の黒字化目標達成には、現在の研究開発費(収益比180%)を2028年までに75%以下に抑制する必要がある。これに対し、MicrosoftとのAzure連携でクラウドコストを30%削減するほか、ソフトバンク主導の400億ドル調達で財務基盤を強化する計画だという。
面白いのは、AI開発競争が続く市場においては、MetaのLlama3.5が潜在的な脅威となると考えているようだ。GoogleのGeminiでは無いことが興味深い。Llama3.5に対抗すべく、OpenAIはDeep Think技術を活用し、競争するという。やはり推論モデルが重要なようだ。
だが、OpenAIの戦略は、単体技術の進化ではなく「AI生態系」の再定義にあるという。スーパーアシスタント構想は、ユーザー体験を新たに作り変えることにあるという。このために、2027年までに予定する「AIマーケットプレイス」立ち上げにより、外部開発者を取り込んだエコシステム拡大を図るという。
AGI実現への道程で、日本を含むグローバルパートナーシップが、AI技術覇権競争の鍵と考えていることを明確にしている。ということは、今後も日本語のAI開発に力を入れるし、B2BとB2Cを問わず日本市場向けのサービスが生み出されそうだ。