Disney と Universalが、AI画像生成企業Midjourneyを著作権侵害で提訴した。この訴訟は、ハリウッドの主要スタジオが生成AIに関する法的措置を初めて講じたケースとして、AI技術と著作権法の重要な転換点となった。
DisneyとUniversalは、Midjourneyが「無数の」著作権で保護された作品を無断で使用してAIソフトウェアをトレーニングし、ユーザーが「露骨にDisneyとUniversalの有名キャラクターを取り入れ、コピーした」画像を作成できるようにしていると主張している。訴状では、Midjourneyを「典型的な著作権フリーライダーであり、盗用の底なし沼」と表現しているという。
報道によると、Disneyは昨年Midjourneyに「停止・差止」通知を送付したが、Midjourneyは受領確認以外の対応をしなかったとされている。また、Universalも先月同様の通知を送付しましたが、一切の返答を受け取っていないとのことだ。
DisneyとUniversalは、Midjourneyに対して損害賠償を求めているが、具体的な金額は明示されていない。また、裁判官に対して、Midjourneyが「適切な著作権保護措置なしに今後のビデオサービスを提供すること」を差し止めるよう求めている。訴状の資料によると、侵害されたとされる作品は150以上あり、DisneyとUniversalが勝訴した場合、損害賠償額は2,000万ドル(約30億円)を超える可能性があるそうだ。
Midjourneyについて
Midjourneyは、この1年少し画像生成に使っている。画像生成AIの代表的なサービスで、他のサービスより高度な画像が生成できるので使っている。
Midjourneyは、2022年7月に立ち上げられて、2024年までにDiscordサーバー上で2,040万人以上のユーザーを獲得している。収益は2022年の5,000万ドルから2023年には2億ドル、2024年には3億ドルへと急成長した。2025年5月現在、Midjourneyのディスコードコミュニティは2,100万人以上のメンバーに成長し、同プラットフォーム最大のコミュニティとなっている。これは、当初はDiscord経由でないと画像が生成できなかったからだ。だが、今はブラウザで使えるようになった。
具体的な侵害事例
訴状には、Midjourneyが生成したとされる多数のキャラクター画像の例が含まれている。例えば、ユーザーが「ダース・ベイダー」の画像を要求すると、AIはすぐにその要求を満たす。同様に、「ミニオンズ」の画像も生成されます。その他にも、ヨーダ、ウォーリー、アイアンマン、ライトニング・マックイーン、スパイダーマン、グルート、「アナと雪の女王」のエルサ、そして様々なスターウォーズのキャラクターなどが含まれている。
他の著作権訴訟
Midjourneyなどの生成AI企業に対する訴訟は、これが初めてではない。2023年には、アーティストのグループがMidjourneyを含むAI企業を著作権侵害で訴えている。また、Getty Imagesは2023年1月に、Stability AIに対して法的措置を講じた。ニューヨーク・タイムズもOpenAIとMicrosoftを著作権侵害で訴えている。
フェアユース論争
多くのAI企業は、著作権で保護された作品を使用してAIモデルを訓練することは、米国特有の著作権の概念の「フェアユース(公正使用)」の原則の下で許容されると主張している。しかし、2025年2月、デラウェア州の連邦地方裁判所の判事は、AI訓練のための著作権侵害訴訟でフェアユースの抗弁を明確に拒否し、被告に直接的な著作権侵害の責任があるとの判決を下した。
米国著作権局の見解
2025年5月9日、米国著作権局は「著作権と人工知能」レポートのパート3のドラフト版を公表した。このレポートでは、AI訓練のための著作権で保護された作品の使用は、多くの場合、変形的使用(transformative use)である可能性が高いとしているが、最終的なフェアユースの判断は、生成AIの出力画像が、AI訓練に使用された著作権で保護された作品と関連するとしている。つまり、出力が元の著作物とどれだけ似ているかということだろう。その意味では、Midjourneyのケースでは、DisneyとUniversalの著作物と、ほぼ同一の画像が生成できることが問題になるかもしれない。
日本におけるAIと著作権
日本では2019年1月1日に改正著作権法が施行され、日本は、世界で最もAIフレンドリーな国の一つになった。第30条の4では、AIモデルのトレーニングを含む、あらゆるタイプの情報分析のために著作権で保護された作品を取り込み、使用する広範な権利が認められている。ここが米国とは大きく違う。DisneyとUniversalの今回の訴訟の、著作物をAIトレーニングに使ったというような訴訟は日本ではできない。
日本の文化庁は2024年1月23日に「AIと著作権に関するアプローチ」の草案を公表し、日本における著作権で保護された素材の取り込みと出力をどのように考えるべきかを明確にしようとしている。だが、日本の立場は、AIモデルトレーニングは著作権法に違反しないというものだ。
今後のAI開発への影響
今後は、世界ではAI技術を作成または使用する組織に対する規制当局の監視が強化されると予想される。AIのメリットと知的財産権の保護に関する懸念のバランスをとるのが流れだ。
裁判所がAI開発者に不利な判決を下した場合、AI開発企業は出版社、アーティスト、その他のコンテンツ所有者とのライセンス契約する必要が生じる。これは、すでに動きがあり、一部の企業はライセンス契約を結び始めた。
DisneyとUniversalによるMidjourneyに対する訴訟は、生成AIと著作権の重要な法的戦いの始まりだ。この訴訟の結果は、AIモデルのトレーニングに著作権で保護された作品を使用することの法的な判断を形作り、AIの開発とコンテンツ創造産業の未来に大きな影響を与えるだろう。