アドテック企業のPubMaticと、AI会話分析のKontextがパートナーシップを発表した。Kontextは大規模言語モデル(LLM)を使い、AIチャットボット内に文脈に合った広告を生成するプラットフォームだ。この提携により、AIチャットボットの広告枠が初めてSSP(サプライサイドプラットフォーム)と統合され、プログラマティック広告の世界に足を踏み入れた。検索連動型広告が誕生したときと同じように、新しい情報空間が開拓され、そこに広告が挿入される。
20年前を思い出す。Google AdWordsが検索結果に広告を表示し始めたときに、新しい形の広告に驚いた。それまでの検索が大きく変わり、広告市場に組み込まれたのだ。初めて検索意図が商品として売買されるようになった。当時は、多くは眉をひそめた。それは、Googleのシンプルでクリーンなイメージに合わなかったからだ。だが気づけば、その世界に慣れ、むしろ関連性の高い広告を便利だと感じるようになっていたる人も数多くいると思う。
そして、今、同じことがAIチャットボットで起きようとしている。
これは、技術的には驚くほど目新しくない。OpenRTBプロトコルで動作し、既存のプログラマティック取引と本質的に変わらない。
新しいAIチャットボットが次々と誕生し、ユーザーも増加する中で広告主の関心も高まっている。ChatGPTのような主要LLMは現在、有料広告を掲載していないが、時間の問題だろう。消費者向けAI製品の多くは、最終的に純粋なサブスクリプションモデルではなく、広告収益へと舵を切るのは、Netflixなどの例を見ても、ある意味では自然な流れだ。Googleが無料検索を維持するために広告を選んだように、AIチャットボットもまた同じ道をたどる。歴史は繰り返されるのだ。
AIチャットボット広告は、検索連動型広告の進化系だ。従来の検索では、「ピザ 配達」と打ち込むユーザーの背景は見えなかった。だがAIチャットボットでは、「今夜、友人が6人来るんだけど、どんなピザを注文したらいい?」という具体的な文脈が見える。広告主にとって、これは夢のような世界だろう。AIチャットボット検索は、明示的で、この瞬間のニーズについて顧客と会話する。
メディア・コンテンツ配信者の悲劇
新しいAIチャットボットにとって広告の組み込みは歓迎すべきことだ。だが、既存のメディア・コンテンツ配信者にとっては悪夢の再来だ。
検索連動型広告が台頭したとき、新聞社やオンラインメディアは広告収益の大部分をGoogleに奪われた。読者は記事を読む前に検索結果で答えを見つけ、広告主は高額なバナー広告より安価で効果的な検索広告を選んだ。メディア・コンテンツ配信者はSEOに取り組み、Google AdSenseで細々と収益を得ながら生き延びてきた。
いま、この構図がAIチャットボットで繰り返されようとしている。この数年、AI検索エンジンやGoogleのAIオーバービューが登場して以来、遷移数は着実に減少してきた。それでもメディア・コンテンツ配信者には少なくとも何らかの広告収益源があった。だが広告主が予算をAI検索へとシフトさせたらどうなるのか。答えは20年前に出ている。メディア・コンテンツ配信者は、大幅な広告収入の減少に直面する。
かつて新聞社が自社サイトを立ち上げ、ブログプラットフォームを試み、モバイルアプリを開発したように、いまメディア・コンテンツ配信者は再び適応を迫られている。だが勝者は誰だったか。結局、大規模なプラットフォームが市場を支配した。
20年前、検索連動型広告は情報へのアクセスを民主化すると謳われた。実際、それは部分的に真実だった。だが同時に、検索は商業化され、Googleにアクセスが集中した。AIチャットボットへの広告挿入は、この歴史を繰り返すだけでなく、より深く、よりユーザーの私的領域へと踏み込む。
ユーザーとの会話が商品化され、ユーザーの思考や意思が最適化され、親密さが演出される。その結果何が起こるかの答えはまだ見えていない。だが歴史は教えてくれている。無料で便利なものには、常に隠れた代償がある。
