映像配信サービスのニュースが続いている。Netflixが10年来初めての20万人の契約者の減少を発表し、株価を大きく下げた。そして、そのNetflixのCEOが、これまで強く否定してきた広告の導入を、近いうち行うだろうと述べた事が、大きなニュースになっている。これは、契約者の成長が頭打ちになることを考えて、収益の多角化を図ろうとしている判断だ。
現時点では、広告の入らない有料のサービスと広告の入る無料の配信サービスが契約者獲得に、しのぎを削っている。日本では、千円から数千円、アメリカでも15ドル程度の広告の入らない有料配信サービスは、そう安くないものである。だから、多くの契約者を獲得するためには、広告を入れ料金を抑えたプランを導入するのは1つの方法だ。Netflixに先立って、3月に既にDisney+が広告付配信プランを導入することを発表している。
Netflixの爆発的な契約者の成長や、OTTサービスの可能性を見て、メディア企業がこの市場に参入している。アメリカでは、ケーブルテレビの契約者数も多くその価格も高いことから、有料配信サービス市場に成長の余地があると踏んでのことだろう。その結果、すでに市場は飽和状態だ。
そんな状況の中で、3月29日にスタートしたばかりのニュースの有料配信サービスCNN +が4月30日で打ち切りになることが発表された。このCNN +は、単独のニュースサービスとして、広告なしで5.99ドルドルで提供されている。Warner Mediaがこのビジネスの立ち上げに要した費用は3億ドルと言われている。また、スタート当時のWarner MediaのオーナーのAT&Tの経営からは、立ち上げ4年間で10億ドルの予算が承認を受けていたそうだ。多分メディアの歴史の中での例のない、巨額の費用を要した事業と言える。
しかし、立ち上げ時の大キャンペーンにもかかわらず、視聴者の数は1万人を超えなかったと報道されているし、別の報道では、CNN +は、立ち上げ2週間で15万人しかの有料契約者を獲得できなかったようだ。莫大なコストに比べると、その数はあまり少ない。
CNN +は、ケーブルで放送されている本体のCNNとは別に独自のコンテンツを提供するとされていた。CNNの人気キャスターが登場して、様々なコンテンツが配信されていたようだ。しかし、放送のCNNと違って、リアルタイムのニュース、「ヘッドラインニュース」はCNN +では見ることができない。だが、ここが差別化のポイントであったのだろう。
Discoveryとの合併前のWarner Mediaは、単独のニュースサービスとしてCNN+を立ち上げた。これは他のメディアコンテンツ会社の戦略とは違っていた。競合のParamount+やNBCユニバーサルのPeacockは、そのグループ会社のCBSやNBCのニュースを含めて提供しているし、そもそも、アメリカの3大ネットワークCBS、 ABC、 NBCはすべて無料のニュースアプリを持っており、契約して無料でニュースにアクセスができる。その中でCNN +が、有料契約者を獲得するのは難しいことだと言うのは、後智恵かもしれないが、難しいものだろう。
CNNの幹部は、CNNの人気キャスターが提供する独自コンテンツを単独でも月に5.99ドルの価値があると判断した。しかし、CNN+の立ち上げからわずか10日後に、Warner Media は、Discoveryと経営統合され、新たにWarner Brothers Discoveryが誕生している。経営統合とはいうものの、実施的には、Discoveryによる買収だ。この新会社がニュースだけのスタンド・アローンのサービスは難しいと判断した。
Discoveryは、過去に車、食事、ゴルフなど単独のニッチな配信サービスを手がけ、いずれも失敗している。だから最初からスタンド・アローンのサービスは難しいと考えていたのだろう。そこに、開始直後の、1万人しか見ていないなどというニュースである。これは、経営者が気にする株価に大きな影響を与える。しかも、新会社としての上場直後だ。結論は見えていた。
Warner Brothers Discoveryの配信事業の責任者は、消費者は単純さと全部入りのサービスを求めていると話をしている。このようなことを考えると、映画中心のHBO Maxに、Discoverが持っているコンテンツやCNNのニュースを加えた、新ブランドが立ち上がるのか、あるいはHBO Maxのブランドの下で多くのコンテンツを統合して、より競争力の高いサービスを目指すのかもしれない。
この映像配信サービスの競争は、メディアの未来をめぐる競争で、これは当分続く事が予想される。