日本では村上の最終座席のホームランでのホームラン王が話題になっている。同様に、アメリカでは、アーロン・ジャッジが62本目のホームランを打って、アメリカン・リーグのホームラン王の記録を更新した。これで、アメリカン・リーグのMVPは決定だろう。大谷の投打でのダブル規定数達成は、近代のメジャーリーグでは史上初というが、残念ながら、話題性ではジャッジの記録達成には及ばない。
ジャッジの記録は、ベーブ・ルースの記録を塗り替えたロジャー・マリスの記録を破ったと言うことだ。ベーブ・ルースはアメリカの野球界の神話的人物であり、またヤンキースの代名詞である。そのベーブ・ルースが絡んでいるところが、この話題の中心だ。
ベーブ・ルースは1927年に60本のホームランを打っている。この記録は、神聖視されて、誰も達成できないと考えられていた。1961年に61本のホームランを放って、その記録を破ったのがロジャー・マリスだった。神格化されているベーブ・ルースの記録を破るまでには、多くの出来事があったようだ。ウィキペディアによれば、コミッショナーまで、当時も今と同じ162試合のシーズンであったが、ベーブ・ルースの時代と同じ154試合までに61本を打たない限り、たとえ61本を打ったとしても、両者の記録は併記されると発言していたと言う。
また、ロジャー・マリスはアスレティックスからトレードでニューヨークに来た選手であったため、ヤンキースの生え抜きではないことも、多くのヤンキース、ニューヨーカー、野球ファンにとって大きな反感の要因であったようだ。ヤンキースの神様のホームラン記録を、よそ者が破るとことに多くの人が耐えられなかったと言うことのようだ。
今回のアーロン・ジャッジのホームラン王の挑戦は、全米はもちろん、特にニューヨークでは大きな話題になっていた。それは、ジャッジが生え抜きのニューヨーク・ヤンキースの選手だからなのか、今回の対象の記録が、ベーブ・ルースのものではなく、ロジャー・マリスのものだからなのか、あるいは、ニューヨーカーが少し成長したのか。多分、現時点のホームラン王の記録について、アメリカ人の嫌悪感が裏にはあると思われる。
このジャッジのホームラン王への挑戦は全米で注目を集めた。結果としては、メジャー全体の記録には及ばず、アメリカン・リーグのホームラン王の記録更新にとどまった。だが、関心はそれ以上のものがある。多くの人が、ジャッジが、メジャー全体の記録更新を望んでいたのだろうと思う。
メジャーリーグのホームラン王の記録は、バリー・ボンズの73本だ。ジャッジの62本(現時点)は、はるかに届かない。しかし、ながらバリー・ボンズ73本も、マーク・マクガイアの70本も、サミー・ソーサの60本も、全て筋肉増強剤などの薬物の使用によって達成されたと言う疑惑が払拭されていない。
ある意味で汚された記録である。だから、ジャッジのホームラン王への挑戦はクリーンなホームランとみなされ、メジャーリーグの本当の記録をアメリカの野球ファンは求めているのかもしれない。だから、ジャッジの記録が62本で、メジャーリーグ全体の記録には届かなくても、感覚的には、本当の記録として考えていると想像する。記録が二重構造になっているかのようだ。
一方で、ヤクルトの村上のホームランは、王選手を抜いた単独2位になる記録であって、バレンティンの60本を抜いたわけではない。歴代第2位の記録であって、それ以上でもそれ以下でもない。それを、カッコ付きで、日本人選手として首位と言うのは、記録であって記録ではない。メディアがそのように書きたてるのは、まるで自らの排他性を強調しているように見えて、嫌な気持ちになる。
もちろん村上の今年の活躍は賞賛に値すべきであり、しかも最終打席のプレッシャーの中でホームランを打つと言うのは並の選手では無い事は確かだ。そして歴代2位のホームラン数を記録した事は素晴らしい。日本人選手とか言うような、排他的な記録の二重構造を持ち込まず、今回は2位で良いではないか。彼の今後の61本以上の歴代1位のホームラン王を待つことにしたいと思う。
今年は日本でもアメリカでも、たまたまホームラン王で盛り上がった。これは、野球というスポーツにとっては非常に良いことだ。