Googleは、このところ政府による独占禁止法訴訟の標的になっており、それがGoogleの解体につながる可能性があると報道されている。8月には、連邦判事は、Googleがオンライン検索市場で独占的な地位を占めていると判断した。司法省は、GoogleがAppleやMozillaなどの企業と結んだ数十億ドル規模の検索エンジンに関する契約を問題視しており、これらの契約が競合他社による検索エンジンの開発意欲を削ぐものだと主張している。そして、連邦判事は、こうした優位性がGoogleに検索広告の支配の元になり莫大な利益を上げていると指摘した。
Googleは検索連動広告の数字は発表していないが、Google Search & Otherの項目の年間売上は、2023年には約1,750億ドル(約26兆円)に達している。日本の総広告費が7兆円少しだから、その巨大さが分かる。この30年弱でGoogleは検索連動広告で帝国を築いた。
検索エンジンの歴史
そこで、振り返って検索エンジン調べてみると、「Gopher」が最初の検索エンジンだと思っていたが、世界初の検索エンジンは、「Archie」だった。これは、FTPサイトに保存されているファイル名をインデックス化し、ユーザーがキーワードで検索できるというシンプルなものだったようだ。その後、「Veronica」や「Gopher」が登場したそうだ。私がGopherを触っていたのは、1990年ころのことで、CompuserveからGopherでインターネット上の情報を探したと覚えている。それより前にArchieがあったということのようだ。
1990年代半ばには、「Lycos」、「AltaVista」、「Excite」、「Infoseek」、「Yahoo!」など、が次々と登場した。これらの検索エンジンは、ウェブページの全文をインデックス化し、キーワードマッチング技術を用いて検索結果を表示していた。つまり、ウエブページを登録する手作業に頼ることが多かった。しかし、当時の技術では、ウェブページの関連性や重要性を正確に評価することが難しく、ユーザーは大量の検索結果の中から必要な情報を探すのに苦労した。
それでも検索エンジン間の競争は激しく、各社は日本でもテレビ広告をしていた。今でも覚えているのは、Lycosの浜崎あゆみを使ったCMだ。
そして、いよいよGoogleの登場だ。1998年、スタンフォード大学の博士課程に在籍していたラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンによってGoogleが設立された。Googleは、「PageRank」と呼ばれる革新的なアルゴリズムを導入し、ウェブページの重要度を評価することで、より正確で関連性の高い検索結果を提供することに成功した。
PageRankは、ウェブページ間のリンク関係を分析し、多くの重要なページからリンクされているページほど重要度が高いと判断するアルゴリズムだ。このアルゴリズムにより、Googleは従来の検索エンジンよりもはるかに優れた検索結果を提供し、瞬く間に世界中のユーザーから支持を集めたのだった。また、今と同じシンプルな検索画面で、それまでの多くの情報が集まった他の検索エンジンと違い新鮮だったことを覚えている。
PageRankは、ウェブページをランクするから、ページランクだと最初は思っていたが、実は発想者のラリー・ペイジのペイジだとかなり経ってから知った。
Googleは、PageRankの成功により、21世紀に入ってから検索連動広告を開始して検索エンジン市場で圧倒的な地位を築いた。現在、Googleは世界中で90%以上の検索市場シェアを占めており、事実上の業界標準だ。この圧倒的な 検索の支配とその収入から、メールや地図、ウエブトラッキング・分析などを無料で開始して、それまであった多くのビジネスを破壊した。
Googleの独占的地位に対しては、各国政府から 規制の目が向けられている。特に、米国司法省は、Googleが自社の検索エンジンを優遇し、競合他社を排除しているとして、2020年に独占禁止法訴訟を提起した。
米国司法省は、Googleが Android OS において自社の検索エンジンをデフォルト設定にすることや、 Apple との契約を通じて Safari ブラウザで Google 検索を優先的に表示させることなどが、競争を阻害している と主張している。また、米国司法省は、Googleが Chrome ブラウザや広告事業を分割することで、競争環境を改善し、新規参入を促進できると考えているようだ。
Googleは、ユーザーの検索履歴や位置情報などの個人データを収集し、ターゲティング広告などに利用している。このデータ収集 に対しては、プライバシーについての懸念の声は以前よりある。
一方で、Googleはユーザーのプライバシー保護に努めていると主張し、データの匿名化や暗号化などの対策を講じているという。広告ビジネスを行っていないAppleが、SafariやiOSからデータ収集を無効にしていることとは対象的だ。もちろん、集める必要がないのは、Appleが広告に関係ないハードウエアメーカーだからだ。広告で成り立っているGoogleとは違う。
AI技術による検索市場の変化
だが、AI技術の急速な発展は、検索エンジンにも大きな変化をもたらしている。Googleは、 RankBrain や MUM(Multitask Unified Model)などの AI 技術を導入し、より自然で直感的な検索体験を提供しようとしている。
RankBrainは、機械学習を用いてユーザーの検索意図を理解し、より 関連性の高い検索結果を表示するアルゴリズムだ。MUMは、複数のタスクを同時に処理できる AI モデルで、テキスト、画像、音声など、様々な情報を統合して検索結果を表示することができるようだ。
ただ、検索を巡っては、生成AI技術の進化で変化が起こり始めている。Perplexityは生成AIと検索を組み合わせたサービスを行っているし、OpenAIもChatGPTに検索エンジンを組み込んだ。今後はGoogleの検索のように、検索ワード(クエリ)を入力して、その情報のあるサイトを探すのではなく、AIに自然言語で質問することで、AI が 回答を生成する形に変わると思われる。
ネットのプライバシーの課題
また、プライバシー重視やデータ収集に対する 懸念を受けて、検索エンジンも、その方向に合わせたサービスも人気が出始めた。「DuckDuckGo」や「Brave Search」などのプライバシー重視型検索エンジンだ。これらの検索エンジンは、ユーザーの検索履歴や個人情報を収集せず、トラッキングをブロックすることで、プライバシー保護を重視している。
DuckDuckGoは、ユーザーの検索クエリを匿名化し、検索履歴を保存しない。また、DuckDuckGoは、ウェブサイトのトラッキングをブロックする機能も提供する。Brave Searchは、Braveブラウザに組み込まれた 検索エンジンで、広告やトラッキングをブロックすることで、高速で安全な サイトを閲覧できる。
欧州でも、新しい動きがある。アメリカのGテクノロジー 企業への依存を減らし、ネットでの自主性のために、オープンソース型検索エンジンの開発が進められている。「OpenWebSearch.eu」は、EUの Horizon Europe プログラムが資金提供するプロジェクトで、フランス、ドイツなどの研究機関が共同で開発を進めている。
OpenWebSearch.euは、プライバシーと透明性を重視した検索エンジンだそうだが、現時点では実用化のスケジュールは発表されていない。
検索エンジンは、インターネットの進化とともに発展を続けてきた。その歴史の中でGoogleの登場は、検索技術に革命をもたらし、インターネット を大きく変えた。その結果、Googleという独占的地位を持つ企業を生み出した。様々な企業が検索ニーズに対して様々な形のサービスを提供していくのだろう。その中で、GoogleもGeminiなどのAI技術を活かして、検索エンジンをどのように変えて行くのか注目される。