Googleは、iPhoneを含むiOSデバイスでの広告効果測定を行うことの出来るソリューションを順次導入することを発表した。この「Integrated Conversion Measurement(統合コンバージョン測定)」は、Appleのプライバシー規制強化によって困難となった広告効果の測定に新たな道を開くものだ。
Appleのプライバシー強化が広告業界にもたらした変革
2021年、AppleはiOS 14.5のアップデートと共に「App Tracking Transparency(ATT)」を導入した。これにより、アプリがユーザーのデバイスを横断して追跡するには、ユーザーからの許可を得る必要が生じた。この変更以前は、広告主やマーケティング担当者は「IDFA(Identifier for Advertisers)」と呼ばれる広告識別子を利用して、ユーザーの行動を追跡し、広告の効果を測定していた。
ATTの導入により、ユーザーは自分のデータが追跡されるかどうかを選択できるようになり、これが、デジタル広告を大きく変えることになった。当初、業界では、トラッキングを不許可にするユーザーの割合が一桁台にとどまると予測されていたが、実際にはAppsFlyerの調査によると全体で約41%、アプリ1個あたりの平均では28%と予想を上回る結果となった。多くののユーザーがトラッキングを拒否する状況は、広告主にとって大きな課題となった。
iOS 14.5の変更により、主に以下のような影響が広告業界に生じた。
- アプリインストールキャンペーンでのコンバージョン計測データの欠損
- リエンゲージメント広告の実施が困難に
- 広告収益への影響(オプトアウトユーザーのCPMが約30%減少)
SKAdNetwork Appleのプライバシー重視の測定ソリューション
Appleは広告効果測定の課題に対応するため、「SKAdNetwork(SKAN)」と呼ばれるプライバシーを重視したアトリビューション・計測ソリューションを提供している。SKAdNetworkは2018年に導入されたが、iOS 14.5以降、IDFAを利用できないユーザーのアトリビューションを行う唯一の方法として重要性が高まった。
SKAdNetworkは、IDFAを使用せずにアプリのインストールやコンバージョンを計測可能で、プライバシーを保護しながら広告効果を測定を行うことが出来る。しかし、SKAdNetworkは制限も多い。例えば、ユーザーレベルのデータは取得不可であることやリアルタイム計測ができないことだ。これらの制限により、広告主は詳細な広告効果の分析や迅速な広告キャンペーンの最適化が困難になっている。
Googleの新アプローチ Integrated Conversion Measurement
このような状況を改善するため、Googleは「Integrated Conversion Measurement(ICM)」という新しいプロトコルを開発した。2025年5月から順次展開されるこのソリューションは、プライバシーを保護しながらもより正確で包括的な広告効果測定を実現するという。
ICMの主な利点
1. iOS・Androidの両プラットフォームでの強化されたレポート
iOS 14以降のユーザーやAndroidのEEA(欧州経済領域)ユーザー、またはデバイスレベルの許可をしていないユーザーの広告コンバージョンに関するリアルタイムでイベントレベルのレポートが可能になる。これにより、広告主はこれまで見えづらかったユーザー層の行動も含めた広告キャンペーンのパフォーマンスを把握できるようになる。
2. プライバシー保護技術の活用
ICMはデバイス上でのコンバージョン測定などの革新的な技術を取り入れ、ユーザープライバシーを侵害することなく測定精度を向上させる。この点がAppleのプライバシー規制と両立できる重要な要素となっている。
3. 柔軟な統合
サードパーティのアプリアトリビューションパートナー(AAP)を利用する広告主や、アプリコンバージョントラッキングAPIを使用している広告主向けにレポートを統合して作成。
デバイス上でのコンバージョン測定 プライバシーと精度の両立
Googleの新しいアプローチの核心は「On-device conversion measurement using event data(イベントデータを使用したデバイス上でのコンバージョン測定)」だ。これは個人を特定できないアプリイベントデータを活用し、デバイス上で処理を行うことで、ユーザーのプライバシーを保護しながらiOSキャンペーンの最適化とレポートを改善する。
この技術では、以下のような仕組みが採用されている。
- ユーザーのデバイス上でイベントデータ(広告クリックやアプリ内での行動など)を処理
- 個人を特定できない一時的なデータを匿名化して使用
- デバイスから個人データを外部に送信しない(Appleのプライバシー規則を遵守)
この方法はMetaが開発した「Aggregated Event Measurement(AEM)」と類似しており、Metaも2021年3月にこのプロトコルを導入し、ウェブキャンペーン向けに始まり、後にアプリ再エンゲージメントキャンペーン、そして2023年6月にはアプリプロモーションキャンペーンにまで対応を拡大している。
Metaは、AppleのATT導入後に、広告配信や効果測定・レポートに障害が起きていたが、AEMで広告運用が可能になり、業績は回復した。
広告業界への影響
Googleの新しい測定ツールで、より正確な効果測定が可能になることで、これまでiOS広告に対して慎重だった広告主の信頼が回復し、投資が活性化する可能性があるだろう。
特にメリットが大きいのは、Googleの新しいツールは、iOS・Android間の一貫した測定を実現することだろう。これにより、複数のプラットフォームにまたがるキャンペーンの統合的な分析が可能になり、マーケティング担当者の意思決定が改善される。
Googleの「Integrated Conversion Measurement」は、Appleのプライバシー規制強化によって生じた広告効果測定の課題に対する重要な解決策となるかもしれない。プライバシーを尊重しつつ、より正確で包括的な測定を実現するこの新しいアプローチは、2025年5月から順次展開され、広告業界に新たな可能性をもたらすだろう。