AIは、生活だけでなく、ビジネスにも大きな変革をもたらしている。広告業界も例外ではなく、AIによって大きく変貌しそうだ。その象徴的な出来事として、Metaのマーク・ザッカーバーグは、AIによる広告制作の未来について、大胆なビジョンを語った。AIによる「無限のクリエイティブ」という表現を使っている。
報道によると、ザッカーバーグは、将来的には企業がMetaに対し、広告の目的と支払い情報を提供するだけで、クリエイティブ制作、ターゲティング、効果測定、さらには販売促進まで、すべてをAIが自動で行うようになる可能性に言及したそうだ。すでにMetaは、AIによる画像・動画生成技術に積極的な投資を進めている。これは、従来の広告制作や運用プロセスを根底から覆す可能性を秘めた、非常に衝撃的な発言だ。
AIは広告制作のどこを変えるのか
まず、AIは、様々なタスクにおいて、人間の能力を補完、あるいは凌駕する可能性を秘めているのは否定しようがなく、広告制作も例外でない。
コピーライティング
商品やサービスの特性、ターゲット層に合わせて、魅力的で説得力のある広告コピーを大量かつ迅速に生成することが可能だ。様々なバリエーションを瞬時に作り出し、効果の高いコピーを見つけ出す作業を効率化することができる。
画像・動画生成
テキストや簡単な指示に基づき、広告用の画像や短い動画を自動生成できる。MetaやGoogleのようなプラットフォーム企業がAIによる画像・動画生成技術に巨額の投資を行っているのは、広告主が、これらのツールの主要な利用者になると見込んでいるからだ。これにより、広告主は、多様なビジュアル素材を広告会社に頼ることなく、広告を手軽に作成できるようになる。
クリエイティブのバリエーション生成と最適化
一つの広告アイデアから、ターゲットや掲載面に合わせた無数のバリエーション(サイズ、フォーマット、訴求ポイントを変えたものなど)を自動で生成し、それぞれのパフォーマンスを予測・テストして、最も効果の高いものに最適化していくことができる。ザッカーバーグが語る「無限のクリエイティブ」とは、まさにこの能力を指していると考えられる。
データ分析に基づいたパーソナライゼーション
ユーザーの過去の行動や属性データをAIが分析し、その一人ひとりに最適な広告クリエイティブ(表示する画像、コピー、動画など)を出し分けることが可能になる。
これらのAIの能力は、広告制作のスピードを劇的に向上させ、コストを削減し、そして何よりも、個々のユーザーにとってより関連性の高い、効果的な広告体験を提供することを可能にするものだ。
ザッカーバーグの「無限のクリエイティブ」
ザッカーバーグのビジョンは、AIによる広告制作をさらに一歩進めたもののようだ。彼は、企業が広告運用に必要な「クリエイティブ」「ターゲティング」「効果測定」といった要素を、すべてMetaのAIプラットフォームに任せられる未来を描いている。企業は、ただ「この商品を売りたい」という目的を伝え、銀行口座を連携させるだけで、MetaのAIが最適なクリエイティブを「無限に」生成し、最適なターゲットに配信し、その効果を測定して自動で改善していく、という究極の効率化された広告システムだ。
ザッカーバーグが「クリエイティブは全く必要なくなる」「ターゲティングも全く必要なくなる」「効果測定も、我々が吐き出す結果を読む以外は必要なくなる」と語っている点は、このビジョンを物語っている。そこには、広告会社どころか、どんな人間も関与する余地はなくなる。このビジョンが実現するれば、特にリソースが限られる中小企業にとっては、手軽に高度な広告運用が可能になる。
広告業界に突きつけられる挑戦
しかし、ザッカーバーグのこのビジョンは、従来の広告業界にとっては文字通り「宣戦布告」とも受け取られかねない内容だ。なぜなら、これは広告会社や、ブランド企業内のマーケティング部門がこれまで担ってきた、広告戦略の立案、クリエイティブコンセプトの決定、制作物のディレクション、メディアプランニング、効果測定と分析といった、ビジネスの根幹をなす業務の多くを、プラットフォーム側のAIが代替するということを意味するからだ。
広告業界の未来はどうなるのか?
AIによる広告制作の進化、そしてMetaのような巨大プラットフォーマーのAI広告ビジョンは、広告業界に大きな変化を迫るものだ。
実際に、ザッカーバーグのビジョンとは関係なく、広告会社の役割の変化が起こるのは確実だ。単純な制作や運用代行業務はAIに代替されていく可能性が高い。しかし、高度な戦略立案、ブランド構築支援、AIでは生み出せないような独創的で感情に訴えかけるクリエイティブ、多くのメディアやプラットフォームを統合するコミュニケーション設計など、人間にしかできない領域の重要性が増していくと考えるほうが自然だろう。しかし、そこでもAIをツールとして使いこなす能力も不可欠だ。
広告業界は今、AIの普及と進化により、地殻変動とも言える変化の只中にいるといえる。AIは広告制作の効率化と最適化を大きく推進する強力なツールである一方、従来のビジネスモデルも大きく変える可能性を秘めている。