授業でいつも言っているのは、現在のマーケティングの基本はデータベースにあると言うことだ。顧客や見込客の情報をデータベースに蓄積して、適切なタイミングで適切なコミュニケーションを行うことが最も重要なことだと教えている。
このデータベースについては、20世紀にはリスト屋などが存在して、一般の人の住所や電話番号、生年月日などの個人情報を売買していたものだ。しかし、個人情報保護法が成立して、個人情報は聖域となった。
その後、インターネットが登場して、インターネットの中でGoogleなどがユーザの個人情報や行動履歴などを蓄積し広告に利用できるようになり、本格的にデータベースマーケティングが行われるようになった。それは、クッキーによって、ブラウザを特定することにより行われてきたが、それももうすぐ終わりだ。Googleは2022年までにクッキーをサポートしないと発表している。Google Chrome以外のブラウザでは既にクッキーはサポートされていない。残っているのがChromeだけだ。しかし、それがシェアNo.1のブラウザだ。
この背景にあるのは、インターネット上のプライバシーの保護意識の高まりだ。ヨーロッパでは2018年5月にGDP R(一般データ保護規則)が施行されている。EUの規則だが、EU域内の企業だけが対象でなく、その住民を対象にする企業も対応をしなければいけない。ビジネスは、地域を超えて行われているから結局は世界中の企業がこれに対応している。
さらに2020年1月からは、アメリカ・カリフォルニア州で、CCPA (カリフォルニア州消費者プライバシー法)が施行された。これもカリフォルニア州だけのことではなく、影響は世界中の企業に及ぶ。EUもカルフォルニアでも、そこに事業所がなくても、その住民の個人情報がを取り扱う場合には対象になるので、世界中の企業が対応している。
このような法律ができ、これから世界中で個人情報保護の法律が次々と成立していくだろう。そのような法的の整備と関係があるのかないのか、Appleは安全なインターネットを目指して、そのブラウザSafariやiPhoneでは個人情報を守るような仕組みを次々と導入している。
Googleは、2022年の第三者クッキーのサポート終了後の広告のターゲティングの手法として、FLoC(Federated Learning of Cohorts)の導入を進めている。これはユーザをグループ分けして、そのグループを対象に広告を行うシステムだ。個人を特定していないので、同じような属性・嗜好を持った人をグループに分けて、個人を特定しない形でターゲティングを行うとしている。
しかし、このグループでターゲティングを行うと言う方法も、昨日も書いたフィンガープリンティング等の方法により、個人を特定する事は難しいことではない。
だからFLoCで個人のプライバシーを守れるかというとそれは幻想に過ぎない。むしろ、クッキーの終了後、他のビジネスができないような形で、個人情報をFLoCで集め、さらにGoogleが広告を独占すると予想する人もいる。火事場泥棒みたいな話だ。
このFLoCについては、すでにGoogle Chromeで使われていると言う説がある。Google Chromeを使う限りオプトアウトしないと、このFLoCによりグループとして把握され、分類され、広告のターゲットとなっていく。これを拒否する方法は、Google Chromeを使わないことだ。使う場合でも、DuckDuckGo Privacy Essentialsの拡張機能をインストールすることだ。ただDuckDuckGo Privacy Essentialsの拡張機能だと、検索機能がDuckDuckGoに置き換わるので、それが嫌な場合にはChromeウエブストアにFLoCを拒否する拡張機能がいくつか用意されている。代表的なものはFLoC Offがある。
私個人で言えば、長い間Firefoxを使ってきて、Google Chromeに切り替えてから既に10年以上は経つ。Safariは最初の頃の印象が良くないのか、いまだにあまり使う気分にはなれない。それで最近はなるべくBraveと言うブラウザを使うようにしている。使い心地はChromeとあまり変わらず、広告がオフにされるっているせいか、少し軽い感じがする。
今後プライバシー意識の高まりにより多くの人がトラッキングを拒否するだろう。アメリカの調査ではiOS 14.5の導入後のトラッキングの許可・不許可で96%の人が不許可を選択していると言う。
このような状況の中で、マーケターが行うべきなのは、すでに20年以上前にセス・ゴーディンが言った「パーミッション」を顧客からもらうと言うことだ。きちんと個人情報を共有してもらう理由を説明して、その上で許可をもらって情報発信するということが王道であろう。これ以外の方法であれば、それは結局様々な法律や顧客からの反感と言う形でうまく機能しない。顧客と向き合い顧客のメリットも含めて説明することにより「パーミッション」をもらって、データベースを構築していくと言う地道な作業がこれからのデータベースマーケティングだ。