アルファベット・スープ

by Shogo

Googleはサードパーティー・クッキーのサポート停止を2024年まで延期しているが、すでにインターネット上でユーザを追跡する事について様々な制限が加えられている。確かに、クッキーそのものは、インターネット黎明期からの技術で、プライバシー保護の問題だけではなく、技術としての脆弱性に問題があることも事実だ。これが、セキュリティ・ホールになる。その意味でも廃止は望ましい。

インターネット上の個人情報保護は、ヨーロッパやカルフォルニアではすでに法整備が進み、クッキーによる行動履歴の提供についてはユーザーの同意が必須として事実上不可能になりつつある。日本においても、今年の4月に施行された改正個人情報保護法において、今まで個人情報保護の対象になっていなかったクッキーも、個人関連情報に位置づけられた。早晩日本においても、インターネットの最大の強みであった、クッキーによるターゲティングや購入の発生(コンバージョン)の把握が難しくなることが予想される。

またAppleは、すでに以前より、そのブラウザのSafariではクッキーをサポートせず、またiPhoneで行動履歴の共有はユーザーの同意が必要とするプライバシー・ポリシーを採用しているために、Apple製品ユーザについては日本市場においても、ターゲティングやコンバージョンの把握は不可能になっている。

クッキーには、大きく2つの役割がある。一つはインターネットユーザの属性を特定して、最適なターゲットに広告を配信すること、もう一つは広告の配信を受けたユーザが実際に購買等の行動を行ったかどうか(コンバージョン)の把握である。しかしクッキーが使えなくなると、この2つのデータが取得できなり、プログラムを使ってシステムで行っている広告の運用が不可能になる。あるいは不可能ではないにせよ、間違った効率の悪い運用を行うことになる。

このような状況を受けて、インターネット広告業界では新しいテクノロジーが様々開発されている。それらの技術は、大抵アメリカ市場で開発されるので、当然英語の名称で、それが3文字を4文字のアルファベットの略語になっている。よくアルファベット・スープと言う言葉があるが、まさにアルファベット・スープで、常に新しいアルファベットの略語が登場して、追いかけるのが大変だ。

CAPIが出てきて、何のことかと思ったら、Conversions APIだと言う。略さなければ、分かりやすいが、大抵は略語で出てくる。最近は、また、PETsやSDAなどが出てきて、全く理解できずにいた。

すでに現場を離れているので、具体的なことがわからないが、仕方ないので、ネット上の紹介記事を読んだりして追いつく努力はしている。

CAPI(Conversions API)は、広告主のデータを直接FacebookやInstagramと接続して、広告がコンバージョンにつながったかどうかを測定するためのシステムである。このAPIはすでに、Meta、Google、TikTok、Twitterなどが開発して、コンバージョンを測定するために使用している。CAPIにより、それらのプラットフォームのユーザのうち、適正な属性のユーザを検出して、広告を配信、そして、そのユーザを追跡して実際に購入したかどうかを測定する。サードパーティークッキーを使用せず、広告主と、プラットホームのデータを突き合わせているだけなので、プライバシー保護の観点から現時点では問題にはなっていない。

PETsは、Privacy-enhancing technologiesの略で、言葉の通りプライバシーを強化するための技術。最初にFacebookやInstagramを所有するMetaが使い始めた言葉だそうだ。PETsではユーザ個人を特定せずに、グループとして集約したデータを使用することで、そのグループ内のユーザ個人のアイデンティティーを特定しない。ユーザ個人については匿名化されており、また暗号化されるために、外部からの侵入により個人のプライバシーが抜き取られる事は無い。このグループとしてのデータを用いて、広告キャンペーンの効果を測定するために使用される。この言葉そのものが、Metaが批判を避けるために作った、ポリティカル・コレクトネスそのものだ。

SDAは、Seller-defined audiences。これも名前通り。Instagramなどのプラットホームがユーザのグループを属性に基づいて作成して、そのグループをターゲットとして、広告主に販売するもの。こちらもクッキーを使用せずに、プラットホームの収集したユーザのファーストパーティーデータだけでグループを作成しているので現在でも利用可能。また、グループとしてデータの提供されるのでグループ内の個人情報が外部に提供される事は無い。またこの販売方法と同時に、サイト上の文脈に基づいて広告販売することも行われ、よりコンバージョン確率の高いターゲットを広告主に提供することが可能になると言う。

2024年のサードパーティークッキーの完全な廃止に向けて、様々な新しい技術が今後も出てくることが予想される。様々な取り組みがされていると言う事は、つまり、それほどサードパーティークッキーによる属性やコンバージョンの把握が容易かつ効率的だったことの裏返しである。クッキーに代わる新しい技術が開発されるかどうかが、インターネットの普及後に順調に推移してきているデジタルマーケティングの分野の今後の帰趨を決める。

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