テレビの今後

by Shogo

アメリカの3大ネットワークの1つ、NBCを所有するNBCユニバーサルのCEOが投資家会議で、テレビ広告の状況がこの1ヵ月ほどさらに悪化していると話したそうだ。

アメリカのテレビ広告は、シーズン前に番組編成を発表して、その際にアップフロントと呼ばれる買い付け期間に広告主と事前契約して販売してしまう。このアップフロントで、売れ残った広告がスキャターマーケットでバラ売りされる。大手広告主は、このアップフロントの際に、人気が出そうな番組の広告を買い付けている。しかし、このところ広告主がアップフロントの契約を解約したり、直前に再契約することが増えていると言う。広告主は、インフレや景気悪化を恐れて、広告支出を抑えているというのが、CEOの見立てだ。

もちろん、それだけではなく、テレビから配信へという大きな流れもある。同CEOは、NBCユニバーサルの第四半期の広告収入は落ち込んでいることを認めている。この理由として、消費者がケーブルテレビを解約して、通常のテレビから配信に移行していることを挙げている。この動きは、ケーブルの配線を切ることから、「コードカッター」と呼ばれている。

この広告費の落ち込みについて、同CEOは、テレビ広告から上がる収益はまだまだ大きいとしながらも、そのピークは過ぎたと発言したそうだ。そして、今後NBCユニバーサルが収益を上げるのを期待するのは、配信サービスのPeacockだとしている。

今回の発表ではPeacockの有料会員1,800万人とされている。ユーザーの利用時間は月に20時間程度で、NBCユニバーサルはユーザ一人当たりから平均10ドルを売り上げて、すでに20億ドル以上の収益をあげているそうだ。Peacockの成長の要因としては、NBCユニバーサルのコンテンツの活用だとしている。NBCユニバーサル傘下のスペイン語放送、Telemundoは、NBCユニバーサルが契約しているFIFAワールドカップを放送しているが、視聴者の28%は、ケーブルなどの通常テレビではなく、Peacockの配信で見ているそうだ。

大手メディア企業のトップが、その企業の主要事業がピークを過ぎたと認めるのは珍しいことだ。しかしながら、状況はもはや否定しようとないところまで来ている。電通が7月に世界の広告市場の2022年の見込みを発表している。それによれば、2022年もインターネット広告費は14.2%の高い成長率を維持するとしている。これに対してテレビ広告の成長率はFIFAワールドカップ・カタール大会が開催されるためとして、3.6%の成長を見込んでいる。

日本では、2021年にインターネット広告の総額が、テレビ広告を含むマスコミ4媒体の広告費合計を初めて上回った。今後もこの傾向が続くことを確実で、問題は、このテレビ広告の緩やかな減少とインターネット広告の急成長がいつまで続くかと言うことだ。

日本のテレビ各局も広告費の売り上げが下がっているのは、NBCユニバーサルと同様で、各局共にテレビへの依存度は下がってきている。テレビ広告市場の減少という経営的な問題はすでに、将来ではなく現在の問題だ。

今後、テレビ局が進む道は、日本最大の制作力を誇るコンテンツ・クリエイターとして、番組制作に注力すべきだろう。各局が力を入れている共同事業の配信サービスTVerも含めて、コンテンツ販売を強化すべきだ。その際は、Netflixなども販売先となる。もはや、有料放送・配信は敵とは言っていられない。

現時点では、視聴者のネット配信視聴の習慣が未定着なため、まだまだ市場は小さい。そのために、各局が協力してTVerを共同運営している。しかし、これは遠くない将来、各局それぞれが独自のインターネット配信に踏み込むのではと思われる。どの経路を使うかは関係なく何を見たいかが、メディアビジネスの基本だ。その証拠に、今回のワールドカップのAbemaTVの視聴者は、クロアチア戦では2,400万人を超えたと言う。要はコンテンツだ。

しかも、この試合は、フジテレビでも同時に中継されており、それでもこの数字に達している。これはフジテレビの系列局がない県は当然のこととして、フジテレビの番組を見ることができる県であっても、フジの中継と同時にAmebaTVの配信を見ていることも多いと聞いている。特に今回についてはAbemaTVの本田圭祐氏の解説が面白いと言うことがネットでも話題になり、テレビと同時にAbemaTVの配信の音声を聞いていたことも多いようだ。

とはいうものの、NBCユニバーサルのCEOが言うとおり、テレビ広告はピークは過ぎたとしても、依然として巨大市場であり、広告主もこれを無視できるものでもない。特に日本においては、現時点においては広告付きの配信サービスが少ないため、アメリカのコードカッターと言う通常のテレビから配信への大きな流れをまだ起きていない。今の利益を確保しつつ、未来への投資をすべきだろう。

今後の注目は、テレビ朝日がサイバーエージェントと組んでAbemaTVを運営しているように、どのテレビ局が、いつインターネット放送局を上げるかだ。これが、テレビ局の未来への投資だ。

20世紀後半から続く、テレビの時代の終わりは見えてきている。

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