アメリカの調査会社のレポートリンカー社の発表によれば、2022年のインターネット広告市場は2021年の3685億8000万ドルから21.7%成長し4480億3000万ドルに達したということだ。パンデミックの影響が残り、ロシアによるウクライナ侵略によるエネルギー危機やインフレなどにもかかわらず、インターネット広告の成長は大きな影響受けていないようだ。
しかし、今後も同様の成長を続けられるかについては、やや不透明だ。それはインターネットにおけるプライバシー保護が消費者からも政治からも問題視されているからだ。
今後もプライバシー保護を求める動きは強まることがあっても弱まることがない。EUの一般データ保護規則(GDPR)8や2023年1月1日に施行されるカルフォルニア消費者プライバシー法(CPRA)といった法律はインターネットユーザーのプライバシー保護の強化を目的としている。日本でも4月に個人情報保護法が改正されて、ユーザーの行動をトラッキングするクッキーも個人関連情報としてをされることになった。それでも、アメリカやヨーロッパのプライバシー、保護法に比べると、まだあまり強い規制がかかっていないが、今後はどうなるかわからない。
このため、インターネットの広告費を成長させてきたインターネットユーザーのトラッキング技術に大きな影響が出ている。これを受けて、インターネット広告を取り扱う各社は、デスクトップとモバイルの両面でインターネット広告の基本技術のクッキーを含む基本的な広告の仕組みの変更を求められている。
既にAppleは、自社の端末では、ユーザーのデータや行動履歴の共有を難しくしている。またGoogleも延期したとは言え、2024年後半には第3者クッキーの廃止を決めている。インターネット広告のターゲティングの精度やコンバージョンの補足に使われてきた技術が使えなくなる日が近い。
そのために広告業界ではユーザーのプライバシー保護と広告の効果維持と効果測定の方法について、様々な研究がなされている。現時点で最も有効とされる方法はPETs(Privacy-enhancing technologies)だ。これは、インターネットの通信におけるプライバシー強化技術で、インターネットを経由した情報の共有のための技術として開発されている。
この技術を使って消費者の情報や行動をインターネット上で匿名化し、その行動履歴についてのみトラッキングすることが構想されている。匿名化されているために個人情報は共有されることがなく、インターネットにおける行動については補足するために、クッキーと同様の行動ターゲティングやコンバージョンの補足が可能となると言う。
この技術の問題は、情報共有の参加者の一社でもプライバシー情報と紐つけるようなことがあると破綻することとなる。つまり、情報の発信者と受信者が特定されており、共有する情報の安全保護が目的の場合には有効だが、これを広告配信に使うところでは、問題が生じる可能性があるのではないだろうか。インターネットユーザーは様々なサイトを渡り歩き、記事を読んだり買い物をする。この全てをPETsで結びつけるところで問題が生じる恐れがある。
成長することが予想されているインターネット広告における重要なテーマであるために、PETsの改良も含めて、さらに研究が重ねて、プライバシー保護とインターネット広告の有効性をどちらも担保する技術が近いうちに登場するのではと楽観的に考えている。