インターネットの普及に伴い、広告とエンターテイメントの融合は始まった。この時代の先頭を走っていたのは、BMWであった。
BMWは、10分程度のショートフィルムを2001年からインターネット上で公開し始めた。最初のシリーズは、8つのショートフィルム「The Hire」。このシリーズは、クライヴ・オーウェンを主演に迎え、ジョン・フランケンハイマーやアン・リーなどの著名な監督が参加していた。各エピソードは、クライヴ・オーウェン演じるプロの運転手が様々なミッションを遂行するというストーリーで、BMWの車が劇的なアクションシーンの中で使われる。
このシリーズは、インターネットで大成功を収め、BMWのブランドイメージを高めることに貢献した。その結果、BMWはその後もショートフィルムの制作を続け、その中にはマドンナやガイ・リッチー、アン・リー、ジョン・ウーなどの著名な人物が参加した作品も含まれている。
一時の中断はあったが、BMWショートフィルムの制作は続き、2023年も第76回カンヌ国際映画祭の公式パートナーとして、シリーズ最新作「THE CALM」を公開した。この作品は、ポム・クレメンティエフとユマ・サーマンが出演し、BMWの電気自動運転車が登場する。
BMWショートフィルムは、広告とエンターテイメントの融合を象徴する手法だ。インターネットがブロードバンド化したことにより、多くの企業がこの手法を取り入れている。
その後、この手法は「スポンサードコンテンツ」や「Madison & Vine」と呼ばれるが。これらは、広告が単なる製品やサービスの宣伝から、視聴者に価値を提供するエンターテイメントへと進化する現代のトレンドを反映している。
スポンサードコンテンツの名前は、スポンサーが提供するコンテンツでとして、そのスポンサーの製品やサービスを直接的にではなく、間接的に宣伝することを意図している。形式としては、記事、ビデオ、ポッドキャスト、インフルエンサーの投稿などが一般的だ。目的は、視聴者に有益で魅力的なコンテンツを提供し、その結果としてスポンサーの認知度を高め、信頼性を得ることだ。
「Madison & Vine」の言葉の由来は、広告会社が多いニューヨークのMadison Ave.と映画会社のハリウッドのVine Streetの融合という意味で名付けられている。。この手法は、映画やテレビ番組などのエンターテイメント作品に商品を組み込むことで、視聴者に自然な形で商品を紹介する。この結果、視聴者は広告に抵抗感を持つことなく、商品に親しむを持つ。
これらの手法は、広告が視聴者に届きにくい時代に、視聴者との強い関係を構築するための重要な戦略となっている。
内容ややり方にもよるが、企業がからんだコンテンツが受け入れられる素地もある。最近の例では、「スーパーマリオブラザーズ・ムービー」やナイキとマイケル・ジョーダンにインスパイアされた映画『Air』、おもちゃの『バービー』映画を見ても明らかだ。
そもそも、広告とメディアの関係は、広告主が広告費という形で資金を提供し、メディアがその資金を使ってコンテンツを制作することで成り立っている。これを広告主がコンテンツを制作し、直接提供することができるインターネットが登場したことで関係が変わった一つの例だ。
このような状況が、定額配信サービスのNetflixやDisney+・Amazon Prime Videoなどの普及で、さらに変化を始めている。それは、広告会社や広告主、俳優やスポーツ選手などの著名人がコンテンツ制作と、それを広告に結びつける事業領域に進出してきたことだ。
このところ、広告会社がエンターテイメント・コンテンツ制作会社や部門を立ちあげる例が増えてきた。 2022年12月には, Daggerが Dagger Originalsという制作会社を設立した。今年の4月にはWPPは、“Love Island” and “Wynonna Earp,”などのコンテンツに投資をしてきた Motion Content GroupをGroupM Motion Entertainment に社名を変更し制作事業に参入。6月にはInterpublic Group of Cos は、元Netflix幹部を雇用してMartin Entertainmentを設立して、広告主にオリジナル・コンテンツの制作を提案し始めている。
オリジナルコンテンツにはライブイベントも含まれる。今年の4月に、テレビ局出身者が立ち上げたHorizon Sports & Experienceは、アンドレ・アガシ、マイケル・チャン、ジョン・マッケンロー、アンディ・ロディックの伝説的テニスプレーヤーが競うピックルボール・トーナメント「ピックルボール・スラム」を立ち上げた。このイベントは、ESPNでも中継され、イベントにはスポンサーも付いている。
広告主もこの動きを捉えている。今年始めに、アンハイザー・ブッシュ・インベブは、オリジナル番組、映画、ポッドキャストを制作するエンターテインメント部門を立ち上げると発表した。これから、具体的なコンテンツかイベントが出てくるだろう。
このスポンサード・エンターテイメントへの参入は、著名人にも多い。俳優のライアン・レイノルズのマキシマム・エフォートは、Foxと契約を結び、ハズブロ社のボードゲーム「Cluedo」をテーマとした映画を制作する。他にも俳優、アスリート、エンターテイナーが自身の会社を立ち上げている。
メディアが多様化し、広告の限界もある状況で、このようなエンターテイメントと広告の融合した様々な試みが今後もなされるだろう。