2024年3月7日にEUのデジタル市場法(DMA)が施行された。これは、巨大テック企業の支配力を制限し、公正な競争環境を促進するために制定されたEUの法律だ。6ヶ月間の猶予期間が終了し、指定された「ゲートキーパー(ネット上の門番)」と呼ばれる企業は、DMAに定められた義務を遵守しなければならなった。
この法律は、巨大テック企業が市場を支配する現状に対抗するため、2020年12月に提案された。EUは、デジタル空間における競争の公平性を確保し、中小企業や消費者の権利を保護することを目指している。この法律は、「ゲートキーパー」として指定される大手プラットフォームへの規制を強化し、デジタル市場の透明性を高めることに重点を置いている。
DMAが、ゲートキーパーに指定された巨大テック企業に課する主な義務には以下のものがある。
- データ共有 ゲートキーパーは、他のビジネスが彼らのプラットフォームで行った活動に関するデータを共有する必要がある。これにより、競合他社も市場での競争力を高めることができる。
- 相互運用性 DMAはゲートキーパーに対し、他の企業が提供するサービスとの間で相互運用性を保証することを求める。これにより、ユーザーはより多様なサービスを利用できるようになる。
- 透明性要件 ゲートキーパーは、彼らのアルゴリズムやビジネスモデルに関してより透明性を持つことが求められる。これは、不当な市場操作や消費者の搾取を防ぐためだ。
- 市場への新規参入の容易化 DMAは、新しい事業者が市場に参入しやすくなるように、ゲートキーパーによる市場支配力の乱用を制限する。
このように、DMAは、中小企業には新しい技術やサービスを市場に投入するための公平な機会が提供され、消費者はより多様な製品やサービスを選ぶ自由を得ることを担保しようとしている。デジタル市場における健全な競争を促進し、巨大テック企業の過度な市場支配力を抑制することで、デジタル経済の全体的なバランスとイノベーションを促進する。
DMAによれば、ゲートキーパーは以下の基準を満たす必要がある。
- 大規模な利用者基盤 EU内で月間4500万人以上のエンドユーザーと、年間1万社以上のビジネスユーザーを持つ企業。
- 高い年間収益 EU経済圏内での年間収益が75億ユーロ以上。
- 安定した市場地位 一定期間にわたって安定した市場地位を持つ、いわゆる「確固たる地位」を有すること。
DMAの基準に適合する企業としては、2023年の時点で、EUは以下の6社をゲートキーパーとして指定した。
- Alphabet
- Amazon
- Apple
- ByteDance
- Meta
- Microsoft
これらの企業は、検索エンジン、オンラインマーケットプレイス、アプリストア、オンライン広告、メッセージングサービス、ソーシャルメディア、動画共有サイトなど、22のコアプラットフォームサービスを提供している。DMAの規則により、これらの企業は、新しいルールと規制に従わなければなった。今後、新たな企業がゲートキーパーに指定される可能性もある。
DMAによる市場への影響として、中小企業と消費者のメリットがある。スタートアップ・中小企業も市場参入が容易になる。DMAは、より公平な競争条件を提供する。中小企業は、これまで支配的なプラットフォームによって独占されていた市場にアクセスしやすくなり、消費者に対して新しい選択肢を提供することができるようになる。
消費者も アプリストアの多様性により選択肢が増え、データの管理と個人情報の保護で自身のデータをより良くコントロールし、それがどのように使用されるかについての明確な情報を得ることが可能になる。また、 消費者は、DMAにより異なるサービス間でデータを簡単に移行することができるようになる。これは、データのバックアップやサービスの変更を行う際に、重要だ。これで、巨大テック企業のサービスにロックアップされることもない。
アメリカ企業によるプラットフォームの支配が目立つ現状を考慮すると、日本におけるDMAのような法律の導入が有効な手段だ。特に、デジタル市場における競争の公正性を高め、国内企業に公平な機会を提供するためには、このような法律が必要だろう。中国のように外資規制までは必要ないが、DMAが課す規制はリーズナブルだ。
大手アメリカ企業による市場支配は、競争を制限し、イノベーションを阻害する可能性があり、他の企業が市場に参入しやすくすることができる。これにより、国内の中小企業やスタートアップが技術革新を行い、市場に新しい製品やサービスを提供する機会を増やす可能性がある。消費者にとっても、選択の自由とデータのプライバシーが保護されることは重要だ。DMAのような法律は、消費者が自分のデータをコントロールし、より多様なサービスを利用できる環境を提供できるようになるだろう。結果としてデジタル市場の健全な発展に寄与する可能性があるために、DMAを検討すべきだろう。