AI検索エンジン「Perplexity」が、毎週1億件以上の検索クエリに対応していると発表した。その言葉を借りれば「次の目標は、毎日1億件以上のクエリ対応」だそうで、強気な姿勢だ。
Perplexityの急成長は、その数日後に報じられた新たな資金調達計画とも関連しているようだ。現在、同社は約8億ドルの企業評価額を目指して5億ドルの調達を予定している。AI開発企業は、巨大な装置産業で、膨大なデータを読み込ませる巨大なデータセンターを必要としている。当然、電力消費量も膨大なもののようだ。これは、AIの進化は、質より量で、量がある点を超えると、AIは突然に賢くなるからだ。今後も資金を投入して、巨大なAIエンジンの開発を続けることになる。
Perplexityは2023年1月には5億2000万ドルと評価されていたが、2023年の夏には既に30億ドルに達し、驚異的なペースで成長している。収益も大きく上昇しており、2024年には年間約5000万ドルに達する見込みだ。ここに出資している孫さんは、流石に目利きだ。
Perplexityの急成長の背景
- AIによる検索技術の優位性:PerplexityのAI検索技術がユーザーに好評で、特にアメリカでの利用者が増えている。従来の検索エンジンとは異なり、ユーザーに直接回答を提示するため、ユーザーフレンドリーな体験を提供できている。
- 有力投資家からの支援:Perplexityは、少額の孫さん以外に、Amazon創業者のジェフ・ベゾスやNvidiaなどの著名投資家から支援を受けており、資金調達力が高い。
- 有料版サービスの拡充:月額20ドルの有料版サービス「Perplexity Pro」では、言語モデルの選択、画像生成、Pages機能などの高度な機能を提供している。
- ソフトバンクとの提携:6月にはソフトバンクとの戦略的提携を発表し、ソフトバンクのユーザー向けに「Perplexity Pro」の1年間無料トライアルを提供すると発表した。
デジタル広告市場への進出
この成長により、Perplexityはデジタル広告市場においても積極的な展開を図ろうとしており、Googleが支配する検索広告市場に挑戦すると発表されている。
Perplexityは、現行のAI検索エンジンに広告モデルを導入する計画を進めており、ナイキやマリオットなどの大手企業とスポンサー契約に向けた交渉も進行中と報じられた。その計画によると、ブランドは「スポンサー付きクエリ」のために入札でき、AIが生成した回答が広告主の承認を得た上で表示される。
この新しい広告システムの目的は、ユーザーが、AIからの回答にブランドメッセージを組み込み、検索行動と広告をシームレスに結びつけることだそうだ。AI検索の進化に合わせて、より的確なブランド広告を提供することでユーザー体験を向上させ、従来の広告システムとは異なる価値を提供できるというのが、Perplexityの主張だ。
Perplexityの広告モデルでは、1,000インプレッション(表示)あたり約50ドルのCPM料金が設定されており、Googleの約1,100ドルと比較するとコスト効率の良い選択肢となるようだ。
知的財産権に関する課題と解決への意欲
しかし、Perplexityの成長には課題も伴っている。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)を所有するDow Jones社やNew York Postなどの出版者が、Perplexityに対して著作権侵害で訴訟を起こしている。彼らは、Perplexityが著作権で保護されたコンテンツを無断で使用し、収益源であるウエブへのトラフィックが影響を受けていると主張している。著作権の問題は、Perplexityだけではなく、OpenAIや他のAI開発企業も同様の問題がある。
この訴訟に対し、Perplexityは、出版社との収益分配モデルを通じての協力を望んでおり、ライセンス契約ではなく広告収益を共有する形で共存を目指す意向を表明している。また、Perplexityのテクノロジーを活用したチャットボットを出版社のウェブサイトに提供し、出版社のコンテンツを基にユーザーの質問に応える形での収益共有も提案しているそうだ。
このようなアプローチが、出版社とのより良い関係構築に繋がるかどうかは現時点では不明だ。出版社が、そのような提携をメリットと考えるかについては、個人的には疑問がある。
新機能と収益構造
Perplexityはまた、eコマース機能の強化にも取り組んでおり、サブスクリプションサービス「Perplexity Pro」ではワンクリック購入機能を実装する計画だそうだ。現在、月額20ドルで提供されているこのProサービスは、より高度なAIモデルや画像生成機能へのアクセスを提供しており、2024年には収益がさらに拡大する見込みだ。
AI検索エンジン市場における競争環境
Perplexityの成長は、AIを用いた検索市場が急速に変化している背景にも後押しされている。OpenAIのChatGPTやGoogle自身が開発するAI検索機能など、従来のGoogleのリンクリスト型の検索エンジンに代わり、ユーザーの質問に対して直接回答する形式のAIが台頭しており、検索のパラダイムシフトが予想される。現実に、Googleを使うことが減ってきた。それは、Google検索のようにリンクを辿って情報を探す手間がなく、答えがすぐに明らかだからだ。
RAGの仕組み
ChatGPIなどなら、ハルシネーションの可能性があり信用できないが、Perplexityなら情報源が同時に表示されるので安心感がある。これは、PerplexityはRAG(Retrieval-Augmented Generation)を採用しているからだ。
RAGは、大規模言語モデル(LLM)によるテキスト生成に、外部情報の検索を組み合わせることで、回答精度を向上させる技術だ。RAGには大きく2つのプロセスがある。
- 検索フェーズ:ユーザーの質問に関連する情報を、データベースや文書から検索
- 生成フェーズ:検索結果とユーザーの質問を組み合わせたプロンプトをLLMに入力し、テキストを生成
RAGの強みは、LLMに加えて情報検索を組み合わせることで、情報更新が容易になり、出力結果の信頼性が高まることだ。
Googleへの影響
Googleにとって、PerplexityのようなAI検索エンジンの台頭は大きな脅威となり得る。Googleは、これまでの検索ビジネスの基盤を維持しつつも、AI検索への移行に慎重な姿勢を見せている。これは、既存の広告収入の収益構造を崩さないための戦略的な対応を検討しているからだろう。
一方、Perplexityはシンプルなユーザーインターフェースとユーザーが求める情報を一括して提供するアプローチを武器に、ユーザーからの信頼を獲得している。ここに、広告モデルを導入して、Googleが支配する巨大な検索広告市場に殴り込みをかけるという感じだ。
Perplexityの週間1億件のクエリ達成は、AI検索エンジンの進化がいかに急速であるかを象徴している。広告モデルや出版社との協力体制の構築など、様々な新たな試みを通じて、Perplexityはデジタル広告市場における、次の時代のGoogleを目指しているようだ。AI技術の発展がもたらす変革の波は、検索エンジン業界だけでなく、インターネットの利用形態そのものに大きな影響を与え続けることになるだろう。