報道によれば、トランプ大統領が、TikTokのアメリカ企業への売却か禁止の起源である6月19日を再延長する可能性があるようだ。中国への強硬姿勢がTikTokには適用されないのか、これまでに選挙対策で若い有権者へのアピールのためにTikTokへの対応を変えていたが、さらに優遇するのだろうか。
TikTokの月間アクティブユーザー数(MAU)は成長を続けており、2024年4月時点で15.82億人 、2024年には19.25億人に達し 、2029年には23億人に達すると予測されている 。これはWhatsAppやInstagramに次ぐ規模であり、動画コンテンツシフトを考えると、さらに成長が続きそうだ。
主要市場としては、米国が1.35億〜1.7億人 、インドネシアが1.077億人、ブラジルが9175万人と続き、これらの国々がTikTokの巨大なユーザーベースを牽引している 。日本の数字は発表されていないが、3,000万人強というように報道されている。 禁止となれば、アメリカで大きな人数が影響を受ける。
米国政府によるTikTok規制は、その親会社の中国ByteDanceとの関係での安全保障上の懸念だ 。中国政府がByteDanceに圧力をかけ、米国ユーザーデータへのアクセスを要求したり、プラットフォームのアルゴリズムを操作してプロパガンダや偽情報を拡散したりする可能性を懸念している 。これらの懸念は、中国の2017年国家情報法に根ざしており、この法律は中国企業に対し、政府からの要請があれば情報収集に協力することを義務付けている。
TikTokのデータ収集は、位置情報、閲覧・検索履歴、キー入力パターンなど、広範な情報を自動的に収集するものだが、これは他のソーシャルメディアプラットフォームと同等のものだと言われている 。しかし、中国政府の悪用の可能性が問題視されている 。また、香港の民主化デモに関するTikTok動画の不在は、TikTokが親民主派の画像を検閲しているという懸念を引き起こして、TikTokへの不信感が強まっている。
TikTokの禁止を巡る動きは数年にわたり展開されてきた。2020年のトランプ政権時代に、国家安全保障上の脅威としてTikTokとWeChatの禁止を試みる大統領令が出されたが、これは連邦裁判所によって言論の自由や適正手続きの懸念から阻止された 。
しかし、2024年4月、バイデン大統領は「外国の敵対者が管理するアプリケーションからアメリカ人を保護する法律(PAFACA)」に署名し、ByteDanceに対しTikTokの米国事業を売却するか、米国でのサービス停止に直面するかの期限を2025年1月19日と設定した 。TikTokはこの法律が憲法上の言論の自由を侵害すると主張して最高裁判所に提訴したが、2025年1月17日、最高裁判所は国家安全保障に関する議会の懸念に基づき、この法律が合憲であるとの判決を下した 。
この判決を受け、2025年1月19日の期限に先立ち、TikTokは1月18日に米国でのサービスを一時的に停止した 。GoogleとAppleはアプリストアからTikTokを削除し、ユーザーの間ではTikTokがインストールされた携帯電話が数千ドルで取引される事態も発生した 。しかし、トランプ大統領は就任初日の2025年1月20日に、この禁止措置の執行を75日間停止する大統領令に署名し、TikTokの米国における事業売却交渉を継続する猶予を与えた 。
この期限は4月5日となり、その後もトランプ大統領は6月19日までのさらなる75日間の延長を許可した 。トランプ大統領は、中国の習近平国家主席が最終的に売却合意を承認するだろうと考えていると伝えられている。 今回の再々々延長が、どの程度の期間になるかは数日中に発表されるだろう。
米国でのTikTok禁止の不確実性は、広告業界に大きな影響を与えている。プラットフォームの将来が不透明なため、多くの広告主は予算をInstagramやYouTubeといったより安定したプラットフォームにシフトさせる動きが見られているという 。実際、2025年第1四半期には、上位10の広告主カテゴリのうち8つがTikTokへの支出を削減し、米国での広告料金は二桁の減少を記録した 。米国市場だけでも、TikTokの年間広告収益は100億ドル以上と推定されており、禁止された場合、約120億ドルの広告収益が失われると見られている。
この不確実性は、広告市場には大きな問題だろう。2025年1月のTikTokの一時的なサービス停止期間中、広告主は支出の再配分を余儀なくされ、Metaが所有するFacebookやInstagramへの広告のシフトを行った。この期間中、Metaプラットフォームでの広告活動が急増し、特に大手広告主は広告数を21%増加させることになったそうだ。広告インプレッションの供給は需要に追いつかず、MetaプラットフォームのCPMは10%上昇し、その後の1週間も高止まりした 。
このような状況を受け、広告代理店はクライアントには単一のチャネルへの依存を減らすために「プラットフォーム投資の多角化」を推奨しているそうだ 。
TikTokは、国家安全保障上の懸念に対応し、米国ユーザーデータの保護するための措置を講じた 。その一環として、2022年には国家安全保障上の懸念に対処し、データ管理の透明性と監視を維持するために設計された子会社である「TikTok U.S. Data Security Inc. (USDS)」を設立している 。
USDSは、保護された米国ユーザーデータ、コンテンツ推奨、およびモデレーションシステムへのアクセスをOracle Cloud上で管理している 。2,000人以上の米国ベースの従業員がUSDSに勤務しており、承認されたUSDSの担当者のみがOracle Cloud上の保護された米国ユーザーデータにアクセスできるようになっているようだ 。
さらに、TikTokは「Dedicated Transparency Centers (DTCs)」を設立し、Oracleや独立したセキュリティ検査官などの信頼できる第三者が、TikTokの完全なソースコードにアクセスして分析・検証できる安全な環境を提供している 。
これらの取り組みが、ユーザーや政府の信頼を獲得して、規制の動きから逃れることが出来るのか、また気まぐれに思える大統領が、どのような判断をするのか注目される。