アメリカのナショナル・ホッケー・リーグ(NHL)は、リンクを取り巻くダッシャーボード(選手がぶつかるフェンス)に取り付けられている広告にバーチャル広告を、今シーズンよりリーグ全体で採用する。NHLは今までも氷の上やダッシャーボードの上の透明の部分にバーチャル広告を出したことがあるが、広告の主力であるダッシャーボードに本格的に採用する。
これにより、他のスポーツでも見られように、ホッケーでも会場全体が一つのスポンサーの広告で埋め尽くされるというようなことが、テレビ放送上では見ることができるようになる。
バーチャル広告は、すでにほとんどのスポーツイベントで採用されている。F1ではレース・コース周辺の広告の中にバーチャル広告が挿入されているし、他のスポーツでもテレビでスポーツ放送を見る際には、バーチャル広告を見ていることが多い。テレビの放送でMLBの試合を見るとき、バッターの後に現れる広告はバーチャル広告だ
バーチャル広告の利用によって、特定の放送地域に向けた広告が表示されるために、スポーツ組織は、多くの販売の可能性を持つことになる。具体的には、MLBは、日本市場向けにバーチャル広告を販売することができる。日本企業の中では、そのバーチャル広告を購入する可能性があるが、そうでなければ、実際に野球場の物理的な広告看板を買うような事はしない。
会場に行ってみれば、バーチャル広告が入るところは緑色のペイントが売られているだけのただの壁である。この壁の映像に、デジタル技術とAIを使って、複数の放送地域向けにそれぞれのバーチャル広告を映像上に挿入していく。
この放送の映像にバーチャル広告を挿入する技術のデモンストレーションを初めて見たのは1990年代の初めだった。その頃から比べるとテクノロジーは大きく進歩して現在では全く違和感なく見ることができる。
MLBのフィラデルフィア・フィリーズは、1995年に初めてローカルの放送においてバーチャル広告を実用化した。それからすでに四半世紀以上が過ぎており、テクノロジーも進歩も日進月歩なため当然のことだろう。
そして、スポーツの中継はテレビからインターネット配信に移行しようとしている。Amazonは今年からNFLの試合放送開始しているし、近日中に予定されているNBAの放送権獲得競争での有力な候補となっている。
そのAmazonは、バーチャル広告の運用会社の買収を検討していると言う報道がされた。
今後スポーツ中継がインターネット配信に切り替わっていくと、今のテレビ放送のようにバーチャル広告を地域ごとに切り替えるのではなく、ターゲットユーザごとに別の広告を挿入することも可能になる。
例えば男性の視聴者には、ある広告を入れて、女性の視聴者には別の広告を入れると言うようなことだ。このようなことを行うためには、バーチャル広告の会社も必要と考えてのことだと思われる。
当然のことながら、バーチャル広告を実施するためには、会場の物理的な広告のスペースを緑色のスペースが必要となる。このために、スポーツ組織と、利益シェアなどのアレンジメントが必要になる。これについては放送権獲得交渉の際に調整するものと思われる。
バーチャル広告は、今や当然のものとなっているが。今後インターネット配信の進展とともに様々な使い方がされることが予想される。