イーロン・マスクによるTwitterの買収後、X(旧Twitter)は大混乱に陥っていると言って良いだろう。そして、今回のイーロン・マスクによる反ユダヤ主義者を支持する投稿は、壊滅的な打撃をXに与えた。多くの有力広告主が、広告を引き上げ、それだけでなくディズニーのボブ・イーガーCEOのようにイーロン・マスクを公に非難している。これらの企業は、自らのブランドイメージ防衛のために、そうせざるを得ないのだろう。
2022年のXの広告収入は47億ドルに達してたが、これが半減しているということが、イーロン・マスク本人から公表されている。今回の出来事で、これはさらに落ち込むだろう。
買収後のコンテンツ監視の廃止と問題のある投稿をするネオナチや差別主義者のアカウントの復活で、世界最大級の広告会社の一つであるIPGは、クライアントにXへの広告出稿を一時停止するよう勧めている。
Xは、広告とマーケティングの観点から見ると、YouTube、FacebookやInstagramと同じようには語られていない。Xの広告収入とユーザー数は過去10年間で成長しているが、他のソーシャルメディア巨人と比べると、これらの数値は見劣りする。2022年の数字で, Meta Platformsは、 FacebookやInstagramを合わせて1160億ドル。YouTubeは292 億ドルと発表されている。X(旧Twitter)の広告収入は、これらより一桁少ない。
これは、Xの主な使用目的は、ニュースや情報、アイデアの共有にあり、オンラインユーザーが商品やブランド発見を求めるプラットフォームではないからだ。最近の調査では、Xでのマーケティング活動を増やす計画を立ている広告関係者は25%未満だが、60%以上がInstagramやYouTubeの使用を増やすと回答している。つまり、広告に向かないプラットフォームということになる。これは、広告モデルのTwitterが創業以来ほとんどの年で赤字を続けた理由であるし、最終的にイーロン・マスクに買収されることにつながる根本的な問題だ。
デジタルマーケティングがマーケティングの主流となり、中でもソーシャルメディアは最も重要な広告メディアとなっている。Facebookは長年にわたりマーケターに最も使用されているソーシャルメディアの地位を維持しているし、Instagramも、企業のプロモーションとユーザーのショッピングを可能にする多様なフォーマットを提供し、ソーシャルメディアマーケティングでは重要になっている。
日本市場でも、ソーシャルメディア広告費は電通の発表によれば、2023年には9,724億円(前年比117%)に成長すると予測されている。FacebookやInstagram、X、YouTubeなどの広告が企業のマーケティング戦略にとって重要な位置を占めるようになってきているのだ。
ソーシャルメディア広告の大きなメリットは、ターゲティングの精度が高いことだ。ユーザーの属性、興味関心、行動履歴などから細かくセグメントを設定し、商品やサービスに興味のある層に効果的にリーチできる。またコストパフォーマンスが高く、少ない予算で効果を出しやすい。ソーシャルメディアの拡散力を活用すれば、口コミ効果で広告が拡散していくため、費用対効果は高いといえる。
一方で、ソーシャルメディアには課題もある。最近はブランドセーフティの確保が企業にとって重要課題となっている。不適切なコンテンツが存在するソーシャルメディアに広告を出稿することで、ブランドイメージが損なわれるリスクが生じるからだ。Xの場合、投稿のモデレーション緩和をめぐって広告主企業が懸念を表明する事例が相次いできた。これが、今回のイーロン・マスクの反ユダヤ主義者支持の投稿でピークに達したと言えよう。
Xの広告価格は、混乱の中で低下が続いている。マーケティングエージェンシーGupta Mediaによるレポートでは、買収以降のXの広告収入が苦戦していることが示されている。特に、1000インプレッションあたりのコスト(CPM)が大幅に低下しており、これが広告収入の低迷につながっている。Gupta Mediaによれば、 FacebookとInstagramのCPMは、7.17ドル、TikTokは3.45ドル、YouTubeは3.05ドルに対して、Xは1.2ドルに過ぎない。少ない広告料しか課金できないということは、その金額でないと売れないということであり、その結果、Xの広告売上も少なくなる。
今後も、ソーシャルメディア間の競争は激化する見通しだ。TikTokの成長が目覚ましく、他社もショート動画対応に追われている。各社はブランドセーフティの確保と、販売可能な広告フォーマットに注力している。その広告市場で問題対応に追われ、Xは決定的に脱落した。
イーロン・マスクのリーダーシップの下で、Xは投稿監視・モデレーションチームの削減のためプラットフォーム上での誤情報やヘイトスピーチが増加している。これが広告主の懸念を引き起こし、広告活動の停止につながっている。広告収入の低迷とブランドセーフティの問題は、広告主にとって大きな課題だからだ。