人工知能の黎明期から、生成AIツールは大きな進化を遂げてきた。初期のAIは、単純なルールのアルゴリズムに基づいてテキストやデータを処理していた。2000年代ごろからの機械学習や深層学習により、より高度な処理が可能になった。この時期には、Googleの翻訳ツールやIBMのWatsonなどが注目を集めた。この過程でニューラルネットワークの進化は加速し、自然言語生成（NLG）に特化したモデルが登場した。これらのモデルは、より複雑でリアルなテキストを生成することが可能になり、特にマーケティングやニュース記事の自動生成に利用されるようにもなった。進化の過程で、研究から実用のフェーズに移ってきたと言えそうだ。
60年以上にわたるAI技術の歴史を背景にして、数多くのテック企業がAIの研究を続ける中で、OpenAIというベンチャアー企業が2015年に設立された。彼らは、2018年にGPT-1、2019年にGPT-2という言語モデルを公開し、2020年にはGPT-3をリリースした。そして、2022年11月30日に公開されたChatGPTは、対話型のAIで人間のような自然なコミュニケーションを取ることができる。このChatGPTはリリース後、5日で100万人、2カ月で1億人のユーザー数を超え、その成長はIT史上最速とも言われいる。
ChatGPTの登場
OpenAIによるGPTシリーズの登場は、生成AIツールの世界に革命をもたらした。GPT-3とその後継モデルのGPT-4に基づいたChatGPTは、従来のモデルを遥かに超える自然言語処理能力を持ち、ダイナミックな会話の生成が可能になった。また、チャットボットというインターフェイスを持ち、対話型でユーザーが容易にインタラクティブに使用でき、多言語対応だったために世界中での普及を後押しした。
そして、今や、生成AIツールは、様々な用途に使用が可能になりつつある。文章作成だけでなく、人間が創造したあらゆるコンテンツを模倣するAIツールの総称となっている。テキスト、映像、画像、音声、コンピュータコードなど、さまざまなコンテンツを生成することができるようになってきた。しかも、ChatGPTなどのAIチャットボットのいくつかは、マルチモーダル型で、文章や画像の生成も可能になってきている。
ChatGPTによるAIブーム
ChatGPTの普及により、AIに対する一般の認識が大きく変わった。ChatGPT以前にも企業はカスタマーサポート、コンテンツ生成、さらには教育や研究分野でのAIの活用を始めていた。しかし、ChatGPTの登場がAIに対する見方が変わり、さらに採用が進んだ。大きいのは、個人のレベルでのAIツールの利用だ。また、OpenAI以外の企業や研究機関も、類似のAIツールの開発に乗り出し、AIチャットボット市場は急速に拡大している。
AIチャットボット市場は急成長を続けており、日本国内でも市場規模が拡大している。矢野経済研究所によると、2022年のビジネスチャットツール市場規模は前年度比22.6％増の312億6,300万円で、2026年度の予測は約437億円となっている。
世界的にもチャットボット市場は拡大しており、グローバルインフォメーションによると、2023年のチャットボット市場規模は58億6,000万米ドルと推定されている。この市場規模は、AI技術の進化やビジネスのニーズの増加に伴い、今後も拡大が予想されている。
今後の展望
生成AIツールはさらに進化を続けるだろう。アルゴリズムの改良とデータの充実により向上により、文章、画像、音声、画像、動画の生成はさらに高度化し、これにより、映画や音楽、ゲーム業界など、より多様な分野でのAIの活用が期待さる。
AIが生成するコンテンツの品質は、人間が作成したコンテンツと区別がつかないレベルの作品が生まれてゆくことは確実だ。この結果、メディア上のコンテンツなどは、多くがAIにより生成されたかAIを使って生成されたものに置き換わってゆくことが予想される。
ただし、AIツールの普及は、多くの問題も生み出すだろう。現時点のハルシネーションと呼ばれる誤情報の生成や著作権、プライバシー保護、悪用による偽情報の拡散など、新たな問題を生み出す。これらの問題に対処するためには、国際的な規制やガイドラインの策定が求められている。
現時点の最大の問題は、生成AIツールの学習データに偏見や差別が含まれていると、その偏見や差別を反映したコンテンツを生成してしまう可能性があることだ。このために、生成AIツールを利用する際には、偏見や差別が含まれていないことを使用者である人間が確認することが重要だ。
もう一つの問題は、著作権だ。現在も生成AIツールが読み込んで学習に使うコンテンツの著作権者が訴訟を起こしている。この問題の解決が急がれる。さらには、生成したコンテンツは、著作権法で保護されるべきかどうかという議論も解決していない。生成AIツール時代の著作権法の改正が急がれる。
生成AIツールは、生活や仕事を大きく変えるだろう。ChatGPTの登場以降のAIブームは、今後も多方面にわたる影響を及ぼし、社会全体を促す。技術の進化とともに、倫理的な課題への対応が生まれるという一つの例だろう。
