毎日のようにAIに関するニュースが溢れている。多くのAI開発企業で新しい技術や機能が発表されて続けている。その技術や機能は、見えないところで生活に大きな影響を与えているだろう。
この開発の過程では機械ではなく人間の果たす役割が大きいようだ。今のディープラーニングのAIシステムは本質的に統計的な機械であり、大量のデータから学習することでパターンを認識し、予測を行う。この学習過程において、人間によるアノテーション(データへのラベル付け)が重要な役割を果たしている。
アノテーションは、AIモデルがデータを正しく理解するための指針となる。例えば、「キッチン」というラベルが付けられた多数の写真を学習したAIモデルは、冷蔵庫やカウンターなどキッチンの特徴を関連付けることができるようになる。適切なアノテーションがなければ、モデルは正しい概念を学習できない。急速に賢くなっているAIは人間の教師が裏についているということだ。もちろん、学習プロセスには、教師ありと教師無しの2パターンある。
特に教師あり学習では、アノテーションは学習データの正解を示すラベルとして機能する。例えば「猫」というラベルが付けられた画像をAIが学習することで、AIは猫の特徴を理解し、猫が写っている別の画像を正確に識別できるようになる。これは、多くの場合には人間でないとできないことが多い。機械には、犬と猫の区別がつかないからだ。このように、アノテーションはAIがデータを正しく理解し、精度の高い予測を行うための「ガイドポスト」として欠かせない。
AIへの需要の高まりとともに、アノテーションサービス市場も急成長している。現在の市場規模は8億3820万ドルで、10年後には103億4000万ドルに達すると予測されているようだ。多くの企業が、AIトレーニングセット用のラベル作成にアノテーション企業の大量の従業員を利用している。
アノテーションの課題
アノテーションには多くの作業とコストが伴う。膨大な量のデータに対して、誤りや偏りのないアノテーションを行うためには、労力と時間が必要となる。そして、人間が行うアノテーション作業には課題が存在する。
- バイアスの問題: アノテーションを担当する人間の経験や主観がデータに反映され、AIモデルに偏りをもたらすことがある。これは、特に人間の行動予測や社会的判断を含むモデルでは問題となる。
- ミスのリスク: データの量が増えるにつれて、人為的な誤りが発生しやすくなる。異なる作業者が同じデータを異なる基準でラベル付けするケースもあり、データの一貫性が損なわれることがある。
- コストと時間の制約: 大量のデータをアノテーションするためには多くの作業員が必要であり、その人件費は企業にとって大きな負担だ。また、人手での作業は時間がかかるため、AI開発の進展スピードに追いつけないことも課題となっているようだ。
データ不足とシンセティックデータの登場
さらに、アノテーションするデータ自体の入手も困難になりつつある。多くのAIモデルは公開データを使用して学習されているが、データ所有者が著作権侵害や適切なクレジット表示への懸念から、データへのアクセスを制限する動きが広がっている。このプライバシーや著作権の問題から、企業がデータの提供を制限するケースが増えている。このような背景から、シンセティックデータと呼ばれる人工的に生成されたデータが注目されている。シンセティックデータとは、現実のデータに基づきAIが統計的に生成した仮想データであり、現実のデータと同様の学習効果を持たせることができるらしい。
シンセティックデータにはプライバシー問題がないため、無制限にデータを生成できる利点があり、多くの企業がAI開発にシンセティックデータを活用し始めた。例えば、自動運転車の学習には実世界では収集しにくい特異な状況(雨天や雪道など)のデータをシミュレーションで生成し、AIモデルに学習させることが可能となる。
シンセティックデータの課題と展望
シンセティックデータの導入により、アノテーション作業の自動化やデータ不足の問題が解消される可能性が高まっているが、いくつかの課題も存在するという。シンセティックデータは現実を模倣しているに過ぎないため、現実の複雑なパターンやバリエーションを完全には再現できないことがある。例えば、シンセティックデータだけで訓練したAIは、実データに基づく訓練ほどの精度を発揮できないこともあるらしい。
Gartner社の予測によれば、2024年までにAIおよび分析プロジェクトの60%がシンセティックデータを使用するとされている。今後、シンセティックデータの利用が進む一方で、AIモデルの精度や信頼性の向上のために、実データと適切に組み合わせるアプローチが主流となるようだ。
AI開発のさらなる進展に伴い、アノテーションとシンセティックデータの活用は、AIに新たな可能性をもたらすとして期待されている。シンセティックデータによるアノテーション作業の効率化やコスト削減だけでなく、実世界のデータと人工的に生成されたデータを共存させることで、より信頼性の高いAIシステムの構築が実現されるという。
便利な機能が実装されるのは有難いことだが、AIに全面的に頼らないで自分で考えながら使いこなす事が、人間に与えられた課題だ。