「LLM Siri」開発中

by Shogo

Appleは昨年OpenAIと提携してAoole Intelligence を発表して、日本語対応はこれからだが、徐々にAI機能の導入が始まっている。そして、AppleのAI戦略の焦点は、iPhone、iPadやMacに統合される新たな音声アシスタント「LLM Siri」の開発だ。その名称のとおり、ChatGPTなどの大規模言語モデル(LLM)技術を応用して、現在のSiriを飛躍的に進化させる構想だ。

 LLM Siriの目標とリリース時期

Appleは従来のSiriに代わる形で「LLM Siri」を投入する計画であり、そのデビュー時期として2026年春が有力視されているようだ。具体的には2025年にiOS 19やmacOS 16で発表し、ユーザーが実際に利用できるようになるのは2026年と見られている。このタイムラグは、Appleが慎重に完成度を高めながらリリースするという姿勢を示していると言われている。

Appleは、AI分野で他社に遅れをとっていると考えられてきた。OpenAIのChatGPTが2022年末に登場して以来、複雑な会話や文章生成を高度にこなすAIチャットボットが世界を席巻している。一方でSiriは、短文の検索や簡単な操作支援には向いているものの、「複雑なリクエストへの対応力」「連続的かつ自然な対話能力」などの面でChatGPTに及ばないというのが評価だし、事実そのとおりだ。そのためAppleは、この「LLM Siri」で一気に巻き返しを図ろうとしている。

LLM Siriの特徴

より自然な会話と高度な理解

LLM Siriの中核には、大規模言語モデルによる自然言語処理(NLP)技術が据えられている。これにより、今までの単純なSiriではなく、「より自然で文脈を踏まえた会話」が可能になると期待されている。たとえば、音楽を再生したり記事を要約したりといった従来の操作・検索にとどまらず、複数ステップにわたる連続的な対話や情報収集をサポートするイメージだ。

「○○日から○○日にパリ格安旅行を予約」といった複雑なリクエストも、ユーザーの意図を汲み取りながら外部アプリやウェブサービスを連携させて完結できるようになることが見込まれる。つまり、LLM Siriがエージェントやパーソナルアシスタントのように様々なニーズをサポートするイメージだ。

Apple Intelligenceとの統合

LLM Siriの開発は、すでに提供が始まっている「Apple Intelligence」と一体化する形で進められていると報じられている。ChatGPTやGoogleのGeminiなどは強力な生成AIエンジンを持つが、Appleは自社のシステム内でテキスト生成、要約、サードパーティアプリ連携などの機能を深く統合し、ユーザーが外部サービスに依存しなくても快適に利用できる環境を目指しているようだ。つまり、ChatGPTを直接使うのではなく、LLM Siriが代わって使ってくれるということだ。

App Intentsによるサードパーティアプリ制御

iPhoneやiPad、Mac上で動作するさまざまなアプリケーションとの連携をスムーズにするために、Appleは「App Intents」を活用する計画だそうだ。これはサードパーティアプリとの深い連携を実現し、音声操作や自動応答といった高度な秘書機能を提供するための仕組みのようだ。たとえば、Siriが外部のタスク管理アプリやメッセージアプリ、支払いアプリをプライベートかつ安全に操作することで、ユーザーの手間を減らし、より便利なサービスを構築できる。

ChatGPTとの相違点と競争力

LLM Siriは「Apple製品全般にネイティブに統合される」という点が最大の強みとされている。ChatGPTは大規模な知識ベースと汎用性が評価されているが、基本的にはウェブベースのAIシステムだ。iOSやmacOSの設定、アプリの細かな制御までは行えない。その一方で、Appleは自社OSとの親和性を武器にすることで、よりシームレスかつ直感的な操作を可能にする方向へ開発を進めている。生成AIを使おうと意図はしないでも、知らずに生成AIを使っているイメージだ。

ただし、ChatGPTに備わるような強力な文章生成・コード生成・画像生成機能などをどこまでSiriがカバーし得るかは不透明だ。Appleはあくまで「Siriの進化版」として位置づけており、AIチャットボットとしての生成能力よりもパーソナルアシスタントとしての活用に比重を置くともみられる。高度な文章生成・コード生成・画像生成機能を使おうとする時は、外部の様々な生成AIサービスを直接使うことになる。

 プライバシーと開発上の課題

Appleは「プライバシーを最優先する企業」だ。LLM Siri開発においても、ユーザーの発話データや行動データなどをいかに安全に処理するかが大きな課題となっているだろう。ユーザー側である程度処理を行う方式や、エンドツーエンド暗号化の徹底、大規模データ学習における情報の匿名化などがポイントになっているだろう。最近話題になったように、ユーザーの発話データを収集していたというようなことは繰り返さないだろう。

また、Appleは完成度を重視するあまり開発スピードが遅延する傾向がある。OpenAIやGoogleが短期間での大幅な機能拡張を繰り返す中、2026年まで待たなければフル機能のLLM Siriが使えないという点はAI競争の視点や先進イメージでのリスクだとも指摘されている。

 今後の展望

AppleはiPhone発売以来、スマートフォン市場を大きく変革してきた実績があり、完成度の高いプロダクトでユーザーを一気に取り込んできた。後発でも最高のユーザー体験を提供するという方針が今回のLLM Siriにも踏襲されるならば、2026年というタイミングの遅れをものともせず、一気に大きな顧客基盤を獲得する可能性はある。

さらに、Appleが多彩なデバイスを販売し、すでに多くのデバイスが社会で使われている。SiriがiPhoneだけでなく音声スピーカー、スマートホームカメラ、Apple Watchなどまで広く連動すれば、「生活全体をサポートするAIアシスタント」として非常に強力な存在となる可能性は高い。また、そうなれば、App Storeやサービス部門からの収益増にもつながることを狙っているのだろう。Appleはハードウエアだけでなく、サービス部門の拡大に注力しているから自然な発想だ。LLM Siriを使って、どのようなサービスを生み出せるのか、サードパーティとも連携して考えているのかもしれない。

2026年春のリリースが見込まれる「LLM Siri」は、従来のSiriを大幅に改良し、大規模言語モデルによって「より自由度が高く高度な対話」を可能にするかもしれない。AppleのAIプラットフォームApple Intelligenceに統合し、サードパーティアプリとの緊密な連携が実現すれば、ChatGPTやGoogle Geminiのユーザーベースとは桁違いの生成AIユーザーの数となる。

問題は、「LLM Siri」が期待どおりかどうかだ。約10年超の歴史を持つSiriが飛躍的な進化を遂げ、新たなユーザー体験を創出できるのかどうか。「LLM Siri」が、これまでにない形の「パーソナル・エージェント」となって、2026年以降にやって来るかどうかにかかっている。

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