スプリングスティーンが全作品を売却

by Shogo

ブルース・スプリングスティーンが、すべての作品の権利をソニーに5億5000万ドルで売った。600億円を超える金額と言うことか。去年ボブ・ディランがやはり同様に3億ドルで作品を売り、それ以外にもたくさんのアーティストが全作品の権利を売却して、これまでの音楽活動をキャッシュアウトした。

それも、ポール・サイモン、ニール・ヤング、スティービー・ニックス、ティナ・ターナー、モトリー・クリュ、シャキーラ、レッド・ホット・チリ・ペッパーズなどというような人気アーティストだ。ニューヨークタイムスによれば、スティングやデヴィッド・ボウイの作品もの権利も交渉中と言うことだ。もっとも、人気アーティストの権利でなければ、誰も買わないので当たり前だ。

なぜ彼らが作品を一括して売るのかの前に、なぜ売れるかが最初の疑問だ。それは、ボブ・ディラン やブルース・スプリングスティーンの世代は、音楽ビジネスを自分でコントロールしてきたため、作品の権利も自分で持っているからだ。彼ら以前の世代は、そのような法的な知識もなかったために、自身の作品の権利をコントロールしたアーティストはいなかった。だが、ボブ・ディランやブルース・スプリングスティーン以降の世代は、権利ビジネスとしての音楽を理解し、すべての権利を自分でコントロールしてきた。それは彼らから今のテイラー・スウィフトに至るまで同じだ。

では、なぜ今、売るかが次の疑問だ。その答えの一つは、音楽定額配信サービスの台頭がある。これもニューヨークタイムスによれば、ビルボードのチャートの集計サービスを行うMRCデータによると、ストリーミング回数の66%は18ヶ月以上前の楽曲であると言う。しかもその数字は急速に伸びているそうだ。つまり我々は、最新のヒット曲ではなく、古い曲、自分の若かったときの曲などをストリーミングサービスで聴くと言うことだ。これは自分に当てはめて見ても理解できる。たいてい聞いているのは、高校生や大学生の時に聞いていたような曲が多い。

このために、ボブ・ディランやブルース・スプリングスティーンのような有名なアーティストの過去のヒット曲の権利は高値で評価されることになった。以前であれば、レコードやCDの発売から時間が経つと、それ自体製造もされなくなり。よって販売もされない。つまり価値がなくなっていく。しかし、定額音楽配信サービスがそれを変えた。古い楽曲であっても、自由にそれを選び出して聴くことができる。しかも世界中でそれが可能なのだ。このことによって、有名なアーティストにとって楽曲全体の価値が上がった。

それを買収する側から見れば、アーティストの作品カタログ全体の権利を評価して、それによりどれだけの利回りを得られるかと計算も可能になった。ニューヨークタイムスの記事によれば、ブルース・スプリングスティーンの楽曲からの年間の収益は毎年1,700万ドルだと言う。つまり5億5500万ドルで買収しても、それに対して毎年3%の利回りがあると言うことだ。これは、不動産や債券のように確実な投資として考えられる。

つまりアーティストにとっては、まだ、彼らの過去の楽曲を、音楽配信サービスで聴きたい人が多くいる今が、売り時と考えられる。しかしそれでもまだ、なぜ売るのかが疑問だった。しかし、記事の中にはその答えがあった。ブルース・スプリングスティーンの場合には作品の権利からの収益の1,700万ドルは毎年の所得として課税されるが、今回のような一括売却であれば、キャピタルゲインとして課税され、その率ははるかに安いと言う。72歳のブルース・スプリングスティーンは、今から彼の死後の著作権保護期間までの収益よりも、今一括で売却して、税金を安くした方が得策だと判断したのだろう。

今回のブルース・スプリングスティーンの全作品の売却は、彼の録音した音源とその著作権の両方の権利が含まれる。つまり買収したソニーは、ソニーはブルース・スプリングスティーンの音楽のすべての権利を持ち、自由に使えることになる。しかしその詳細は明らかにされていないが、ニューヨークタイムスの記事によれば、その交渉においてブルース・スプリングスティーンの有名な「Born in the U.S.A. 」と「Born to Run」のヒット曲も含めて広告に彼の作品を使うことについて話し合われたと書かれている。

ブルース・スプリングスティーンは、今まで作品を広告に使うことを許可してきていない。今年の2月に、彼はスーパーボールで放送されたジープのコマーシャルに登場して、多くの人を驚かせた。しかしそれでも、今までの彼の作品をそのコマーシャルでは使われていない。このコマーシャルのために作られたオリジナルを作曲しただけだ。多分、ソニーへの譲渡後も、広告に使うことの制限を課している可能性がある。

音楽配信サービスと言うデジタル技術は、音楽のビジネスも変えた。どんな昔の曲であっても自由にデータベースから選び聞くことができるようになって、多くの人が過去の作品を聞いている。個人的にも、もうすでにレコードは処分しているが、レコードで持っていたり、今でも持っているCDの曲を音楽配信サービスで聴いていることが多い。デジタルデータの保存と、検索の威力を思い知らされる。それを、改めて確認できたのが、ブルース・スプリングスティーンの全権利の売却だ。

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