ネットワーク化・デジタル化の進行に伴って多くの産業は変革を迫られている。デジタル・トランスフォーメーションと言う言葉は、ビジネスの中心と言っていいような言葉だ。
メディアやコミュニケーションを扱う広告業にとっても、デジタル・トランスフォーメーションは避けては通れない領域だ。ここには2つの意味がある、自社のデジタル・トランスフォーメーションを行うと、顧客のデジタル・トランスフォーメーションをどうサポートできるかである。当然のことながら、それらの業務は、テクノロジーを前提としたものである。常時接続が当たり前で、基本的に様々なコミュニケーションや購買がインターネットを通して行われる時代にあって、広告業はテクノロジーを業務の中心に据えざるを得ない。
時代の変化の例えに、いつも引用されるのは、セオドア・レヴィットの、ハーバードビジネスレビューの論文「マーケティング近視眼」である。レヴィットは鉄道会社は、自社を鉄道事業であると思い込んで、輸送事業であると言うことを理解できなかったために衰退したと書いている。鉄道会社は、自らを輸送事業と規定すれば、自動車、トラック、飛行機、電話などで、顧客のニーズを満たす方法を考えられたが、単に鉄道事業としか考えなかったために時代から取り残されたとしている。
20世紀の鉄道会社の事例は、21世紀の広告会社の課題と共通する。デジタルネットワークの時代においては、20世紀のマーケティングコミニケーションの重要な手段であった広告はテクノロジーによって大きく変化している。これに対応できなければ、20世紀の鉄道会社と同じように、広告会社も衰退する事は間違いない。
広告業のデジタルテクノロジー化を象徴するのが、米国アドエイジが毎年発表している広告会社グループランキングだ。
2021年の世界ランキングでは、Accenture Interactiveが順位を上げて、第4位になっている。Accenture Interactive以外に、ベスト10に、異業種からの参入では、PwCのPwC Digital Service、DeloitteのDeloitte Digital、IBMのIBMiXの3社がベストテン入りしている。つまり、世界の広告会社グループの利益額のランキングにおいて、ベスト10のうち4社がテクノロジー系の会社と言うことになる。
この会社以外は、以前よりこのランキングの常連である広告会社グループであるが、当然そのグループの傘下にはテクノロジーをベースとしたマーケティング・コミュニケーション・サービスを行う会社が含まれている。その意味では、20世紀の鉄道会社のような対応を、21世紀の広告会社行っていない。
ちなみにそのランキングは、以前より1位のイギリスのWPP、 2位にはアメリカのOmnicomグループ、3位にはフランスのPublicisグループ、そして4位にAccenture Interactive、5位に、アメリカのInterpublic グループ、6位に日本の電通グループ、7位にPwC Digital Serviceが入り、8位にはDeloitte Digitalで、9位が日本の博報堂DYホールディングス、そして10位がIBMiXとなっている。
このアドエイジが毎年発表している世界の広告会社グループ・ランキングは、この数年で大きく様変わりした。先に述べたようにテクノロジーをベースにして、コンサルなどの異業種からの参入企業グループがベスト10の中に4社も入っている。
当然のことながら、コミュニケーションはテクノロジーだけで成り立つものではない。そのような参入企業は、広告の制作を行えるクリエイティブエージェンシーなどを買収して、そのグループに加えて、コミュニケーションの最終的なアウトプットである広告の制作などを行う力をつけている。
例えばAccenture Interactiveは、3年前に非常に高い評価を受けていたクリエイティブエージェンシーのDroga5を買収してクリエイティブ力を強化している。そして、その買収されたDroga5を率いていたDavid DrogaがAccenture Interactiveのトップになった。広告会社出身者に経営を任せたという事だ。
日本の広告の成長期であった1960年代に、電通の中興の祖と言われる吉田秀雄は、広告は科学と芸術の融合であると言った。その当時から科学的なアプローチを行われていたが。しかしその言葉が本当に意味を持つようになったのは、デジタルネットワークにより様々なデータを収集し分析することができるようになった21世紀に入ってからだ。今は、広告はデータサイエンティストが必須の業務になった。
現時点では、広告業は、従来型の広告会社と、コンサル等の異業種からの参入企業の争いになっている。だが、例えばGoogleやMetaのような広告モデルで利益を上げているプラットフォーム企業が、マーケティングサービスの領域に参入すると、アドエイジのランキングは大きく様変わりするであろう。自らプラットフォームを運営する企業と、競争するのは、従来型の広告会社にとって厳しい戦いになる。そして、懐の深いGoogleのような会社は、良いクリエイティブ会社やタレントをいくらでも買収する事ができるであろうから。