Apple TV+が、3月のMLBとの契約に続いて、今月はMLSとの契約を行った。Apple TV+の有料契約者は、全世界で2,500万人に過ぎず、Apple製品を購入した際にプロモーションでついてくる無料視聴者がさらに5,000万人いるだけだ。億を超える契約者の他の定額映像配信サービスに比べ、遥に出遅れている。サッカーで契約者を増やす戦略か。
だが、Appleが、どこまで本気なのかよくわからない。それはコンテンツの充実にも表れている。数が少ないこともあり、話題になる作品もない。Appleは2021年現在で、バランスシート上には620億ドルのキャッシュを持っている。その気になればかなり優良なコンテンツを調達できるはずだが、NetflixやAmazonと比べて、現時点ではあまりコンテンツ投資を行っていない。あくまでもハードウェア販売のおまけのビジネスと言うことなのだろうか。
MLSの方から、今回の契約を見ると、今までテレビ放送などから9,000万ドルしか受け取っていなかったMLSに年間2億5000万ドルの放送権料で、収入アップは間違いない。制作コストの負担などはあるが、テレビ放送からは受け取れない放送権料だ。
問題は、日本のJリーグも同様だが、インターネット配信サービスだけで放送されるために、視聴者が限定されると言うデメリットがある。サッカーの人気を盛り上げるためには、高い月額使用料を払ってApple TV+を見る人だけではなく、一般の人の耳目を集める必要がある。無料のテレビ放送がないと、それができない。将来的なサッカーの発展を考えると大きな問題だ。
ただApple TV+にしてもDAZNにしても、独占することにより有料契約者を集めるところに意味があるので、通常のテレビ放送と同時にはできない。 日本のDAZNは、ごく一部の試合をローカル局にサブライセンスしているが、MLSは、それはしないようだ。
通常テレビ放送では、日本のJリーグも同様だが、視聴者も広告主も惹きつけることができず、広告放送の採算ベースにならないと言う問題もある。そのために、現時点では、日本でもアメリカでもサッカーは、プレミアリーグやリーガセリエA、UEFAチャンピオンズリーグなど優良なコンテンツでも、インターネット配信サービスによって放送されている。だからMLSにとっても選択肢はあまりなかったのかもしれない。
それでも、MLSにとって、今回のApple TV+との契約は、放送権収入という意味では、大きなステップアップだ。だが、他のサッカーのコンテンツの値段と比べれば、そうでもない。
世界のプロサッカーリーグの放送権料は下記のようになっている。
イングランド・プレミアリーグ:1シーズン16億4000万ドル、2022-2025年
ブンデスリーガ:1シーズン11億5000万ドル、2021-2025年
リーガ・エスパニョーラ:1シーズン10億4000万ドル、2022-2027年
セリエA:1シーズンあたり9億7000万ドル、2021-2024年
リーグ1: 1シーズンあたり6億1000万ドル、2021-2024年
MLS:1シーズンあたり2億5000万ドル、2023年~2032年
Jリーグ:1シーズンあたり1億5000万ドル、2017年~2028年
(Jリーグの金額は1ドルを125円換算)
MLSの契約は、日本のJリーグよりはるかに高い。
Apple TV+は、これでスポーツ分野でのコンテンツの獲得に踏み出した。この先どのような戦略を持って、スポーツを含めてコンテンツを充実させてゆくかのか注目される。