広告業界は、テクノロジーの進化、メディアの多様化、消費者の変化、そして生成AIの利用拡大により、大きな変革期を迎えている。特に、「複数のチャネルを組み合わせ、一貫性のあるブランド体験を提供すること」と「消費者一人ひとりの興味や関心に合わせた広告配信」は、今日の広告戦略において不可欠な要素となっている。
統合マーケティング
かつて、広告はテレビCMや雑誌広告など、マスメディアを中心に限られたチャネルを通じて発信されていた。しかし現在では、ウェブサイト、ソーシャルメディア、メール、アプリ、イベントなど、消費者がブランドと接するタッチポイントは多岐にわたる。
統合マーケティングとは、これらの複数のチャネルを組み合わせ、一貫性のあるブランド体験を提供することを目指す戦略だ。
例えば、あるブランドのテレビCMを見た消費者が、その後ソーシャルメディアでそのブランドの情報を検索したとする。この時、ソーシャルメディア上の情報がテレビCMの内容と矛盾していたり、ブランドのトーン&マナーが異なっていたりすると、消費者は混乱してしまう。
統合マーケティングでは、このような事態を防ぐために、各チャネルで発信するメッセージやコンテンツ、デザインなどを統一し、どのタッチポイントでブランドに接しても、一貫した体験を提供できるようにすることが重要になっている。
パーソナライズド広告
インターネットの普及により、消費者の行動データや興味関心に関するデータが収集できるようになった。このデータを活用することで、消費者一人ひとりに合わせた広告配信が可能になっている。
パーソナライズド広告とは、消費者の属性、過去の購買履歴、ウェブサイトの閲覧履歴、ソーシャルメディアでの行動などに基づいて、個々の消費者に最適な広告を表示する手法だ。
例えば、ある人が旅行好きであれば、その人に合わせた旅行先の提案広告を配信したり、過去の購買履歴に基づいて、その人が興味を持ちそうな商品の広告を配信したりすることができる。
パーソナライズド広告は、消費者の興味や関心に合致した広告を表示するため、広告の効果を高める。また、消費者にとっても、自分に合った情報を提供してくれる広告は有益である可能性がある。
生成AI:広告の未来を塗り替える可能性
近年、急速に進化している生成AIは、広告業界に大きな変革をもたらすだろう。
まず、広告コンテンツの制作を効率化・高度化することが期待される。生成AIは、テキスト、画像、動画などのコンテンツを自動生成することができる。これにより、広告制作にかかる時間やコストを大幅に削減し、より多くのコンテンツを制作することが可能になる。
また、生成AIは、既存のデータやトレンドを分析し、より効果的なコンテンツを生成することができる。例えば、過去の広告データやソーシャルメディアのトレンドを分析し、消費者の興味を引く可能性が高いコピーやデザインを生成することができる。
さらに、生成AIは、消費者の属性、行動履歴、興味関心などのデータを分析し、一人ひとりに最適な広告を生成することができる。
例えば、ある人が旅行好きであれば、その人に合わせた旅行先の提案広告を生成したり、過去の購買履歴に基づいて、その人が興味を持ちそうな商品の広告を生成したりすることができる。
また、生成AIは、広告のクリエイティブだけでなく、広告を表示するタイミングや場所も最適化することができる。
広告制作にとどまらず、今後は顧客サービスとも連動していくことが予想される。生成AIは、チャットボットやバーチャルアシスタントを通じて、広告への反応や顧客からの問い合わせにリアルタイムに対応することができる。
その際、生成AIは、顧客の行動履歴や興味関心に基づいて、パーソナライズされた情報提供やサポートを行うことができる。これにより、顧客満足度を高め、ブランドロイヤリティを向上させることができるだろう。
広告業界の構造変化
このような変化の中で、広告業界では大きな変化の流れが起きている。それはかつては広告キャンペーンの中心になっていたクリエイティブエージェンシーの相対的な地位の低下だ。
先日発表されたオムニコムによるインターパブリックの買収も、規模の経済を追求するものであって、クリエイティビティーを求めるものではなかった。
もう一つの事例としては、ピュブリシスによるレオバーネットの吸収であろう。創造性豊かなクリエイティブエージェンシーとして歴史上でも数々のキャンペーンを生み出したレオバーネットという会社はもはや存在しなくなった。ピュブリシスと合併して、レオという名前になりバーネットの名前は消えた。
このような傾向を説明するのには様々な観点があるが、やはり最大のものは、デジタル社会の到来だ。広告業界においてもデジタル技術の活用によりデータを分析した戦略の立案、メッセージの開発、メディア戦略の立案などが当たり前になった。
もちろんクリエイティビティーは重要ではあるが、生成AIによる広告制作やA/Bテストなどの様々な手法を使ってクリエイティビティーの精緻化は可能になっている。
統合マーケティングの重要性の拡大
それと同時に、統合マーケティングが重要になってきた。過去30年間にわたって重要視された統合マーケティングはさらに意味を広げた。かつての統合マーケティングも単純にテレビ広告や新聞広告だけではなく幅広いメディア環境に対応する広告キャンペーンが必要とという主張であった。
しかし、デジタル化社会の中心を担うインターネットにより、より重要なコンセプトになった。インターネットメディアSNSアプリなどより幅広いメディアをカバーする必要性が生まれている。
これを実行するためには、ウェブやアプリ、ゲームの制作システムやアプリ開発は言うに及ばず、システム会社はいうに及ばず、多くのメディアをカバーできるメディアバイイング機能の重要性が高まった。このために、広告会社はクリエイティビティーよりも規模の経済を追求しなければいけない環境になったと言える。
広告業界は、生成AI、統合マーケティング、パーソナライズド広告などの影響により、大きな変革期を迎えている。
これらの変化に対応するためには、広告会社はクリエイティビティーだけでなく、テクノロジーやデータ分析、そして多様なメディアをカバーできる能力が求められる。