日本人は快楽主義者?

by Shogo

日本人は快楽主義者という、想像もしなかったような調査結果がニュースになっていた。日本人は、しかめっ面した不機嫌な人種と、まるで反対に思っていたが間違いのようだ。 

2024年の国際調査によると、日本人の77%が「良い時間を過ごすこと」を人生の最も重要な側面の一つと考えているという。この数字はブラジル(22%)、アメリカ(28%)、フランス(47%)など他国と比較して圧倒的に高く、日本人の価値観における「楽しさ」の重要性を示している。ブラジルなどは、楽しさ全開と思っていたが違うようだ。

CountryPercentage of Respondents (%)
Japan77%
South Korea67%
France47%
Germany36%
United Kingdom34%
China30%
United States28%
Spain28%
India23%
Brazil22%

快楽主義の起源は古代ギリシャにさかのぼり、キュレネ学派のアリスティッポスは瞬間的な肉体的・感覚的快楽を善とした。一方、エピクロスの唱えた快楽主義は、現代人が想像するような美味美食や美酒に溺れる生活ではない。エピチュリアンという言葉の語源だが、いまでは逆になっている。

エピクロスにとっての快楽とは「アタラクシア」と呼ばれる「魂が掻き乱されていない静穏な状態」、つまり心の平静にあるという。日本人にとって快楽とは、このような心の平静さということなのだろうか。

どんな調査でも言えるが、言葉の定義が食い違っているために、調査結果がおかしなことになるということもある。今回の調査でも、「良い時間を過ごすこと」の定義が食い違っているということも十分に考えられる。

作家・思想家の澁澤龍彦は著書「快楽主義の哲学」の中で、快楽と幸福の違いについて考察を行っている。澁澤によれば、「快楽とは瞬間的なものであり、幸福とは持続的なものである」と定義されている。快楽は「瞬間的にぱっと燃えあがり、おどろくべき熱度に達し、みるみる燃えきってしまう花火のようなもの」であるのに対し、幸福は「静かな、あいまいな、薄ぼんやりした状態であって、波風のたたない、よどんだ沼のようなもの」だとしている。

澁澤龍彦の考察によれば、東洋的な快楽主義と西洋的な快楽主義には明確な違いがある。物質的欲望を軽蔑し、社会に背を向け、自然を共として風流に興じるのが東洋的快楽主義であるのに対し、西洋の快楽主義は精神力と物質力のありったけをつぎ込むような、生命力に満ち満ちたものとされる。

2024年の調査結果が示すように、日本人の77%が「良い時間を過ごすこと」を人生の重要な要素と考えていることは、日本人の価値観を理解する上で、よく考えなければいけいないことだろう。日本人にとっての「良い時間」は必ずしも西洋的な意味での刹那的な快楽主義とは一致しないかもしれない。むしろ、美味しい食事を楽しみ、文化活動に参加し、時には一人の時間を大切にするという、日本独自の快楽の形を意味しているのかもしれない。その意味で、「良い時間を過ごすこと」を調査で聞くのは、この複雑な、人生の目的というような哲学的な課題にたいしては、あまりにも薄っぺらい質問なのだろう。

だから、日本人は、77%も、日本人になり、東洋人なりの「良い時間を過ごすこと」人生の重要な要素と考えているということだ。

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