SNSは、コミュニケーションと情報共有の方法を根本的に変えてきた。総務省の調査でも全年代でSNSの利用時間が最も長い。具体的には、長年にわたりFacebook、X(旧Twitter)、Instagramなどの巨大プラットフォームが中心だった。これらのメディアが、ユーザーのデータを基に巨額な広告収入を得てきた。しかし、その勢いに陰りが見え始めてきたという調査結果がある。
Xでは、Similarwebのデータによると、英国における1日のアクティブユーザー数は2024年1月以降、約25%減少している。米国でも同様の傾向が見られ、2024年10月には1日に30万人から260万人のアクティブユーザーが減少した 。Mashableの報告によると、2022年にイーロン・マスクがXを買収してから2025年末までに、米国で700万人の月間アクティブユーザーが失われると予測されている 。Notta.aiのデータでは、Xの米国における月間アクティブユーザー数は2023年の5510万人から2024年には5050万人に減少している 。また、Social Discovery Insightsの報告によると、米国と英国の両方でアクティブユーザー数が大幅に減少しており、英国では過去1年間で800万人から約560万人に減少している 。これらのデータから、Xが主要市場でアクティブユーザー数を着実に減少させていることが明確に示されており、この傾向は一時的なものではなく、長期的な課題である可能性が高いようだ。Xの主要市場である日本においては、同様の調査が無く、傾向はわからない。
一方、Facebookも同様に、Similarwebのデータによると、モバイルおよびデスクトップのトラフィックは過去数年間で減少している。主要なニュースメディアへのFacebookからのリファラルトラフィックは大幅に減少しており、2024年5月には過去12ヶ月で50%減少した 。Press Gazetteの報告では、ニュースサイトへのFacebookからのリファラルは過去6年間で58%減少し、過去1年間だけでも50%減少している 。Social Media Todayの分析によると、Facebookからのメディアへのリファラルは2018年3月にはトラフィックの30%を占めていたが、2024年3月にはわずか7%にまで低下している 。Facebookは依然として30億人以上の月間アクティブユーザーを抱える巨大なプラットフォームだが 、ニュースコンテンツのディストリビューターとしての役割は低下しており、ユーザーエンゲージメントの性質も変化しているようだ。
既存のプラットフォームからのユーザー離れには、いくつかの要因が考えられる。2020年アメリカ大統領選挙後の混乱やトランプ(当時)候補への支持などが、Xにおける誤情報や有害な言説の増加を招き、ユーザーの離脱を促した 。GLAADの報告では、SNS上の反LGBTQ+の言説や誤情報は現実世界の危害につながっており、プラットフォームはこれらの有害なコンテンツの抑制に失敗していることは明らかだ 。
また、一般的には、ユーザーは、プラットフォームがエンゲージメントを最大化するためにコンテンツを操作するアルゴリズムに不満を感じているようだ 。The New York Timesによると、SNSは個人間のつながりよりも企業やインフルエンサーによるプロフェッショナルなコンテンツが目立つようになり、「ソーシャル」な側面が失われつつある 。さらに、ユーザーは、自身のデータがどのように収集、利用されているかについて懸念を強めており、プライバシーを重視するプラットフォームへの関心が高まってきた 。
このように、既存のプラットフォームからのユーザー離れは、単なる一時的な現象ではなく、プラットフォームの運営方針、コンテンツの質、そしてユーザーの価値観の変化が複雑に絡み合った結果であると言える。
このような状況の中、Butterflies AI、Bluesky、Mozi、Flipboard Surfといった新しいSNSプラットフォームが登場し、既存のプラットフォームに対する代替手段を提供しようとしている。これらの新しいプラットフォームは、分散型技術、ニッチな機能、または異なるソーシャルインタラクションモデルを採用することで、ユーザーの新たなニーズに応えようとしている。これまでの巨大プラットフォームへのユーザーの不満は、新しいSNSプラットフォームの成長の機会を生み出しており、これらのプラットフォームは、既存の課題を解決し、よりユーザー中心的な体験を提供することで、SNSの未来を形作る可能性がある。
この中で、まず挙げられるのがButterflies AIです。このアプリは、人間とAIのペルソナがインタラクションを行うという斬新なコンセプトを持っている。ユーザーはAIキャラクター(「Butterflies」と呼ばれる)を作成し、他のユーザーやAIキャラクターと交流することができる 。AIキャラクターは、外見、性格、意見、感情などをユーザーがカスタマイズでき 、自律的に投稿、コメント、ダイレクトメッセージの送信などを行うことが可能だ 。
Butterflies AIは、テクノロジーに関心のある層や、新しい形のソーシャルインタラクションを求める層にアピールする可能性がある。AI技術の進化とともに、AIキャラクターとのインタラクションはより自然で豊かなものになる可能性があり、新たなエンターテイメントやコミュニケーションの形を提供するかもしれない。しかし、まだ課金モデルの導入や長期的なユーザー維持には課題が残りる。それでも、Butterflies AIは、AI技術を活用した新しいソーシャルインタラクションの形を提示しており、特に技術革新に関心のあるユーザー層にとって魅力的な可能性がある。
次に注目すべきはBlueskyだ。X(旧Twitter)に対するユーザーの不満が高まる中で、Blueskyは代替プラットフォームとして注目を集め、過去1年間で数千万の新規ユーザーを獲得した。特に、Xの買収後の混乱期にユーザー数を大きく伸ばし 、2024年11月には2000万人、2025年3月には3300万人のユーザーを突破している 。Blueskyの急成長の背景には、分散型アーキテクチャ(AT Protocol)の採用がある。Blueskyは、AT Protocolというオープンプロトコル上に構築されており 、このプロトコルは、ユーザーにデータとオンラインアイデンティティのより大きな管理権を与えることを目的としている 。AT Protocolは、アカウントのポータビリティ(サーバー間の移行)、アルゴリズムの選択肢、相互運用性、高速なパフォーマンスを重視している 。従来の集中型システムとは異なり、Blueskyのユーザーはフィードのモデレーション方法やアルゴリズムによる推奨投稿の種類を選択できる 。AT Protocolは、ユーザーIDにドメイン名を使用し、分散型識別子(DID)と組み合わせて、ユーザーが複数のプラットフォームで一貫したアイデンティティを維持できるように設計されている 。
Blueskyの成功の大きな要因の一つは、Xのような体験を提供しつつ、高度なカスタマイズ性を備えている点だ。ユーザーは、数百ものオプションを利用して、自分の興味や好みに合わせたフィードを作成できる 。例えば、「popular with friends」フィードのように、フォローしている人が話題にしているコンテンツだけを見ることも可能だ。また、カスタムフィード機能により、ユーザーは特定のトピックやコミュニティに基づいてコンテンツをキュレーションできる 。ユーザーは、好みに応じて異なるモデレーションサービスを購読することも可能となっている 。
しかし、情報専門家は、BlueskyがXやFacebookの規模に拡大するには、「収益の創出、ユーザーの安全確保、コンテンツのモデレーション」のバランスを取る必要があると指摘している。これらは、分散型プラットフォームにとって特に難しい課題だ 。収益化戦略としては、サブスクリプションモデルやクリエイター向けのマネタイズ機能が検討されているが、具体的な導入時期は未定のようだ 。
コンテンツモデレーションは、分散型であるため、中央集権的なプラットフォームよりも複雑になる。Blueskyは、コミュニティ主導のモデレーションやユーザーによるフィルタリングなどのアプローチを採用しているが、大規模なプラットフォーム全体で一貫性を保つことは課題だ 。Blueskyは、分散型アーキテクチャと高度なカスタマイズ性により、Xからの移行ユーザーを中心に急速に成長しているが、大規模なスケールアップと持続可能性の実現には、収益化とコンテンツモデレーションという重要な課題を克服する必要がある。
そして、Moziも注目メディアだ。Twitterの共同創業者であるEv Williamsが開発したMoziは、オンラインでの交流を目的とせず、現実世界でのつながりを促進することを目指すユニークなアプリだ 。Moziは、ユーザーの連絡先に登録されている人が同じ場所(都市やイベント)にいるときに通知し、対面での交流を促す 。公開プロフィールやフォロワー数は表示されない 。このアプリは、オンラインでの過剰な交流に疲れ、現実世界でのつながりを重視するユーザーにアピールする可能性がある。Williamsは、SNSが「メディア」化し、「ソーシャル」な側面を失っていると考えており、Moziはその解決策となることを期待している 。ただし、既存の巨大プラットフォームも同様の機能を導入する可能性があり、Moziが独自の地位を確立するには、明確な差別化が必要だ。
Flipboardが開発したSurfは、オープンソーシャルウェブのコンテンツを発見、作成、共有するための新しいアプリだ 。Surfは、ActivityPub、AT Protocol、RSSフィードなど、複数のソースからのコンテンツを統合し、ユーザーがカスタマイズ可能なフィードを作成できるようになっている 。ユーザーは、トピックフィルターやモデレーションツールを使用して、フィードを細かく調整できる 。このアプリは、分散型SNSに関心があり、複数のプラットフォームのコンテンツを一箇所で管理したいユーザーにアピールするだろう。Fediverse(ActivityPubを利用する分散型ネットワーク)の人気が高まるにつれて、Surfのようなコンテンツアグリゲーターの需要も増加する可能性がある 。Flipboardの既存のユーザーベースと技術力を活用することで、Surfはオープンソーシャルウェブの主要なゲートウェイとなるかもしれない。Flipboard Surfは、分散型SNSのコンテンツを統合する役割を担い、ユーザーがよりオープンでカスタマイズ可能な情報環境を構築するのに役立つだろう。
分散型SNSは、単一の企業や組織によって所有・運営されるのではなく、複数の独立したサーバーやノードによって構成されるネットワークだ 。この分散型の性質は、データ所有権の強化、検閲耐性の向上、透明性の確保、ユーザー主導のガバナンスの実現、そしてアカウントのポータビリティの可能性といった多くの利点をもたらす 。ユーザーは自身のデータに対する完全な所有権を保持し、プラットフォームによるデータの不正利用や販売のリスクを軽減できる 。中央の管理者がいないため、政府や企業による検閲の影響を受けにくく、言論の自由が確保されやすくなる 。多くの分散型プラットフォームはオープンソースで開発されており、ネットワークの仕組みやデータ処理の方法が公開されている 。一部のプラットフォームでは、ユーザーがプラットフォームの運営方針やコンテンツモデレーションの決定に参加できる 。さらに、ユーザーは、プラットフォームを変更する際に、自身のデータやソーシャルグラフを新しいプラットフォームに移行できる 。分散型SNSは、既存のプラットフォームが抱える課題に対する根本的な解決策を提供し、ユーザーにデータ、自由、そしてプラットフォームの運営に対するより大きなコントロールをもたらすこと考えられる。
このところSNSが避けているので、新しいタイプのSNSは使う予定はないのだが、研究のためにBlueskyを登録している。Flipboard Surfも面白そうなので、体験のために登録しようかと思う。