Apple の広告ビジネス

by Shogo

Appleは顧客体験を重視し、長年にわたって広告に背を向けてきた。しかし、2016年にApple Search Adsとして、広告ビジネスに参入した。

この広告ビジネスは、App Store内の広告サービス「Apple Search Ads」で、App Storeの検索結果の上部に表示される広告枠のみであった。このために、「Search Ads」という名称が用いられていた。しかし、その後、広告掲載枠が検索タブ以外にもTodayタブや他のアプリのプロダクトページ下部へと拡大するにつれて、この名称は実態を表さなくなっていた。

そのために、Appleは、従来の「Apple Search Ads」を、新しい「Apple Ads」というブランドに変更すると今回発表した。  

Appleの広告事業拡大の背景には、ハードウェア販売の成長鈍化と、サービス部門からの収益増加という戦略的要請があると思われる 。一方で、Appleはユーザープライバシー保護に対する強いコミットメントを公言しており、その方針はApp Tracking Transparency (ATT)のような機能にも表れている 。それでも、今回のリブランディングで、広告ビジネスに本格的に取り組む宣言ともとれる。   

Apple Adsの現状

Apple Adsは、Appleのエコシステム内に深く統合された広告枠を提供するブランドであり、特にApp Store内でのアプリプロモーションに重点を置いている 。これらの広告枠は、ユーザーがアプリを発見し、ダウンロードに至るまでの様々なタッチポイントで広告主が利用できるよう設計されている。   

App Store広告枠

Todayタブ (Today Tab)

App Storeの「顔」とも言えるTodayタブは、週に5億人から6億5千万人以上が新しいアプリを発見するために訪れる最初のページであり、ここに広告を掲載することで最大限の視認性を確保できる 。広告はユーザーがタブを開いた瞬間に完全に表示され、アプリ名、アイコン、サブタイトルが際立つデザインとなっている 。広告のクリエイティブとタップ時の遷移先には、App Store Connectで設定されたカスタムプページが使用され、それが広告の背景でアニメーション表示される 。

iOS 18以降では、アプリ内の特定コンテンツへ直接誘導するリンク付き広告ページも利用可能になった 。この広告枠は、ユーザーが能動的に検索する前の段階で、幅広い層にアプリをアピールする絶好の機会を提供する 。

検索タブ (Search Tab)

ユーザーが具体的な検索キーワードを入力する前の段階、検索タブのおすすめアプリリスト最上部に広告を表示する 。これにより、アプリ探しの初期段階にいるユーザーの関心を捉えることができる 。検索タブ広告の設定はシンプルで、キーワード設定は不要、入札額を1つ設定するだけで開始できる 。検索結果広告と組み合わせることで、より広範なユーザーにリーチし、検索数を増やし、全体的な顧客獲得単価を抑えながらダウンロード数を増加させる効果が報告されている 。実際に、楽天は検索タブ広告の実施により初回購入者数が大幅に増加した事例もあるそうだ 。  

検索結果 (Search Results)

ユーザーが特定のアプリや機能を検索した際、関連性の高い検索結果リストの最上部に広告を表示する 。これはユーザーの明確な意図(検索語句)に基づいたターゲティングであり 、Appleによれば平均コンバージョン率は60%を超える非常に効果的な広告だそうだ 。広告主は自身でキーワードを選定するか、Appleが提案するキーワードを利用できる 。また、App Store Connectで設定したカスタムページを用いて、異なるキーワードテーマやオーディエンスに合わせた広告バリエーションを作成することも可能だ 。App Storeでのダウンロードの大部分(約65%)が検索直後に行われることを考えると、この広告の重要性は高い 。

プリページ – 閲覧中 (Product Pages – While Browsing / “You Might Also Like”)

他のアプリのプロダクトページをユーザーが閲覧し、ページ下部までスクロールした際に表示される「その他のおすすめ (You Might Also Like)」セクションの最上部に広告を表示する 。これは、類似アプリを積極的に比較検討している関心の高いユーザーにリーチする機会を提供する 。広告は全てのアプリカテゴリーに表示させることも、特定のカテゴリーに絞り込むことも可能である 。ただし、現在中国本土では利用できないという 。 

App Store以外の広告

Apple News & Stocks

Appleは、これらの自社アプリ内で広告枠を直接販売している 。以前はサードパーティベンダーに依存していたが、現在はバナー広告、動画広告、さらにはMet Galaのようなイベントに合わせた編集コンテンツのプレミアムスポンサーシップなどを提供している 。広告主は特定のニュースフィードをスポンサーすることも可能である 。また、米国と英国では、広告テクノロジー企業Taboolaとの提携により、これらのアプリ内でネイティブ広告を配信している 。Apple Newsに参加するメディアは、自身で販売した広告からは100%、Appleが販売した広告(バックフィル)からは70%、記事外の広告(プール)からは50%の収益分配を受けることができる 。この直接販売への移行は、Appleが広告収益源を拡大しようとしている明確な兆候だろう 。   

Apple TV+ Advertising

現在、Apple TV+における広告は限定的であり、多くの場合間接的である。基本は広告なしのサブスクリプションサービスとして提供されている 。Major League Soccer (MLS) や Friday Night Baseball といった特定のライブスポーツ中継内には広告が表示されるが、これらの広告枠はAppleではなく、リーグやパートナーによって販売されているようだ 。将来的には、NetflixやMaxのように広告付きの安価なサブスクリプション層を導入したり、他の形で広告を統合したりする可能性もあるだろう 。

現在の広告事業の収益規模

Appleは広告事業単体の収益を公式には開示しておらず、通常はサービス部門の収益に含まれている。しかし、市場調査会社やアナリストによる推計はいくつか存在する。過去には年間約40億ドルと見積もられていたが、近年その規模は急速に拡大している。2022年の広告収益は70.6億ドルと推計され 、2024年にはeMarketerが全世界で105.8億ドル 、AxiosはApple Newsの広告直接販売開始などを背景に110億ドル近くに達すると報じている 。これらの数字は、Appleの広告事業がすでに無視できない規模に成長していることを示している。   この数字は、150円換算で1兆6,500億円だから、日本のインターネット広告媒体費2兆9,617億円の半分以上に達している。

将来予測

Appleの広告事業は高い成長率を示しており、今後も拡大が続くと予測されている。App Storeエコシステム全体で見ると、iOSアプリにおけるアプリ内広告は、2021年から2022年にかけて24%という高い成長率を記録した 。このエコシステムは2022年に全世界で1.1兆ドル以上の請求・売上高を生み出し、そのうち1090億ドル(約10%)がアプリ内広告によるものだった 。Apple自身の広告プラットフォームの将来予測としては、eMarketerが2026年までに143.1億ドルに達すると予測し 、投資銀行Evercore ISIはさらに野心的に、2026年までに300億ドル規模になると予測している。この300億ドルという数字は、2021年のiPadの売上高に匹敵し、サービス全体の収益の半分弱に相当する規模であり、広告事業がAppleの主要な収益柱の一つになる可能性を示唆している。App Store自体の収益も好調で、直近の四半期成長率が13-14%に達し、サービス収益全体の二桁成長を牽引しているとの報告もある 。   

サービス部門における戦略的役割

広告事業は、Appleのサービス部門全体の成長と収益性向上に大きく貢献している 。サービス部門は、2024会計年度にはAppleの総収益の25%(962億ドル)を占めるまでに成長し、前年比13%増と最も速い成長率を記録した 。特筆すべきは、サービス部門の粗利益率が73.9%と、ハードウェア部門(37.2%)の約2倍に達する点である 。広告、App Storeの手数料、iCloud、Apple Music、Apple TV+などのサブスクリプションを含むサービス部門は、変動の大きいハードウェア販売への依存度を低減し、安定的かつ高収益な収益基盤を提供する 。実際に、ある四半期にはサービス収益が過去最高の249.7億ドルに達し、iPhone販売の伸び悩み(前年同期比5.5%増)を補って余りある16%増を記録したこともある 。   

ともかく、これまで広告ビジネスと無縁と思われてきたAppleも、これから大きく変わるようだ。これは、Netflixが辿っている道と同じだ。

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