OpenAIが、ソーシャルメディアに進出すると言うニュースを読んで驚いた。確かにGrokAIのxAIが元TwitterのXを買収したばかりだが、こちらのほうは、どちらかと言うとxAIが、業績の低迷しているXの救済的な買収だ。
だがユーザも増えてお金も集まりつつあるOpenAIがなぜソーシャルメディアに進出するのか不思議な感覚を覚えたが、いくつかの記事を読んでみて納得した。OpenAIの長期的戦略意図があるようだ。
それは、OpenAIがソーシャルメディアへの進出を検討する最大の動機の一つは、AIモデル、特に大規模言語モデル(LLM)の訓練に不可欠なリアルタイムデータの獲得にあると言うのだ。既存のウェブクロールやライセンスデータに依存する現状では、ソーシャルプラットフォームが生成する最新のコンテンツ、会話のニュアンス、社会的なトレンドといった動的な情報を捉えることが難しい。競合のXやMetaが自社プラットフォームのデータをAIモデル訓練に活用している現状を踏まえれば、データアクセスの劣位を克服することは、OpenAIにとって喫緊の課題である。
独自のソーシャルプラットフォームを構築することで、質の高いリアルタイムデータを継続的に収集し、AIモデルの知識鮮度と現実世界への適応力を向上させるという戦略が読み取れる。これは、アルゴリズム開発と並ぶ、AI競争における重要な差別化要因を確保するための、直接的かつ戦略的な一手と言えるだろう。
だが飽和状態にあるソーシャルメディア市場において、OpenAIが既存のプラットフォームと正面から競合する戦略を取るとは考えにくい。「Xライク」という表現はインターフェースの類似性を示唆するものの、その核心はChatGPTの画像生成能力に焦点を当てたソーシャルフィードにあると見られるようだ。
これは、テキスト中心のXや人間関係グラフを重視するMetaとは明確な差別化を図る戦略である。AIによる創造性に関心を持つユーザー層というニッチ市場を開拓し、独自のポジションを築くことで、既存の巨大プラットフォームとの直接的な消耗戦を避ける意図が見て取れる。また、AIによるコンテンツ生成支援という新たな価値提供を通じて、高いユーザーエンゲージメントとロイヤリティを獲得することも目指していると考えられる。これは、既存のソーシャルグラフ機能に依存しない、AIネイティブなソーシャル体験という新たな市場を創出する戦略とも解釈できる。
開発中のソーシャルプラットフォームを既存のChatGPTに統合するか、独立したアプリケーションとしてリリースするかは未定のようだが、いずれの形式を選択するにしても、OpenAIのAI能力をユーザーに直接体験させるための重要なチャネルとなるだろう。
特に画像生成能力は、ソーシャルメディア上でバイラルなトレンドを生み出す可能性を秘めており、このプラットフォームはそのショーケースとしての役割を担うことが期待される。ユーザーが生成したAIアートやコンテンツの共有を通じて、技術の認知度向上と普及を促進する戦略である。さらに、ChatGPTの巨大なユーザーベースを活用し、ソーシャルフィードを導入することで新たな広告収入源を確保するなど、収益化の多角化も視野に入れていると考えられる。これは、基盤モデルのライセンス供与に加えて、消費者向けアプリケーションを通じて収益基盤を強化する戦略の一環と捉えることができる。
OpenAIのソーシャルメディア構想は、競合他社の動きに対する明確な対抗意識の表れでもある。特に、AIチャットボット「Grok」を統合したXや、AIアシスタントアプリの開発を進めるMetaの動向は、OpenAIの戦略に大きな影響を与えていると考えられる。アルトマンCEOの「ok fine maybe we’ll do a social app」というXへの投稿は、MetaのAI戦略に対する意識的な反応と解釈できる。
メディアの分析によれば、ソーシャルメディアへの参入は、OpenAIが目指す最終目標であるAGI(汎用人工知能)の実現に向けた長期戦略においても重要な意味を持つという。CFOサラ・フライアー氏がAIエージェントをAGIへの道筋における第3フェーズと位置づけているように、OpenAIはAIが自律的にタスクを実行する能力の開発に注力している。
ソーシャルプラットフォームは、これらのAIエージェントが活動する場、あるいはA-SWEのようなエージェントによって構築される対象となる可能性を秘めている。また、ソーシャルメディアを通じて獲得される大量のユーザーインタラクションデータは、より高度なAIモデルやエージェントの開発に不可欠なフィードバックを提供する。ユーザーエンゲージメントを高め、AIの利用を促進することで、AGI実現に向けた技術開発とデータ収集を加速させるという戦略が考えられるようだ。
OpenAIのソーシャルメディア戦略は、同社が単なる基盤モデルの開発・提供者から、AIインフラの提供やアプリケーション開発も手掛ける総合的なAI企業へと進化しようとする、より広範な企業戦略の一環として捉えるべきである。大規模なインフラ投資「Stargate」計画や、AIエージェントの開発への注力は、この戦略を裏付ける動きと言える。ソーシャルメディアという消費者向けアプリケーションの開発・運営は、ユーザーへの直接的なアクセス、価値あるデータの獲得、そして新たな収益源の確保につながり、基盤モデルのライセンス供与に依存しない、より強固な事業基盤を構築する上で重要なステップとなる。これは、AIバリューチェーン全体を垂直統合し、競争優位性を確立しようとする、野心的な企業戦略を示唆している。
OpenAIのソーシャルメディア構想は、リアルタイムデータへの渇望、競争環境における差別化、AI能力のショーケースと収益化、競合他社への対抗、AGIへの長期的な道筋におけるデータとユーザーエンゲージメントの確保、そして企業戦略の進化という、多岐にわたる戦略的意図が複雑に絡み合ったものであると言えるようだ。