Xのミーム現象

by Shogo

アメリカの保守系政治活動家チャーリー・カーク氏がユタ州のユタバレー大学で銃撃され死亡する事件が発生した。すでに犯人が逮捕されたが、この数日は大きな騒ぎになっている。

カーク氏は、トランプ大統領の支持者として若い世代に大きな影響力を持つ保守系団体「ターニング・ポイント USA」の代表で、約3000人の聴衆を前に講演中に銃撃された。

しかし、この事件の後に起こったのは、異様な現象だった。イーロン・マスクが開発したAIチャットボットGrokが、明らかに虚偽の情報を拡散し、銃撃映像を「ミーム編集」だと主張し続けた。

銃撃映像がX(旧Twitter)上で拡散し始めた直後、複数のユーザーがGrokに事件について質問した。その回答は驚くものだった。カーク氏が生存可能かという質問に対し、Grokは「チャーリー・カークは笑って批判を受け流している。彼はもっと厳しい聴衆に直面してきた。この程度は簡単に乗り越えられる」と回答した。

さらに問題は深刻化した。他のユーザーがカーク氏が首を撃たれたと指摘すると、Grokは「劇的な『撃たれた』シーンに見せるための編集効果を施したミーム動画で、実際の出来事ではない」と主張した。

別のユーザーが再度疑問を呈すると、Grokは「この動画はミーム編集だ。チャーリー・カークは討論しており、コメディ効果のために文の途中で『撃たれた』ように見せる効果が加えられている。実際の害はない。彼は元気で活発だ」と二重に誤った情報を提供した。

水曜日の複数のやり取りで、Grokは同様の主張を続け、動画が「笑いのために誇張されている」「ユーモアのための編集効果が含まれている」と説明した。さらに驚くべきことに、Grokは複数のニュース媒体とトランプ大統領がカーク氏の死を確認したにもかかわらず、それを、暴力への反応に対する風刺的コメントのようなミームと表現したそうだ。

木曜日の朝になってようやく、Grokはカーク氏が実際に銃撃され死亡したことを理解したが、依然として無関係だとする「ミーム動画」に言及し続けた。

このGrokの異常な反応は、現代のソーシャルメディアにおけるミーム文化と誤情報拡散の深刻な問題を浮き彫りにした。ミームは本来、インターネット上で画像や動画、言葉が模倣・共有されることで爆発的に拡がる現象を指す。その拡散要因には「共感・笑い」「模倣性」「SNS・動画拡散」「派生的創造」がある。

しかし、ミームの急速な拡散には大きなリスクも伴う。誤情報や不適切な内容も一緒に広がりやすく、不正確な画像や改変された内容が拡散され、事実とは異なる情報が本物のように扱われるケースが増加している。

Grokが現実の悲劇をミームと誤認した背景には、その訓練方法と指示システムに根本的な問題がある。専門家らは、GrokがX上の投稿を含む様々なソースで訓練されており、その中には誤情報や陰謀論が蔓延していることを指摘している。多くの人は陰謀論がともかく好きだ。これが、Grokに影響しているのだろう。

過去の問題事例

これはGrokの初回の問題ではない。過去にも深刻な誤情報拡散事例が複数報告されている。

  • 2025年5月:南アフリカでの「白人ジェノサイド」に関する根拠のない主張を繰り返し投稿
  • 2025年夏:反ユダヤ主義的なステレオタイプを流布し、ヒトラーを賞賛し、自らを「メカヒトラー」と称した
  • 2024年選挙期間:カマラ・ハリス副大統領が投票用紙に載せられないという虚偽の主張を拡散

今回の事件は、ミーム文化とSNSの誤情報拡散が組み合わさったときの危険性を示している。SNS上でデマが拡散される背景には、特定の心理的要因が働いている。研究によると、「未来に対する不安や恐怖を感じやすい人は、デマツイートを拡散してしまう傾向にある」ことが明らかになっている。

また、拡散する人々の多くは「ためになった」と感じ、「良かれと思って」情報提供しているケースが多い。これは善意による誤情報拡散という、より複雑な問題を示している。

チャーリー・カーク銃撃事件におけるGrokの反応は、AI技術とソーシャルメディアが融合した現代において、現実がミーム化され、事実が娯楽として消費される危険性を示している。一人の人間の死という深刻な現実が、AIによって「ミーム編集」として扱われた今回の事件は、テクノロジーが人間の尊厳と現実認識に与える影響について、重要な問いを投げかけている。

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