読売新聞の発行部数は、10年ほど前までは1000万部を超えていた。「1000万部」を広告コピーにも使い、世界一の新聞であることを誇らしげに語っていた。しかしながら、2014年ごろから減少続け2021年上期には716万部まで減少している。
日本の新聞全体でも2000年の5,370万部は、2021年に3,302万部まで減少している。実に39%の減少だ。だが、アメリカでは新聞社は倒産や廃業のニュースがたくさんあるが、日本ではまだ聞かない。通常のビジネスであれば、売り上げが2割も減れば、倒産である。それが39%の減少。経費削減などの企業努力があるのだろう。
一方、アメリカでは、New York Timesが最新の数字で、910万の有料契約者を発表した。第1四半期387,000の契約者増加があったと言う。この要因の一つは、New York Timesが2月に買収したスポーツニュースの有料サイトであるThe Athleticsである。The Athleticsは、アメリカとイギリスにおいてスポーツニュースに特化したサイトで、有料契約者は120万人とされている。多くのスポーツコラムニストが記事を寄稿しており、スポーツの総合サイトである。
このThe AthleticsをNew York Timesは5億5000万ドルで買収している。この買収の際に不思議だったのは、単に契約記者やジャーナリストを増やしてスポーツの記事を増やせば、大金を払って買収する必要はないと思ったが、そうでもないらしい。
The Athleticsには200人を超えるスポーツ記者がいて、多くのスポーツについて報道している。個々の記者には、様々なコンタクトや経験があり、これをNew York Timesが独自に行うのは難しかったのだろう。
しかし、これまで、利益を出していなかったThe AthleticsをNew York Timesが経営してく黒字化することができるのだろうか。
記事だけであれば、一般ニュース、政治・経済、メディアに強いNew York Timesとスポーツニュースに特化したでThe Athleticsは良い組み合わせではある。だが、あくまでも別サイトで経営されていくので、サイトとしての相乗効果はない。また、スポーツファンに、New York Timesの方から提供できる価値もあまりないようにも思える。あるとすれば、経営統合による管理コスト・システム負担の削減や、広告販売の強化があるかもしれない。買収後もアスレティックは独立して運営されているし、New York Timesのスポーツ部門との統合の話もないようだ。
New York Timesは、2027年末までに有料契約者を1,500万人にすると発表している。この数から見ればThe Athleticsの契約者1,200,000 は、小さな数だ。
1,500万人達成のために、The Athleticsのような専門サイトを追加していく戦略なのかもしれない。実際に1月には言葉遊びのようなゲーム、Wordleを買収している。これは独立したサイトではなく、単にゲームで、New York Timesが無料で提供すると言う形をとっている。このような形でコンテンツを充実し、既にクッキングやデジタル機器紹介の別契約のサイトも拡充を図っているので、スポーツやゲームと言うような商品構成で1,500万人を達成しようとしているのかもしれない。
New York Timesは、アメリカにいた頃は、ブランド力のある著名な新聞ではあるが、ニューヨークという1地方市の新聞で、その発行部数も日本の全国紙に比べれば、はるかに少ない百数十万部程度だった。それが、デジタルの時代になって1,500万部を目指していると思うと隔世の感がある。
この背景としては、New York Timesの電子版は、全米各地の新聞がなくなった街で、地元の新聞の代わりに契約されていることも想像される。しかし、それだけではなく、積極的な新聞の電子化を進め、世界をマーケットに販売に取り組んできた結果だ。その点、言語が英語であると言う事は大きな強みである。
日本の新聞は、日経を除き電子化が遅れているのは事実である。ただしこれは日本と言うマーケットだけで、しかも新聞を読む人は高齢になっていることを考えると、電子化に取り組むのはリターンが少ないと考えているかもしれない。
もっと若い世代に対するコンテンツを提供するためには、新聞と言うブランドを使わずに、ウェブサイトを立ち上げた方が可能性がはまだある。この場合にはブランドがむしろ足かせになっている。さらにそのコンテンツを制作するための経営資源も現時点では無いのも事実である。記者は、今までのビジネスモデルに最適化されているからだ。
しかしながら、新聞社が紙に印刷したものを配ると言うビジネスではなく、人々が求めるものを、コンテンツを提供するビジネスとして考えるのが、マーケティングの王道だ。New York Timesの電子版は、全米各地の新聞がなくなった街で、地元の新聞の代わりに契約されていることも想像されのように、今までのニュースだけではなく、ゲームやクッキングといった新しい領域を開発するのも一つの方法だ。その辺に立ち返って、もう一度自分の未来を考えると言うことも必要なのかもしれない。ただし、これは言うは易し。かなり難しい課題である事は間違いない。
160人のクラスで過去1ヵ月に新聞を読んだ経験のある人を聞いたところ、3人しかいなかった。この状況を考えても、新聞の発行部数は今から20年だとほぼ消えてしまう事は間違いない。